風吹く冷夏 11日目
クライストチャーチで10日あまりを過ごした。車があれば一周するのに3分とかからない小さな街だ。
季節は夏の終わり頃。カラッとした気候で、山から降りてきた涼しい風に吹き荒らされる毎日だった。
背の低いビルの隙間を縫うように走るトラムは、おかしな表現だがミニチュアを大きくしたような見た目で、どれも色鮮やかで可愛いデザインだ。線路がショッピングモールの中を突っ切って敷かれている光景は、そこはかとなく幼少期に遊んだプラレールを想起させるものだった。椅子の脚の周りを通すのが特にお気に入りだったことを記憶している。
興味が唆られなかったので飲食店には一度も入らなかったが、一度くらいコーヒーを飲めば良かったと少し後悔している。
中央の広場には露店が展開されており、怪しげなマオリのネックレスや不思議な紋様の入ったリュックサックが売られていた。
日本で例えると札幌のような、地方都市にあたるこの街を目的として訪問する機会は今後きっとない。
しかし、新しく出来たH&Mに行列が出来てしまう、こんな可愛い街は、他の先進国を探せど見つからない筈だ。
一泊1000円足らずの宿の二段ベッドの上段。この街の観光にあたって、これほど適した場所も無いだろう。運が良かった。
夏暑く、冬寒い。生まれて日の浅い私はそういった季節をこよなく愛している。
まぁ、たまにはいいじゃないか、冷夏も。時刻は夜8時。サマータイムのせいでまだまだ外は明るい。涼しい風にもう少しだけ身体をさらして匂いを覚えたら、明日は早いので眠りに就こう。二段ベッドの上段で。
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