ChristmasStory表紙

note Advent Calendar 2014.12.24

noteに掲げられた、巨大なアドベントカレンダー。
12月1日から今日まで一つ一つ開けられてきたそのカレンダーも、残すところあと一つとなった。
そして今日。
その最後の扉が開かれ、そしてその中には――
――巨大なホールと、そのステージに立つ赤い服の老人があった。


#Xmas2014
note Advent Calendar 2014 12.24
And
『大きなモミの木の下で』最終話

ならざきむつろ作
Christmas stories LastStage
第150回 サンタクロース会議
~150th Santa Claus meeting~



「――ええ、では今から、記念すべき第150回『サンタクロース会議』を始めるぞ」

フィンランドのとある村。
その地下に建設された巨大な地下基地の中央に在る巨大なホールに、一人の老人らしき男の朗々たる声が響く。
真っ赤な服に身を包んだその老人は巨大なホールのステージに立ち、ホールの床が見えなくなるほどに埋め尽くされた様々な格好をした人々に向けて演説を続けていく。

「モミの木に物語が満ち、全てが動き出した。そして本日はいよいよ我々の大舞台、クリスマスイブじゃ。我々は――」
「ちょっと待った!」

突然人々の中から声が上がり、真っ赤な服の老人はピタリ、と演説をやめて声の方に顔を向ける。

「誰かね?わしの話を遮ったのは――」
「私だよ!ベファーナだよ!」

そう言って人々の中から顔を出したのは、全身真っ黒の老婆だった。ご丁寧に顔もすすで真っ黒にしている。

「おお、ベファーナ。何か問題でも――」
「問題でも?!あるに決まってるじゃないか!私の出番はまだまだ先じゃというのに、なんでこんな会議に出なきゃならんのさ!」

ベファーナ。
全身黒ずくめでプレゼントの袋を背負い、ほうきに乗って良い子の靴下にお菓子を、悪い子の靴下には木炭を入れていくという、イタリアの魔女であり、彼女が行動するのは1月6日の公現日(エピファニー)の前夜である。

「いやしかし、ぬしもわしらと同じで、クリスマスにプレゼントを配るではないか」
「時期が違う、というんじゃ!なんで私がこんなに早くに、わっざわざこんなど田舎まで足を運ばなきゃならんのだ!」
「そうじゃそうじゃ!」
「わしら、まだ準備中なんじゃぞ!」

ベファーナの声に賛同する声が上がり、赤い服の老人が見回すと、ベファーナから少し離れたところに固まっていた3人の博士と1人の老女が右手を突き上げているのが見える。

「なんじゃ、三人の博士と……ああ、バブーシュカじゃないか」
「よう憶えてらしたの、もう歳じゃというのに」

赤い服の老人の言葉に、ふぇっふぇと笑い声を上げる老女。

三人の博士。
彼らは聖ニコラウスが留守にしてしまうスペインやポルトガル、更には中南米などにおいて、サンタクロースの代わりに子どもたちへプレゼントを配って回るという。

バブーシュカ。
ロシア語で『おばあちゃん』と言う名のその老婆は、ベファーナと同じく、イエスを拝みに行かないかと誘ってきた三人の博士を後から追いかける『ついでに』子どもたちにプレゼントを『おすそ分けする』、ロシアの女サンタである。

もちろん、ともにそのプレゼントを配るのは、1月6日。
つまり12月24日という日は、彼らにとっては仕事前の大切な時間なのだ。

「そもそもわしらはあんたらみたいな現代かぶれとは違っての、そんなダサい服なぞ着んのじゃ」
「そうじゃそうじゃ、そんな飲料会社の広告そのものみたいな服、気持ち悪うて着れやせんわ!」

四人が口々に喚き立てると、ホールの周囲を囲んでいた赤い服の人々が顔を真っ赤にして怒鳴り返す。

「うるさいわ、このサンタもどきが!」
「お前らが配りきれない子どもたちの分を、誰が配ってると思ってんだ!」
「我らが居なければ存在すら出来ないくせに――」
「うるさいね、外野の雑魚ども!あんたらの靴下にも木炭入れてやろうか!」
「まあまあ落ち着きなさい。子供じゃあるまいし……」
「ファーザークリスマス!そもそもあんただって被害者じゃないか!あんなケルストマン(クリスマス男)風情に自分の立場そっくり奪われてさ!」
「そうだそうだ!わたしなんざ11月からこき使われ取るんやぞ」
「あんたもうるさいよペルヒタ!そもそもあんたはプレゼント配っとらんじゃろうが!

怒声と喚き声が交錯する中、この事態をどう収拾しようかと赤い服の老人が悩んでると、人々の中でもひときわ大きい男がのっし、と動き出して、老人の立つステージに上がる。
男はその鋭い眼光で大混乱に陥ったホールを見渡しながらその真っ赤なヒゲをざわり、と撫でると、大きく息を吸い込んでから、周囲を怒鳴りつけた。

「だまらっしゃい!」

その声は恐ろしく大きく、ベファーナたち四人だけではなく、その近くでのほほんと見物していたヴァナツハイマン(ドイツ北部でクリスマスにプレゼントを配る『クリスマス男』)やシンタクラース(聖ニコラウスの日の前夜に子供たちにプレゼントを配るというオランダ、ベルギーの『聖ニコラウス』)をも気絶させるほどであった。

「いい加減にせんと、世界中を吹雪で埋め尽くすぞ!」

「まあまあクリスマスおやじよ、そのくらいで――な」

クリスマスおやじとは、古代ヨーロッパの時代から出没していたという、厳しい冬を象徴する精霊である。
彼はプレゼントを配るわけではない。
それどころかむしろ彼をキチンともてなさなければ、その年の冬は厳しいものとなり、来年の作物の実りも期待できないという、怖い冬の精霊である。

「しかし、サンタクロースよ――」
「良いんじゃよ」

クリスマスおやじの不服そうな声を苦笑いで返し、赤い服の老人はよっこいせ、と一歩前に進んだ。

「むしろ、皆が自分たちの役割を大切に思うておることが分かっただけ、良かったと思えるからの」

そう言ってふぉふぉふぉ、と笑った赤い服の老人に、ベファーナを含めた皆が困ったように黙り込む。
すると、その人々の足元からキラキラした一人の幼女がするり、とステージの前に出てきて、その背中に生えた翼をパタパタさせながらふわり、と浮き上がった。

「おお、クリストキントではないか。珍しいの」
「うん、おいしいポリッジ(ミルクがゆ)があるって聞いたから」

クリストキントと呼ばれたその天使のような姿の幼女は、嬉しそうに驚く赤い服の老人ににっこりとほほ笑むと、くるりと身をひるがえして人々に向かい合い、そしてゆっくりとその小さな両腕を拡げた。

「ねえみんな、もう良いでしょ?お役目が終わった人やまだ先の人はゆっくりここで美味しいごちそういっぱい食べていれば良いんだし」

クリストキントのその言葉に、端の方でウオッカを飲んでいたジェド・マロースとスニェグーロチカ(ともにロシアのクリスマスのシンボル)がそうだそうだ、とヤジを飛ばす。

「サンタクロースがどうとか、そんなの関係ないんだ。大事なのは――」
「子供たちじゃ!」

クリストキントのその言葉を、ヤギの仮面をつけた老人ヨウルプッキが継ぎ、クリストキントは彼ににっこりとほほ笑む。

「そうだよ!子供たちを幸せにしなきゃ!」
「僕たちを信じてくれてる、子供たちを!」

そう叫んだのは、人々の足元から顔をのぞかせていたとんがり帽子の小人たち、トントゥ(フィンランド)やトムテ(スウェーデン)、ニッセ(ノルウェーとデンマーク)たちだった。

「……まあ、そうじゃの」
「わしら、信じてくれる人たちが居なくなったら、仕舞いじゃし」

赤い服の老人はそう言ってため息をつくベファーナたちに満足そうな笑みを浮かべる。

「そうじゃよ。わしらは今や、モミの木に集められる物語の力――人々の『創造する力』でしか存在を維持できなくなっとるんじゃ。そこを忘れてはいかん」

少したしなめるようにそう告げると、赤い服の老人は再びその両手を高々と拡げて、朗々たる声を張り上げたのだった。

「さあ、クリスマスの仲間たちよ!年に一度のショータイム、しっかりと盛り上げていこうではないか!」

その老人の声に、ホールに居る全ての者たちがいっせいにときの声を上げ、そして次々とホールから飛び出していった。


そう。
彼らを待つ、子どもたちの元へと。

(End) 


#noteクリスマスさらしてみた2016

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