『神の雪』
クリスマスに降る雪は、神様の雪だと言われている。
差別も貧富も、性別や種別すら関わりなく、世界中のあらゆる生き物に平等に降り注ぐ神の雪。
サンタクロースの乗るソリが飛び去った名残だとも言われるその雪は、この深い山奥にもしんしんと降り積もっていた。
「……降るねえ」
私と同じように空を見上げていたシクルが、どことなくしんみりした口調で呟く。
「そりゃあ降るわよ。クリスマスだもの」
呆れた声で返す私に、シクルはなんだよもう、と口を尖らせる。
――いや、口はとっくに尖ってはいたのだけど。
「ほんとにアイルはリアリストだなあ。『神の雪』だぞ?もうちょっとなんかさあ」
「はいはい。わかったから、さっさとやることやって帰るよ。ただでさえ寒いんだから」
私がそうせっつくと、シクルははいはい、と仕方なく返事をして、雪の上に下ろしていた荷物をよっこらしょ、と持ち上げる。
あまりにぞんざいな持ち上げ方をしたせいか、クヌギの葉っぱを包んでいた蔓が緩んで、せっかく集めてきた大切なドングリの一つがポロリと雪の上に落ちてしまった。
「ああもう、なにやってるのよ」
私が慌てて荷物を下ろそうとすると、シクルは「大丈夫だよ、この程度」とまた口を尖らせてドングリを抱え上げる。
「大丈夫じゃないわよ、もう」
私が文句を言うと、シクルは、
「だからって、そんなに耳を倒すなよ。わざとじゃないんだからさ」
と蔓を締め直しながら文句を言い返す。
私は呆れ果てて、ドングリの包みを抱えたまま、また空を見上げる。
「仕方ないじゃない、私たち、うさぎなんだもん」
私のぼやきにシクルも荷物を抱え上げながら、まあそうだけどさ、と呟く。
「まったく。神様も、もうちょっと考えて降らしてよね。うさぎが雪のなかドングリ運ぶの、大変なんだから」
私は聴こえてるか聴こえてないか分からない文句を神様に投げつけたあと、私はため息を一つついて、我が家へと歩き始めた。
(12月24日 12時20分。日本アルプス某所)
#Xmas2014
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