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備忘録 母との確執について《後編》

そう、甘かったのだ。私自身の考え方を変えようと努力しても、その努力を上回って精神の安寧を侵してくるのが母親だった。それを最近思い知った。

それは私の結婚式に対してのことだった。

3兄弟の中で、私と妹が既婚だ。妹のほうが先に結婚していて、結婚式も開いた。家族や友人、職場の人たちも呼ぶ50人~100人規模くらいの結婚式だった。とても良い式だった。妹は結婚式をしたくてやった。母親は大満足だった。

対して、私は結婚式に興味がない。旦那も興味がなく、私がしたいならしてもいいんじゃない、というスタンスだ。お互い仕事も忙しく、結婚式は挙げるつもりがない。これは、結婚当初からお互いの親に伝えていた。

もちろん、結婚式が、お互いの親戚や知人へのお披露目になり、正式に結婚した二人を認めてもらう場となることは承知している。承知しているが、やるかどうかは二人の問題である。お金や時間をやりくりするのも私達だ。その私達のやる気が無いのだから、どうしようもないのだ。

旦那の両親はで旦那や私の考えに理解がある人たちだ。だから、結婚式をやらないことを咎めることは無かった。ある程度の距離を保って、やりたいようにすればいいというスタンスの旦那の両親にすごく好感を持っている。私の父親もそのスタンスだ。

問題は私の母親である。「結婚式はやらない」と何度も伝えているのに、電話を掛けてくる度に「結婚式はまだか」と言ってくるのだ。このやり取りを結婚当初からしているから、3年くらい繰り返していることになる。最初は、優しく対応していた。「結婚式はやらないよ。お金もかかるし、仕事が忙しいし、やるつもりはないよ。」と。けれど、全く受け入れるつもりはないらしく、「結婚式はまだか」と言い続けてくるのだ。けれど、私にやる気が無いのだ。私ができるのは、根気強く「やらない」と伝えることだけだった。

昨年子どもが産まれた。妹にも子供がいるので、両親にとって2人目の孫だ。コロナ禍に出産したので、お互いの両親は子どもに1度も会ったことがない。最近携帯を持ち始めた母親から、ちょくちょくLineのテレビ電話が掛かってくるようになった。実家に帰れない分、かかってくる電話に毎回出るようにした。それ自体は別によかったのだ。電話の最後に必ず「結婚はまだか」と言ってくることを除けば。電話の頻度が増えるということは「結婚はまだか」の頻度も同じように増えるということだった。

どんなに優しく諭しても、「自分の常識から外れることを許せない」と考える人間に響くことは無いのだ。あまりにもしつこい催促に、私は我慢の限界だった。結果、喧嘩した。

「何度も、結婚式はやらないと言っている。興味がないからだ。やりたくないことを無理やりやることに意味を見出せない。今のご時世、結婚式をやらない人も増えている。なぜ強制しようとするのか。これ以降も言ってくるようだったら、もう縁を切る。」

母親は散々わめき、いきなり電話を切った。腹が立ったので再度電話をかけたが出なかった。少し時間をおいてから、実家の家電に「お父さん、折り返してほしい」と留守電を残した。父は携帯を持っていないので、この手段でしか連絡がとれない。3時間後くらいに父から折り返しがきた。感情の限界を超えてしまったため、泣きながら母とのやり取りを報告し、もう何も催促されたくない、母に支配されたくないと訴えた。

「泣くほど嫌なのか。」

と父は狼狽えていた。もう無理だと伝えた。父も私と母の板挟みでキツイだろうに。父との電話を切った後に妹にも相談した。この状況を、もし妹だったらどうするか教えてくれと。妹は要領がよく、母親の扱いがうまい。

「それは大変だったね。じゃあ、ウェディングフォト撮るのはどう?結婚式やりたいのって、ウエディング姿見たいからじゃないの?」

なるほど、採用だ。さっそく再度留守電にいれて父に折り返してもらい、ウエディングフォトを撮るのはどうかと提案した。旦那の両親は仕事もあるし遠方で来てもらうのは大変なので、撮るなら私の両親だけ来てもらうことになるが、と。これなら折衷案としてはいいのではないか。私も、写真くらいだったら撮ってもいいと思った。正直、これ以上の譲歩はできない。これで勘弁してくれと思った。

母は納得しなかった。なぜ旦那側の両親は来ないのかと言った。仕事をしてるし、遠いので無理やり来てもらうのは申し訳ないことを伝えた。私の両親は仕事をしてないのでいつでも都合つくだろうが、旦那の両親は仕事をしているので、お互いの休みを合わせるのは難しい。こちらのわがままに付き合わせるのは心苦しいのだ。母はまたさんざんわめき散らし、電話を切った。自分の理想の形にならないのが気に食わないらしい。つたない日本語でLineが来た。「お前は私の娘ではない。」と。

そうか、と私のなかで何かがプツンと切れた。もういいや。そっちがその気なら、もう私は関わるつもりはない。子どもの成長を伝える義務もないだろう。再度父に折り返してもらい、母からのLine内容を伝え、もう無理だと話した。とりあえず、ウェディングフォトは撮るつもりでいるから、来たかったら来てくれてもいい。けれど、私はしばらく母とは連絡取らない。

父には本当に申し訳ないと思う。母は精神を患っているからか変な収集癖もあり、実家には100着以上のドレスと、最近集めだしたティアラが大量にあるらしい。年金暮らしだからお金は大切に使ってほしいところだが、父が咎めると喧嘩になるので何も言えないらしい。もし喧嘩になったら、父は逆上した母に何かされるかもしれない。そんな母と二人きりの父に私と母の仲違いという負担を負わせるのもつらいが私も限界だった。もう母のことは考えないようにした。

そのやり取りから少し経ってから母から「誕生日おめでとう」とLineがきた。さすがに祝ってもらっているのを無視するのは気が引けたので「ありがとう」とだけ返した。それから3日後くらいに「子どもの写真を送れ」とLineがきた。

「お前はもう娘じゃない」と言っておいてこのLineを送れる神経が怖い。

これには返信できずにいる。

とにかく、しばらく距離を置かせてください。

変えられるのは自分だけ。ほんとにその通りだと、母を反面教師にする。他人を思い通りにしようなどおこがましいし、そもそも無理な話なのだ。

自分の精神衛生を保つためにも、私は距離をとるという選択をする。





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