Asumiさんからのお題に応えました。



ども、ならざきです。

先日Asumiさんのトークで、とあるお題をいただきまして。
最近お仕事でお疲れのAsumiさんが元気になるなら、と気軽に了承したのですが、これがまた実は今まで一度もやったことのないお題でして。

そのお題がこれでした。

『女の子が未知なる世界へ冒険に出掛ける話』

――いや、そんな話書いたことないもん。
しかもヘタすれば、これ長編小説のプロットすら作れそうじゃん。
いやもうすげえ悩みましたよほんと。

で、悩んだ結果、こんな話を書いてみました。
いつもの通りおもいっきり変化球で攻めましたんで、お題をくださったAsumiさんががっかりしなきゃいいな、ってちょっと不安にはなりますが、これが今の私の限界です(^_^;)

というわけで。
読んだら元気になる話を、がんばって書いてみました。
読み終えた皆さまが、ちょっと良い夢見れることを期待しつつ……。

あ、ちなみにこれも、表紙絵募集してます(^_^;)



『招待状~Invitation Card~』
ならざきむつろ 作


それほど遠くないむかしのこと。
とある街の片隅に、一人の女の子が暮らしていました。

女の子は遠くの町から、両親に別れを告げてこの街にやってきていました。
夢があったのです。
誰にも、――

そう、誰にも話していない夢が。

その夢のために親とケンカをして出てきた彼女ですが、世の中はそんなに甘くありません。
街に来て何とか住むところとお仕事を見つけましたが、住むところは四畳半の小さな部屋で、お仕事もブラック企業。
来る日も来る日も早出残業の毎日で、小さな部屋に帰ってきてもただご飯を食べて寝るだけで。
お給料はそれなりにもらえてはいましたが、毎朝目が覚めるたびに、心のどこかがすり減っていっているような気がして、そんな日々に彼女は飽き飽きしていました。

そんなある日のことです。
仕事帰りの彼女がフラフラになりながら帰りたくもない自分の部屋へとたどりつくと、ポストに何やら大きな包み紙が刺さっています。
彼女がなんだろう、と取り出してみると、なにやらパンフレットかカタログのようなものが入った封筒のようでした。

「……ウチ宛だもんね、これ」

彼女は念のため宛名を確認しますが、やっぱりそこには彼女の名前と住所が書かれています。

「差出人は……うわ、読めないや」

裏面に書かれていた差出人の住所や名前は、外国語、しかも英語やフランス語やドイツ語のようなものとは違う文字で書かれていて、中学英語くらいしか覚えていない彼女には全然読み取れません。

「私の名前をローマ字で書けるなら、自分とこの会社名くらい日本語表記にしてほしいよ」

もうすっかりカタログだと思い込んでる彼女はブツブツと独り言をつぶやきつつ、その封筒を小脇に挟んで部屋の中に入っていきました。



一時間後。

四畳半の狭い部屋の中で、彼女はベッドに腰掛けながら、難しい顔をして腕組みをしていました。
その視線の先には小さなローテーブルがあって、その上には帰宅途中に買ってきたお弁当の空箱と封筒の残骸、そして見事な装丁がなされた一冊の薄い本がありました。

その本の表紙には先程の読めない文字で何かが書かれていましたが、それを見た彼女は不思議と、そこに何が書かれているのか分かったのです。

「――でも、何よこの、『招待状』って」

彼女はそう口にしてから、恐る恐るその『招待状』と書かれた本のようなものを手に取ります。
それはとても高価な革を表紙に使っているらしく、しっとりとした涼やかな感触が手を通じて伝わってくるのが彼女にもはっきりと分かりました。

「どうみても高いものよね、これ。しかも古いし」

彼女は怪訝そうに本を眺めていましたが、やがて諦めたようにため息をつくと、『招待状』をもう一度テーブルの上に置いて深呼吸をしました。

「大丈夫。普通に開いても爆発はしない。うん、大丈夫」

どうやら彼女はそれで踏ん切りがついたようで、よし、と一言気合いを入れてから、勢いよく『招待状』を開いたのです。


 ※


『招待状』

これを読まれたあなたへ。

おめでとうございます!
この招待状を読むことができたは、私たちの国『フェアリーズ・ランド』の住人になることができるのです!

私たちの国は、誰もが精霊の力によって必ず夢を叶えることができます。
あなたがどんな夢をお持ちでも、私たちの国でなら叶えることが出来るのです。

もし私たちの国に来たい、と思われましたら、この『招待状』を閉じて、表紙に手を当ててひと言、『門よ開け』と仰ってください。それだけですぐに、私たちの国へ続く道が開けます。

また、もしもあなたが私たちの国に来る気がないなら、同じように表紙に手を当ててひと言、『消えろ』と仰ってください。そうすればこの『招待状』はあなたの前から消えてしまい、二度とあなたの前には現れません。

さあ、新たな人生を、あなたの夢が叶う世界で迎えてみませんか?



『招待状』を読み終えた彼女は、まず自分のほっぺたを思い切りつねりました。

「いた、いたたた……って、夢じゃないんだ」

彼女はヒリヒリと痛むほっぺたをさすりながら、もう一度その『招待状』を読んでみますが、やっぱり同じことが書かれているようでした。

「夢が叶う世界、かぁ」

彼女は腕組みをして考え始めます。

誰にも話したことがない秘密の夢のこと。
自分をすり減らして生きている今の生活のこと。
故郷に残してきた、ケンカしたままの両親のこと。

「――どうしよう、かな」

彼女は嬉しそうな、でも困ったような表情で、部屋の壁にもたれかかります。

「どうせ捨てちゃっても良いセカイだけど、さ」

頭で壁をこつん、としながら、彼女はつぶやき続けます。

「たぶん、ネットとかパソコンとかは使えなさそうだしさ」

もう一度壁に頭をこつん、として、うーん、と唸り声をあげると、彼女はそのまま枕のある方へずりずりと倒れこみ、そのまま悩み続けました。


数分後。

彼女はよし、とつぶやいて起き上がると、テーブルの上の『招待状』をぱたん、と閉じました。

「――もう、決めたんだもの」

そう自分に言い聞かせるようにして、彼女はそっとその表紙に右手を乗せ、そしてゆっくりとそのひと言を口にしたのです。


――え?
結局彼女は、どっちを選んだのか、ですか?


彼女がどちらを選んだのか。
彼女がどんな夢を持っていたのか。
ここから先は、あなたのご想像にお任せします。

あなたなら、どっちを選びますか?

(了)

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