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ヘルシンキ生活の練習

桜庭一樹さんのSNSを見て、読みたくなった本。

涼しげな(寒そうな)北欧らしいオシャレな装丁だったので
内容も「フィンランドで生活しています。オシャレでしょう?
マリメッコですよ。フフ」みたいな小説家なと想像した。
けれど、良い意味で裏切られた。

まず、会話体はコッテコテの関西弁だった。
作者が京都出身なので随所にツッコミが入っている。
それが良い意味で、敷居が下がった感じがした。

例えて言うと、「日本でも韓国でもない国に住みたい。
極東から来た猿の一味くらいに思われてもかまわない」
という文章があって「さすが関西人!」と膝を打った。
そう、私たちはよそに行けば同じ極東の猿なのだ。

一番、印象深かったのはスキルの話。

上手にできることは「練習ができているスキル」で
まだ上手にできないことは「練習する必要があるスキル」
だという考え方。
子どもの保育園で先生に言われた言葉なのだけれど、
読みながら目からうろこだった。

「できないこと」は練習することが可能な技術であり
それは死ぬまで一生学びつづけることができる。

そうすると、良い悪い、できるできないという発想はなくなる。
あるのは、まだ「練習中」のスキルだという事実だけだ。

上手にできないことで凹んだりするけれど、
まだ練習中だと思えば、もっと続けようと思える。

もう一つ。
フィンランドは日照時間が短く暗い日が多い。
そして税金が高い。
たいていのものがなく、あっても高く、
心躍るショッピングモールもなく、
おいしいレストランもほとんど見当たらない。

それが欲望を刺激されず、心静かに過ごせ
心が落ち着くというのだ。
すごく、わかる気がする。

私たちは、少なくとも今の日本は適度に恵まれている。
けれど、恵まれていることを認識できる機会はそう多くない。
ニュースは絶えずこれから不幸になることを伝えるし
どうしても隣の芝生が青く見える。

でも、どんな素敵な都市に住んでいても、
隣の芝生は青い、と作者は言う。

そして、作者が導き出した解決策は一つ提示されていて、
「まさしくそれ!すべての根源はそれだ」と思った。

読んでいると、長い問いの真理の前髪がつかめるような手ごたえがあった。
思いがけず、良い本に出会えた。

こういう出会いがあるから、読書はやめられない。
人の勧める本でピンとくるものがあったらドンドン読もうと
改めて思った。







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