みゅうぽんへのタロット物語り(音声読み上げように過去のものを編集したのもです)

(みゅうぽんへの物語のはじまり…)

ぼおぉーっと考え事をしてると、そよ風を感じた。気づけば、真上にあった太陽は少し降りていた。
僕の家はこの森の中にある。
この場所は少し丘のようになっているが、木洩れ日やそよ風がほどよく、いつ来ても気持ちがいいお気に入りの場所だ。

僕はこの森を知り尽くしている。
兄さんと遊びながらこの森を知った。
兄さんは父さんの下で木こりとして修行することになり一緒に遊ばなくなった。
兄さんと遊ばなくなっても、最初のうちは楽しかった。だけど、だんだん退屈になった。
この森は好きだが退屈だ。
父さんも母さんも「好きなことを仕事にするといい」と言ってくれている。
「焦らなくていい」と。
だけど、僕は仕事にしたいと思うほど興味があるものがない。

そんなことをぼんやりと考えていると、
見かけない若者が馬をひいてやってきた。
若者は言った「この森はとても良い森だね。
話に聞いて、観てみたくなって飛んできたんだ。」

若者が教えてくれた。植物の種類が豊富で、全体の調和がとてもよく取れていると。湧き水もあり、滝もあれば洞窟もある。少しだが温かい水も湧いていると。だから、色んな気温、湿度の場所があり、色んな植物や動物や虫がいると聞いたと。
父さんはこの森の調和を守るため、木こりをしながら、森を管理してる。
人間の好き勝手に手を入れるのは良くないが、入れなければ、あっという間に調和は崩れるといつも言っている。
父さんは時折、森を研究している博士の助手のようなことをしている。
博士は華奢で体力もなさそうな人だが、博士だからと威張ってはいない。何だか頼りなさそうだが、優しそうではある。
父さんは誰よりもこの森に詳しいし、力持ちで運動神経も良い。だから、博士がこの森に来たときはいつも父さんが助手のようにお世話をする。若者はその博士からこの森の話を聞いたようだ。

僕はわざわざこの森を観に来てくれたことが嬉しくなって、若者にこの森を案内することにした。
案内しながら、たくさんおしゃべりした。
僕の知らない世界をたくさん教えてくれた。
なんでも鉄の塊がたくさんの人や荷物を詰んで、ものすごいスピードで走ったりするらしい。とても遠くに行けるらしい。他にも色んな話をしてくれたが、僕の知ってる世界はこの森と隣町だけだから、 全く想像がつかない。だけど、ワクワクした。
「観てみたい!」
若者はお礼に、今度、その街を案内してくれると言った。隣町の外れで待ち合わせをすることにした。
家に帰って若者から聴いた話を夢中になってした。鉄の塊の話は父さんも母さんも知っているようだった。父さんは観たことがあると。兄さんは少しびっくりしていたが、すぐに理解ができたようだ。妹はさっぱりわけが分かってないようだが、僕が夢中になって喋っている様子が面白いようで、とてもニコニコしながら聞いていた。

そして、待ち合わせの日の早朝。
若者は馬車で迎えにきてくれていた。道中、また、僕の知らない世界の話をたくさん教えてくれた。僕はますます興奮した。
気づけばその街が見えてきていた。

街に着くと、あまりの人の多さに驚いた。
こんなにも人を避けながら歩くなんて初めてだ。つい物珍しいものに気をとられてると、直ぐに何かしらにぶつかりそうになる。
運動神経には自信があるから、直ぐに慣れて、ヒョイヒョイ避けながらキョロキョロした。
キラキラしたもの、美しい物もたくさんある。女性の服も母さんのとは大違いでキレイな色のものばかりだ。
製材所だろうか丸太がたくさんある。こんなに大量の丸太は見たことがない。
鉄の塊も見た。とにかくでかく長かった。
なんでそんなことが出来るのか理屈ではなく、実際に動くところを見たり、どんな感じか乗ってみたかったが、日が暮れる前に帰ろうと若者が言うので、仕方なく帰ることにした。
待ち合わせしていた町外れに着くと、父さんがいた。

今から若者が帰ると夜になるからと、父さんが泊まるように勧め、泊まってもらうことになった。
夕飯を皆で囲みながら、今日観たものを思い付きのまま話した。興奮で順序だててしゃべれない。所々、若者が補足してくれるので、皆も理解しやすいようだ。
興奮で眠れないかと思ったが直ぐに眠ってしまった。
そして、翌朝早くに若者は帰っていった。

僕はいつものお気に入りの場所で、あの街の出来事を何度も何度も思い返していた。意識的というより気がつけば思い返していた。

「あの街で働こう!」
そう思いつくと、一気に思考がめぐった。
大きな製材所らしきところがあった。僕も父さんの手伝いを時々するので、丸太の扱いにはなれている。力にも自信がある。力だけだったら、兄さんとも同格だ。
「やれる!」

夕飯どきにはまだ時間があったが家に帰って母さんに話した。
母さんは元教師で今でも先生の代わりに授業をすることがある。とても賢く優しい母さんでいつも僕の話をニコニコしながら聞いてくれる。頭ごなしに否定するようなことはない。だが、この話をすると母さんの顔が少し曇った。
母さんは言った。
「ここから通うには遠すぎるはね」
「住み込みで働く」と僕は言った。
母さんは少し間を置いてゆっくりと話し出した。
「その街にとても興味を持っているのね。何かに惹かれたり興味を持つことは素敵なことよ。その気持ち大事にして欲しい。
だからといって、そこでいきなり独りで暮らすのはどうかしら。その仕事をするのは。
他にやり方があるんじゃないかしら。もう少し考えてみたら、焦らなくていいのよ。」
僕は何も言い返せなかった。
父さんたちが帰ってきても、その話はしなかった。だけど、僕は諦めきれなかった。思い付いた案以外考えられなかった。
僕は置き手紙をしてあの街に行った。

早速、あの製材所に行き、ボスらしき人を見つけ雇ってくれるようにお願いした。
最初は若すぎると断られたが
大量の丸太を抱えて見せて力があるところを見せつけると、僕の性格も気に入ったと好条件で雇ってもらえた。住める場所も提供すると。

仕事は、あの鉄の塊の時間に合わせて荷の準備をしなければならなく早朝から作業は始まる。晩は晩であの鉄の塊が運んできた荷を受け取り作業するので遅くまで働く。あの鉄の塊は直ぐそこを行き来するのに、ゆっくり楽しむ余裕がない。僕がよく働き、力持ちなので、どんどん仕事をふられる。僕は一切断らずに言われるがままこなした。やれると思っていた。

ある日、さすがにその量はと思うほどの丸太を運ぶように言われ、早く終わりたかったのもあり、一気に運ぼうといつもより多くの丸太を抱え運ぼうとした。
一瞬ふらついた。
直ぐに踏ん張り建て直せる。
はずだった…
疲れが溜まりすぎていて思うように動けず
吹っ飛ばすように落としてしまった。

大惨事となった。人に怪我を負わせてしまった設備も壊してしまった。
ボスは怒り狂い、今すぐ出ていけと言われた。「今までの給金も払わない。むしろ、賠償して欲しいくらいだ。請求されないことをありがたく思え。」と言われた。

お金もなく居場所もない。日は落ち、寒空の下、人に怪我をさせてしまった罪悪感を抱えきれず、森にも帰れずトボトボと街を歩いた。


なんとも言えない感覚で目が覚めた。
「夢…?変な夢。時代も国も違うのに何だかリアルだったな。年齢も体格も違うのに感覚はしっくりきてた。」
耳元で囁き声のような音が聴こえる。
暗い中、左耳のほうに目を凝らしてみる。
「虫?虫にしては少し大きいな。妖精?」
よくある妖精の絵とは全く違うのだけど妖精とはっきり思えた。

「どうだった?どうだった?」と繰り返し妖精が言っているようだ。
「物語の主人公そのもので面白かった。最後はショックだったけどね。」と寝ぼけた声で答えた。
妖精がこの夢は今の私の悩みのコンゲンを教えようとしていると教えてくれた。
なるほどとは思うが、どうすればよかったのか、反省しようと思えば、反省点はいっぱいあるけど、そう言うことじゃなさそうだしな。
妖精がさらに教えてくれた。
この夢を書き換えることで、ヒントを得ることが出来ると。
それはぜひともしてみたい。

妖精の導きにより、もう一度、夢の中へ。


お気に入りの場所でぼおぉーっと考え事をしてた。
兄さんと遊べなくなって退屈だ。
「そうだ!妹と遊んでみよう!」
妹はおとなしいので一緒に遊ぼうと思ったことがなかった。

急いで家に帰り妹を誘うと嬉しそうだ。
一緒に遊びたかったのか?
母さんに妹と遊んでくると言うと少し驚いていたが、母さんも嬉しそうに見送ってくれた。

妹と森の中を歩いているつもりだったが
居ない。びっくりして振り返ると、遅れて必死に早歩きしている。
「しまった。いつもの自分のペースで歩いてしまった。」
妹を意識しながら歩くようにする。
僕は妹に森を案内しようと
「あの木の幹に穴があるだろう?」と指差し話しかけると、妹の身長ではよく見えないようだ。抱き抱え見せてあげる。
近くで観るのは初めてらしく興奮している。妹でも出来ること、妹が喜びそうなこと、安全も確保しつつ一緒に遊んだ。
そう意識して遊んでると、今までの森の印象が少し変わった。植物が豊富なだけではない、暮らしやすいだけではない、遊びの場がたくさんあるだけじゃない。
何かはよくわからないど、もっと違った意味の豊かさもある。この森は色んな意味で深い。
この森を知ってるつもりでいたけど、この森の素晴らしさのほんのヒトカケラを知ってるだけなんだ。
「もっと知りたい!」
そう思うとワクワクしてきた。
妹も遊び疲れたので、おぶって帰る道のり、森を見渡しながら、僕の心が温かくキラキラするのを感じた。

夕飯を囲みながら、今日のことを話した。
上手くしゃべれないのだけど、感じたことを、自分なりに、伝わるように言葉を選びながら。
すると父さんが、今度、博士が来たら、一緒に来いと言ってくれた。
そして、博士が来る度に、着いていった。他の森の話も色々聞いた。面白くて仕方がない。しばらくするとこの森の助手を僕一人で任せてもらえるようになった。
僕のやりたいことかと言うとわからない。好きだけど気持ちがぼんやりしている。だけど、森について知ることは面白い。ワクワクする。

ある時、博士が、正式に助手にならないかと言ってくれた。
住み込みで、それなりの給金も払うと。
一緒に色んな森を巡り、論文の手伝いもして欲しいと。
僕は思ってもみなかったので、戸惑った。
博士は考える時間もくれた。

考えているうちに、やってみたいという気持ちが湧いてきた。
学校の勉強は嫌いだったから論文だなんて想像つかないし、給金をもらえる仕事としてどこまで出来るかわからないし、考えると怖くなるけど、「やってみたい」は消えない。
答えを出せないまま、家族に話してみた。この不安な気持ちも合わせて。

皆、喜んでくれた。
父さんは「森の危険性もわかってきている。わかってないこともあることもわかってきている。だから、お前は適任だ。」
母さんは「あなたは勉強嫌いではなく実用性を感じきれずに興味が湧かなかっただけ。今は興味があるのだから、今、勉強すれば楽しくたくさんのことを学び吸収できる。その興味があることに詳しい博士の下で勉強出来るなんて素晴らしいわ。」
兄さんは「お前は賢く好奇心が旺盛だ。だから、いつかこの森では物足りなくなるだろうと思ってたよ。この森は俺に任せてくれ。」
妹は皆を見渡しながらニコニコしている。妹は人の気持ちを汲み取れる子なんだ。今思うと、あの時、妹が僕の誘いに乗ってくれたお陰なんだよな。妹は一人で遊べるし、与えられた環境で楽しんでられる。
だから、わざわざ僕と森で遊ぶ必要はなかったのに、何かを察してか喜んで着いてきてくれたのだろう。
次に、博士が来たとき、僕は助手にして欲しいとお願いした。
家族に見送られながら、僕は博士と共に森を出た。


私は目が覚めた。
日が登り始めている。
妖精はいない。
どこからどこまでが夢なのか。
全部夢なのか。
ぼおぉーっとしてあまり考えられない。

「どうだった?どうだった?」と左耳から聴こえたような気がした。

(おしまい)

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