問題振り返り⑰.コース別R「ミステリ詳しくないけど」コース(1)

 コース別ラウンドも、このコースが最後です。「ミステリ詳しくないけど」コースは、ミステリにそんなに詳しくなくても競技クイズに親しんでいたり、勘が鋭ければ正解できるような問題を並べました。一番楽しみながら作問したコースでもあります。

 No.200「ミステリ界では『シャドー81』を書いたルシアン・ネイハムが有名な、ヒット作を1作だけ/生みだした人のことを俗に何というでしょう?」
 A.一発屋
 この問題は、製作時には「ルシアン・ネイハムや古泉迦十らが有名な~」としていたのですが、存命の人物を一発屋として扱うのは失礼にあたるという意見があり問題文を変更しました。すると、2023年5月には『火蛾』が文庫化し重版もされ、11月には2024年中に新作『崑崙奴』の出版予定が発表されるという事態が起こりました。古泉迦十の新作が読める日がくるとは思いもしませんでしたが、楽しみに待ちたいと思います。『火蛾』をまだ読まれていない方はこれを機にぜひ読んでみてください。イスラム神秘主義を題材にとったスマートな本格ミステリです。

 No.202「岡嶋二人の小説『三度目ならばABC』に登場する主人公の2人は周囲から「山本山コンビ」と呼ばれて/いますが、それはなぜでしょう?」
 A.2人とも名前が回文だから(織田貞夫と土佐美郷)
 岡嶋二人は徳山諄一と井上泉(井上夢人)による合作のペンネームです。乱歩賞受賞作の『焦茶色のパステル』や、当時のコンピューターの先端技術を駆使した『99%の誘拐』や『クラインの壺』が有名です。競技クイズ界隈ではほぼ『クラインの壺』しか出題されないので、今回は他の切り口で出題しました。以前、別の問題集で「『そして扉が閉ざされた』で舞台となる、扉が閉ざされた施設は何でしょう?」といった趣旨の問題文を見かけた記憶があります。文章はきれいだしネタバレにもなっていないし、これは最高に良い問題文ですね。
 とはいえ、何といっても岡嶋二人の大傑作は、コンビ解消後に井上夢人が発表した『おかしな二人:岡嶋二人盛衰記』です。デビュー前にコンビを組んで乱歩賞を目指すところから、デビュー後の合作の方法や各作品を作る苦心譚まですべてが書かれています。ほぼすべての作品のネタバレも含めた解説をしているので、気になる作品だけ先に読んでから取り掛かった方が良いかもしれません。
 コンビ解消後、井上泉は井上夢人名義で小説家として活動し、やはりコンピューターの知識を扱った『パワー・オフ』や、岡嶋時代から続くユーモアあふれる筆致で『風が吹けば桶屋が儲かる』や『もつれっぱなし』などの経過な作品も多く発表しています。

 No.206「深い穴に落ちてしまった兄弟が極限状態を生き抜きながら穴からの脱出を試みる姿を描いた、スペインの作家イバン・レピラの小説で、そのタイトルはこの問題文の冒頭に出ていたものは/何でしょう?」
 A.『深い穴に落ちてしまった』
 この問題文もこのコースでしか出せないものですね。ネタのようにして出題してしまいましたが、この作品は大傑作なのでぜひとも多くの方に読んでほしいです。ちょうどこのミステリオープンが開催される直前に文庫化されました。
 素数だけの章立てや、現実なのか妄想なのか良く分からない穴の中での描写など、幻想的な部分が多いですが読みづらくはありません。彼ら兄弟が穴からの脱出を何としてでもやり遂げようとする理由や、そもそも穴に落ちてしまった事情などが明かされたとき、きっとこの作品がミステリオープンで出題された理由も分かるのではないでしょうか。
 ちなみに同様の問題構造でアンドリュー・カウフマンの『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』も出題の候補にしていました。これもタイトルと同内容の事件が描かれている寓話めいた面白い作品です。ちょうどいま花總まり/谷原章介主演の舞台も公開されています。

 今回はここまでにして、また次回続きを振り返っていきましょう。

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