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ビジネスパートナー

「男の一人も連れて来れんのか!」と父に胸ぐらをつかまれてから30年。来年1月で結婚29年になる。

巷では両親が離婚したり、親が暴力をふるったり、ネグレクトされたり・・・という家庭があるなかで、実家の両親が揃っていたのは、幸せだったと思う。でも、よく喧嘩をしていた。恋愛結婚であることを、ことあるごとに自慢していたのに。長女の私は母の愚痴の聞き役だった。

だから、結婚に夢なんてなかった。仕事に生きなければいけないと思った。でも、男女雇用機会均等法ができたものの、総合職とは名ばかりのお飾り。ああ、ここで長く働けないなと思った。

早々と会社を辞めて、海外に渡った友人が、「こっちに空きができたから、おいでよ」と誘ってくれた。でも、彼氏もいないし、結婚するかどうかも分からないのに、正社員という地位を捨ててまで行く勇気が持てなかった。そうこうしているうちに、友人は次々と結婚していく。平気なふりをしていたが、内心穏やかではなかった。

親もうるさかった。親からの紹介はイヤだったけれど、お見合いをした。二人めのお見合い相手が父のイチオシだった。断ったら、激怒された。もう限界だな、次のお見合い相手がダメだったら家を出ようと思った。

その”次の相手”が夫だった。

「30分同じ空気を吸えたこと」

この一点で結婚を決めた。

本当は、男尊女卑じゃない人、肥満家系でない人、運動神経が私よりマシな人が良かったのだけれど。夫は、男尊女卑(今はそうでもないけれど)、肥満家系、運動神経イマイチ。

とにかく、この苦しい状況を一刻も早く抜け出したかったから、目をつぶることにした。イヤになったらいつでも逃げ出せばいいと。


夫は外面がいい。周囲は、私がどうでもいいと思っていることを褒め称える。そして、いいダンナさんで良かったね、と私に言う。私からすれば、バカヤロウ!だ。今は、じゃあ、代わってあげようか?と言いたくなるが、くだらない話が長くなるのが見えているから黙っている。

弟夫婦は、学生時代からつきあっていた仲のいい夫婦だ。羨ましくなかったと言えば嘘になるけれど、今となっては、ああいう夫婦関係は私には向いていなかったと思う。

弟夫婦が友達関係ならば、私たちはビジネス関係。好きなことの方向は全然違う。子育て、仕事をひっくるめた家庭経営を協力して進める。それ以外でいっしょにできるものはほとんどない。

今回、家庭経営の一環として、高齢の姑のところに私一人が乗り込む。姑の一人暮らしもそろそろ限界で、夫が行けないから私一人ということだ。間違っても良い嫁をやりたいのではない。

でも、周囲はそう見ないのが面白い。いいお嫁さんだねとあちこちで言われる。これも、フェミニズムのおかげ。今時、本当に珍しいようだ。

私からすれば、ごはんを作ってもらえるし、やりたいこともできる。”ボケ防止のため”に私も何かやっているほうが、姑も安心するから。


夫に、私のどこが良くて結婚を決めたの?と聞くと、「手がかからないこと」と言う。放っておいても大丈夫ということらしい。本当は、会社を続ける理由が欲しかったときに、たまたま出会ったから、ということはバレている。私も結婚という逃げ道が欲しかったときに出会った人だ。お互い様。


今日は11月22日で、いい夫婦の日なんだそうだ。色々な夫婦の形がある。この人じゃなきゃ、といって結婚した夫婦もいるだろう。私たちはお互いの利害関係のタイミングが合ったという理由だけで結婚した。でも、実家の両親よりはるかに喧嘩をしなかった。お互いに便利だから夫婦をやっている。よくも悪くも情が無いからだと思う。


(タイトル画像:『100万回生きたねこ』より)


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