将来の夢 : 星

 元カノに振られて1年と1週間になった。元カノに振られたのが昨日のことのように感じる。というより、振られた翌日よりも今日の方が元カノに振られたことをよっぽどリアルに感じられる。僕はかなり孤独になった。元カノに振られた翌日はまだ僕は東京にいて大学にも通っていたし、当時はパニックというか夢うつつといった感じで狂って戦ってしまったので、何も感じてはいなかった。

 星はめっちゃ光る。曇っていなければ毎日変わらない星を見ることができる。元カノのことを毎日想起している。想起される元カノは、毎日変わらない。いつも美しくかわいいままだ。

 人は死ねば星になるという。夢があるというよりは、救いがある話だと思う。星は毎日頑張って光っている。星を見ることで、「おっ、今日も頑張っとるな」と変わらない姿に少し励まされる。人は老いたり狂ったりするが、星はずっとそのままだ。良くなったり悪くなったりする人間よりも、死んで星になった人間の方が見ててよっぽど落ち着いて見ていられる。変わらないものはすごい素敵だ。元カノと別れて、僕は元カノとの永遠に変わらない関係を得た。昔よりずっと元カノと一緒にいられるようになった。星は失われることがない。ずっとそこにある。俺も頑張っているぞ。

 僕は星になりたい。なにも死にたいということではないが。僕はもうけっこう人生について「やり尽くした」という感じがしてきている。あれが欲しいとか、あそこに行ってみたいとか、そういうアクティブ型の人生の目標って僕にはもうぜんぜんなくて、毎日寝て暮らしたいとかそういうパッシブ型の目標しかない。仙人とか星とか、そういう類の存在になることを欲している。いや、もうなっているのか。

 「もう一年になる。少し会って話をしてみないか」と、元カノに連絡したくなってしまった。いや、そんなことはできないのだ。元カノはもう変わってしまっている。星じゃないからだ。僕が見ているのは星であって、いま生きている元カノじゃない。会いたいと思っている対象と、働きかけることができる対象はもう永遠にズレてしまっているのだ。はっきり言って僕は生きている元カノに対して何をしてもキモくなってしまうだろうから、そんなことはするべきではない。過去の僕はとても偉くて先見の明があり、そういった誘惑に負けないように連絡手段は先んじて潰してしまってある。ああ、元カノに会いたい。

 やっぱり僕は死にたいのではないかとも思わなくもない。仕事がつらいとかそういうこともなく、それなりに順調に暮らしてはいるのだが、やはり僕が求めているものってどこまでも永遠なるものだ。黄金とか星とかってすごくて、永遠に錆びたりしないしずっと光っている。死んだらわりと星になると思う。元カノがまだ彼女だったころ、僕はとても死ぬのが怖かったけど、いまはぜんぜん怖くはない。タバコを吸っても健康の影響とかまったく気にしないでいられるようになった。彼女がいたときは、とても死ねる感じはなかったけど、いまはなんの未練もない。生きている元カノは僕が死んだら何か多少思うかもしれないが、星はそんなこと何も気にしないだろう。

 今日は晴れだ。星が見える。チカチカと光るヤツもいる。おそらく元カノだ。僕にあいさつをしているんだろう。僕も応えて手を挙げる。いつまでも一緒だ。

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