❸お礼

 翌朝、さくらの母は「雅さんにお礼を持っていきなさい」と娘に和菓子を持たせた。菓子の入った紙袋は、さくらが両手でやっと持てるくらいの大きさである。さくらは和菓子が少し苦手である。彼女は多少煩雑に思いながらもそれを持ち、黄色い帽子をかぶり、小学校へと向かった。

 途中、黄色い帽子たちと合流し、教室で大声をあげて人の目を引こうとするタイプの帽子にその紙袋は何かと問われた。さくらは「計算ドリル12ページ」と言った。少年の顔が俄かにくしゃっとなった。「けんじくん、今日当たるから。聞かれても前みたいに教えないからね」と言って早足で学校へと向かった。

 さくらは、放課後、一番の友達の明美と公園の遊具で遊んでいた。特に、ぐるぐる回る球体の遊具がお気に入りだ。回っているだけなのに、どうしてあんなに楽しいのだろう。自分ではないものに動かされているからだろうか。それも一因な気がする。その遊びも一段落し、ふと明美に雅の話をしようとして、やっとベンチに置いたままの和菓子のことを思い出した。時刻は18:30。床に入る時間ではない。でも早く帰らないと父と母に叱られる。とりあえず、和菓子だけ置いてこようと思い、明美に別れを告げ、雅の家まで急いだ。

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