完全犯罪

まず、完全犯罪という言葉の定義から。
犯罪の証拠をまったく残さないで行われた犯罪(コトバンクより)
犯行の手口が社会的に露見せずに犯人が捕まらない犯罪(Wikipediaより)
いずれも似たようなものです。基本的にはこれで良いでしょう。

では、どういう時に完全犯罪となるかを、Wikipediaの記述内の項目より考察してみましょう。
1.犯行が露見しない
2.被害者が見つからない
3.加害者が判明しない
4.証拠が見つからない
5.トリック(犯行の手法)が見破られない
6.法的に裁かれない
7.(時効などで)加害者が捕まらない
1や2は完全犯罪の中でも完全度が高いと言えるでしょう。被害者が見つからなければそもそも犯行は露見せず、1と2は同一と考えた方が早いかもしれませんが。
よく登場し、そしてよく目指される完全犯罪は3のパターンでしょうか。被害者が発見され、犯行が行われた形跡(明らかに殺人だと思われるなど)があるものの、誰がやったのかわからない。推理小説でよく見られる導入です。完全性としては1,2の下位ではあるものの、犯行が露見しなければ捜査は行いようが無く、推理小説として成り立たなくなってしまいますので、この辺で妥協するのが無難でしょうか。こう思うと、探偵や警察はどうしても受動的な存在なのだと思わせてくれます。
4も推理小説でよく見られる光景です。状況証拠などによって犯人の目星はついた。でも証拠が無い……みたいな。これだと完全性は相当に低いと言わざるを得ません。たとえ物的証拠が見つからなくても、状況証拠などによって犯人が確定してしまっていれば、裁判をしたら負けそうです。証拠を残さない、というのが状況証拠もという意味であればまた変わってきますが、その状況だとそもそも加害者が判明せず、3のパターンに入ってきそうです。書く上では、初めからこのパターンを目指すのではなく、何らかのミスをした結果4のパターンに入ってきた、みたいにするのが良さそうな感じがします。
5……が起こる状況ってどういうものでしょうか。犯人を示す証拠は見つかってるけどその際に行われたトリックがわからないってあまり見ないと思うのですが。犯人を示す証拠を見つけた時点で、その証拠によりトリックもほぼ想像されてしまう姿しか思い浮かびません。逆はあるのですよね。トリックは大体想像がついたけどそれを示す証拠が無い、というのは。そもそも、書かれた順番=完全性の高さではない、と言われればそれまでなのですが。流石にそこまで考えて列挙したわけでも無さそうですし。
6は殺人事件ではまず見られませんが(殺人が犯罪だから法的に裁かれないことは有り得ない)、詐欺とかの関連ではよく登場します。裁く法が無いからセーフというのは、裏をかく手法としてはアリだし書いてても見てても面白いとは思うのですが、完全犯罪としてはどうなのでしょうか?どういうことが行われたかは大体わかるから手法、証拠はほぼ透けてしまいますし、被害者が加害者から損害を受けたという意識(事実もですが)は確実に残ってしまうので、民事裁判とかやったら負けそうな気がするんですよね。裁判については全くの不案内なので、この辺に関しては突っ込みが欲しいところです。それはともかく、”証拠を残さない”、”手口が社会的に露見しない”という言葉の定義を考えると、完全犯罪の枠からは外れてしまっているように思います。もっと別の何かだと考えた方が早いでしょう。
7は実際の事件以外ではまず見られません。推理小説で犯人がわかったのに逃げ切られるなんて興覚めもいいところです。これは……犯人がわかっていれば完全犯罪とは呼べないのではないでしょうか。手口がわかり、証拠が残っているから犯人がわかったとなっているはずです。これだとただの逃げ切りで、完全犯罪とは別の何かでしょう。逆に、犯人がわかっていなければ、3のパターン(加害者が判明しない)に入るのではないでしょうか。その最終地点として語られるものではないでしょうか。

いずれのパターンにおいても、犯人が完全犯罪を目指すということは、犯罪を犯しながら後の憂いを逃れることです。ここに間違いはないでしょう。犯行を行い、捕まらず、裁かれず、恨みも残さない。これこそ完全犯罪オブ完全犯罪。こう考えるとやはり6のパターンは被害者からの恨みが残りがちということで、完全犯罪からは外れてるように思えてきます。まあ私個人の話をすると、推理小説で6のパターンなんてまず見ないからどちらでもいいと言えばそうなのですが……7の犯人がわかっている時も、同様に被害者側からの恨みが残るということで、やはり完全犯罪から外れるように思われます。