いじめの後に

※この物語はフィクションです。
登場人物の名前は特定の誰かを指すものではありませんし、私の職種とも無関係なので、実際にこのような事を行っているかはわかりません。

これぐらいの注意書きはしておくべきか。



私はいじめ対策の相談員の仕事をして数年になる。
あまり気分の良い仕事ではないが、その分上手く運んだ時の喜びや安心感はひとしおだ。
ここ最近あまり依頼がなく、こんな仕事は暇な方がいいものだとのんびり構えていると、一本の電話がかかってきた。

高校一年生の田野英一だと名乗り、いじめの状況を赤裸々に話された。
勿論疑ってなどいないことを断った上で、証拠を掴むためにその時の状況を録音したものがあるか尋ねると、持っているとのことだった。
会う場所を指定し、録音したものを聞かせてもらうと、死ねだのなんだのという聞くに耐えない暴言の嵐で、眉を顰めずにはいられなかった。
これなら警察に持っていけば対処してくれると思い、その足で英一くんと一緒に警察署に行くと、係の人は非常に親身に話を聞いてくれて、すぐに刑事事件としての手続きを始めてくれた。
二日後には英一くんの通う学校に警察が現れ、主だったメンバーは全て逮捕される運びとなったのだった。

事件がある程度落ち着きを見せたあたりで、これで楽しんでくるといいと言い、一枚のテーマパークのチケットを渡した。あまり声の大きい子では無いが、それにしても聞き取れないぐらいの声でありがとうございますと言っていた。顔も強張っていた。
人の多い所はあまり好きでは無いと雑談で言っていたから、あまりああいった場所は嬉しくなかったのかな?と少し後悔した。

数日後、テーマパークで英一くんが自殺したことが報じられた。日記には「あの人にまでこんなことを言われるとは」と書かれていたらしい。

上司には厳しく叱責され、いじめ事件を担当してくれた警官には、
「何か言われたんだとしたらあなたぐらいしか可能性が無い。一体何を言ったんだ?」
と、激怒がありありと伝わる剣幕で電話が来た。
全く身に覚えの無い私は、英一くんとした話を思い出しながら伝えた。私も英一くんも口数の多い方では無かったので、話した内容も多くなく、思い出すのは大した作業ではなかった。
一分ほどの沈黙の後に、
「怒鳴って済まなかった。ぼくの考えが正しければあなたは何一つ悪くない」
とだけ言われて電話が切られた。

自殺のトリガーは一体何だったのだろうか?