③令和だから聴きたい! 推しアニメ&特撮ソング!ダイの大冒険 OP「勇者よいそげ‼︎」

クリスマスも間近としている令和元年、まさかのニュースにインターネットが数時間、騒がしくなった。

2020年秋 ダイの大冒険 新作アニメ化!

ありがとうおめでとうございます!

アバンストラッシュですよ! アバンストラッシュ!!
『ルパン三世』の石川五右衛門や『座頭市』あるいは『沈黙の戦艦』のスティーブン・セガールでもよい。
今ではすっかりマナー違反とされている、傘の逆手持ちに対して思いを向けるとついつい胸が高まってしまうのはこれらに共通する刀やナイフの逆手持ちに起因があるが、その最高峰とも言えるのがこれから紹介する『ダイの大冒険』における主人公ダイと、その師であるアバン先生の必殺技であるアバンストラッシュのせいであり同作品のせいでもある。
本来ならば抜刀のスピードや手回りの良さを得意としている逆手持ちの剣の構えに、あえて力の溜めという要素を加えたことでオリジナリティあふれる必殺技へと再生産を経たのである、これぞ逆転の発想!
カッコイイ!
当時の小学生が思わず真似してしまうのも無理はない。でも大人になったらその握りは胸の中だけに秘めておけよ!
なぜならば、男子たるもの真に戦うべきは通勤のその時ではないからだ。力を振るうべき存在が、いたずらに他者を傷つけてはいけないってどこかの誰かが言ってたじゃないか。眈々とその力を蓄えよう。

そんな甘じょっぱい思い出をかつての少年たちに植えつけた『ダイの大冒険』のオープニングが今回のテーマだ。
久しぶりに聴いたらもうこれが、えらい文脈的じゃないですか。コンテキストの圧縮だ!
超いい歌なので解説を試みよう。

オープニングテーマ「勇者よいそげ!!」作詞 - 及川恒平 / 作・編曲 - すぎやまこういち / 歌 - 団時朗
(Wikipediaより引用)

もうタイトルからしてミーニングが深いじゃないですか。理由なくべくして急く必要はない、ということは…? 逆説的に、急がなくてはならないのだ。
誰が? 勇者が!英雄というのは何事かを成した人物に与えられることが多いが、勇者というのはこれから為すべきことの使命に燃える人物にこそ与えられるべき称号である。
なぜそんなことが断言できるかというと、この作品名称は正式には『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』である、ドラクエ1で主人公はなんと呼ばれていたか、そう勇者。
冒険の末に勇者と呼ばれるのではない、彼は始まりから既に勇者の血を引いているがゆえに彼は(未来に成立する)勇者だった!
この歌でも同様の文脈を持ち込むのは当然のことである。

勇者が急がなくてはならない。そこに何が待ち受けているか、もう察しのいい人にはお分かりでしょう!
世界の危機がそこにあるんだよ、そうなんだよ!
しかもアニメのオープニングにおいて時間を短縮させる働きの「いそぐ」というテーマを持ち込むこと自体が、脚本・演出で言うところのホットスタートにあたるわけですよ。
視聴者の心を強制的に揺さぶり盛り上げてしまい没頭度を上げるわけですよ…完璧じゃん。タイトルと意図だけでもう100点。既に勝敗は決している。
歌詞の内容にうつります。

きみよ起て きみよ征くのだ

たつ、ゆく、というのはどちらも似た内容を連想させる単語だ。
出発を働きかける言葉だがここで注目して欲しいのは、わざわざ、征くという字を使っていることだ。これは(敵を打ち倒すために)出発するという意味である。この時点で戦いが避けられないことを明示してしまっているのだ。
しかも、歌詞からは参照できないが、このオープニングの冒頭にはあのドラクエのファンファーレが鳴り響く!
視聴者である「きみ」に冒険の物語を語りかけるのに、これ以上のお膳立てがあるだろうか?
そしてこう続く

空をやぶれ 海をもやせ 夢をつらぬけ

ギャァーー!なんか知らんけどめちゃくちゃカッコいいじゃないか!
なんだこれは!?
これは不可能性の提示である。
「空をやぶる」こと「海をもやす」というのは常人にできることではない。
この一見するとイメージしづらい行為と「夢をつらぬく」事が並列されているのだから「きみ」に夢を達成するのはこれほどまでに困難なのだと語りかけているのだ。
そして同時に、そのような破天荒の事をなす力を持つ者こそが勇者なのである! という勇者のなんたるかという歌のテーマの強化にもつながり、さらには「空をやぶる」のは『ダイの大冒険』に登場するアバン流刀殺法の三つの技の一つ、空裂斬から来ているのは間違いがない!

いつの日か きみはたおれた敵に
手をさしのべ ゆるすだろう

しかもこのように強いのに、さらには優しいんだってさ!?
『ダイの大冒険』における主人公であるダイは第1巻ではその出生を不明としているが、その養父はモンスター・きめんどうしのブラスであり、育ったのは平和であるがモンスターたちが跋扈するデルムリン島。しかも育ちの親友として共にあったのはゴールデンメタルスライムのゴメちゃんなのだ。
魔物の英才教育だよ。
それが故に、ダイがもつ性根には人も魔物もなんら変わりがない。心が通じ合えば味方と敵に垣根はない。というメッセージを示すエピソードが作中において何度も展開される。
その体現として、この歌では「たおれた敵に 手をさしのべ」て「ゆるすだろう」と歌っているのだ。
だが!
この歌の素晴らしさはただの作品の解説ではない「いつの日か」にある!
まだこの物語を知ることのない「きみ」に「夢をつらぬく」ことの困難さを説明した上で、あえて!「敵を」「許すだろう」としている。それが実現するのは今ではない!
「いつの日か」
それまでに何があるんだろう!?
当時の週刊少年ジャンプといえば努力、勝利、友情! この三本柱が存在していた。それによる成長という名の物語だ!

おお勇者よ
いまはまっすぐにはしれ
道のはてで花がふるえ 君をまってる

「おお勇者よ」

あえてここでこのフレーズを差し込んでくるのが憎い!
これはドラクエならではの名フレーズなのである。
しかし単に原作ファン的な意味以上のものがあるのを、くどいようだが言わなくてはならない。
ゲーム・ドラゴンクエストにおいて、このとっておきの語りかけが発生するのは、実は失敗の時なのだ。
「おおゆうしゃよ しんでしまうとは なさけない」
冒険で倒れたときにこのセリフが国王から発せられ、そして王城からのリスタートとなるのである(正確にはゲーム中ではこの ゆうしゃ の部分は予め入力したキャラクター名になるが、それはおいておこう)

ドラクエ3までをプレイしたユーザーに与えられたこの失敗の体験、道につまずいた事を想起させながらもそこで倒れることを良しとせずに勇者であるならば「まっすぐに走」らなくてはならない。
歌の冒頭には「きみよ 起て」と歌っている。
この起てには、出立のほかに再起の意味さえも同時に込められているのだ!
誘惑、挫折に失望、魔物だけが敵ではないそのような険しい冒険という「道のはて」で「花がふるえ」ているその美しい姿に心を緩めるような平和な世界が「君をまってる」のだから!
だから

はしれ はしれ はしれ
すすめ すすめ すすめ いそげ

なのである!!
EDとセットで語ろうかと思ったけどオープニングだけでもうお腹いっぱい!
読み返すなら今だぜ!!
ダイの大冒険!!

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