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記念館工事現場にて。

とある田舎の山あい。
足場で囲われた古民家の前に、二人の男が立っている。
一人はヘルメットと作業服、もう一人はスーツ姿で、どちらも同じ顔をしていた。

「……なんでも良いけどよ、わざわざ現場に来なくていいんじゃねえか、ならざきさんよ」

作業服姿の男は目の前の現場を見つめながら、若干呆れたような口調でつぶやく。

「いや、なんせ突貫工事だからね、心配なんだよ、かーるさん」

スーツ姿の男がそう返すと、かーると呼ばれた作業服の男は仕方ねえなあ、とばかりに深々とため息をつく。

「そうしたのはお前じゃねえか。おかげでこっちゃバタバタだぜ?」
「申し訳ない、いつも迷惑かけて」

作業服の男の不平に素直に詫びるスーツの男。

「ホントだって。――大体さ、ここまですることあったのかよ」

今度は本心から呆れたように尋ねた作業服の男に、スーツの男はすぐには口を開かず、すい、と古民家へと目を向ける。

「なんも良いじゃねえか、ログインするのやめてよ、他の連中とおんなじにフェードアウトしてきゃよ」
「――いや、それじゃダメなんです」

作業服の男の声を、スーツの男が静かに遮る。

「ケジメをつけなくてはいけないことがあるんですよ」
「ケジメ?」
「ええ。私がしたことに対しての、ね」

スーツの男はそこまで言うと、苦い笑みを浮かべながら作業服の男を見る。

「私は、間違ってたんですよ」
「間違ってた?なんじゃそりゃ」

作業服の男の問いに、スーツの男ははい、とうなずく。

「noteっていう場所はね、商店街じゃなかった、ってことなんです」

スーツの男の答えに、作業服の男が目を見開く。

「いやお前、だって、――」
「ええ、私は以前から――それこそこの場所に来た時からずっと、noteは商店街みたいなところだ、って言ってました」
「だよな?それがまたどうして?」

畳み掛ける作業服の男に、しかしスーツの男は苦い笑みを浮かべて、ゆっくりと口を開く。

「ここはね、フリーマーケットなんですよ」
「フリマ?……って、何が違うんだ?」
「大きく違いますよ。商店街では売買が主ですが、フリマでは売買よりも交流が主ですから」

静かにそう続けたスーツの男に、作業服の男はははーん、とニヤつく。

「なんだ、そういうことか」
「え?何がですか?」

不思議そうにそう尋ねるスーツの男に、作業服の男ががっはっは、と笑う。

「もともとお前ってコミュ障なのに、良くアレだけ懸命にイベントとかやってるなあ、とは思ってたんだよな」
「――コミュ障は余計です」
「まあ似たようなもんだろ、リアルで友人も居ねえんだし」
「ぐうっ」

作業服の男は文字通りぐうの音を返したスーツの男に笑ってから、古民家に向かって『そろそろメシくうぞ!』と怒鳴り、そして改めてスーツの男に目を向けた。

「自分の作品をアピールするためだったんだろ?企画とかイベントやってたのって」

作業服の男の問いに、スーツの男は答えない。

「他の『売れない、反応がない』ってんで悩んでる人たちも巻き込んでアピールしてやりゃ、どさくさで自分の作品も見てもらえるし、何より宣伝になるわな」

作業服の男は、はっは、と笑う。

「コラボはまあ――別だな。ありゃ単に『自分が好きな作品と絡みたい』から、ってだけだったんだろ?」
「はい。他意はありませんでした」
「まあそうだろうな。なんせコラボに協力してもらった相手が有料でも、自分は無料公開だったもんな」
「それはイベントや企画でも同じですよ。自分だけで完結できないものは全て無料にしたかったんで」
「なるほどな、それがお前の『贖罪』だったんだな」

サラリと返した作業服の男に、スーツの男は再び口を閉じる。

「自分の作品を見て欲しい、なんていうヨコシマな気持ちで開催した企画やイベントに参加してくれるんだものな、さすがにそれを有料には出来んわな」
「――同じお金をもらうなら、自分の力でもらいたいじゃないですか」

若干口をとがらせるように返したスーツの男の背中を、作業服の男が高笑いしながら叩く。

「いたっ!」
「まったく、それじゃ今の状態は本末転倒だったんじゃねえか」
「そうですよ。気づけばイベントや企画の方に自分の頭がシフトしていて、結局作品はほったらかしでしたもん」
「何やってんだかなぁ。コミュ障がそんなに無理して頑張っても、結果が出ねえなら意味ないだろが」

作業服の男の言葉に、スーツの男がはい、と返す。

「先日ね、ちょっとしたクレームがありまして」
「クレーム?」
「ええ。さっき言ってた『ケジメ』はそのクレームに対しての謝罪、という意味もあるんですけどね」
「そんなとんでもねえことやらかしたんか、お前」

驚いたように問う作業服の男に、スーツの男は苦い笑みを浮かべて、

「noteが『商店街』なら違ったんですが、ここは『フリマ』ですからね」

と返し、胸元から緑色のパッケージのタバコを取り出し、一本咥えた。

「交流が主体となる場所で、同じ出品仲間への配慮が足りないとなれば、それはとんでもないことでしょう?」
「あー……ああ、まあ、な」

タバコに火をつけながら続けたスーツの男の言葉に、作業服の男がうなずく。

「これが『商店街』なら、それこそ最終的には死活問題ですからね、自らのポリシーに反しなければどんな手を使っても収入を得たいと思うんでしょうけど、『フリマ』はそうはいかないでしょう?」

スーツの男はそう続けると、紫煙を快晴の青空に向かって吐き出した。
白い煙がふわり、と漂う。

「私がこれまでしてきたことは、『商店街に出店している店主』であることがベースになってました。つまり――」
「つまり、『収入を得る』ことが『交流を深める』よりも上位にあった、ってことだな?」
「はい。でも今のnoteは違います。――いや、ずっとまえから違ってたのを、見て見ぬふりをしてきたんですね、私が」

スーツの男はそうつぶやくように言うと、携帯灰皿を取り出して灰をそこに落とす。

「交流を深めることに力を注ぎすぎたせいで、収入を得られにくくなってきた……ってことか」
「微妙に違うんですけどね。交流を主体にしたことで作品が『質よりも量』にシフトしてきていたため、収入を得られにくくなっていて、そこにようやく気がついた」
「なんだよ、結局自業自得じゃねえか」

作業服の男が笑ってそう言うと、スーツの男もええ、と笑いながら返す。

「だから『ケジメ』なんですよ。
 迷惑をかけたとあるnoterさんと、私自身に対する『ケジメ』なんです」
「うわ、めんどくせえコイツ」

作業服の男が高笑いし、スーツの男もそれに併せるように笑い声を上げた。


「――で?これからどうする」

昼休みを終えて車から出てきた作業服の男が、助手席から出てきたスーツの男に尋ねると、スーツの男はそうですね、と首をひねった。

「とりあえず3から5まで10数年ぶりに故郷に帰るんで、そこで気持ちを切り替えてくる感じですね」
「主戦場をまたmixiに戻す、って言ってたよな」
「あ、それに加えてもう一つ考えてますけどね」
「もうひとつ?」
「ええ。また電子書籍に手を出してみようか、って」

そう言って笑ったスーツの男に、作業服の男は苦笑いを浮かべながらなるほど、と返す。

「ま、それもいいやな。どっちにしてもリアルの仕事が正念場なんだし、手を抜くなよ」
「ええ、そりゃもう。会社立ち上げて3年、ようやく黒字化できたんですし、ここで踏ん張らないとね」

そう言って微笑んだスーツの男に作業服の男がよっしゃ、と笑って言う。

「よし、じゃあ5日までにきっちり仕上げっからよ、6日には開館できるようにしとけよ」

作業服の男がそう言って大きく伸びをすると、スーツの男は解りました、と力強く返した。


※このお話はハーフフィクションです。ノンフィクションに一部フィクションが混じってますので、ご注意下さい。


【今後の予定】
4月29日~5月5日 記念館準備
5月6日 記念館入り口設置
5月7日 更新停止のお知らせと記念館へのご案内告知
※5月7日より開館となります『ならざきむつろ記念館』ですが、それぞれの表紙絵がフリー素材(イラストAC)なのでちょっとさびしいんです。もし描いてもいいよ、って人がいらしたら、何か作ってやってくださいませ。



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