ChristmasStory表紙

『クリスマスは――。』




午後6時36分。
私は寝起きでボケた頭のまま、目覚めの一服に火を着けながら、何とは無しにテレビのスイッチを入れる。
電源ランプが赤から緑に変わって少しの間が空き、やがて女子アナらしき女性の賑やかしい声と共に――

――何故か、栗の被り物をした女子アナが画面いっぱいに表示される

『……すが、やはりマロンといえばここ!渋谷の老舗洋菓子店、――』

どうやらスイーツの紹介コーナーらしいが、その程度でわざわざ被り物とは。
しかもイヴ真っ只中の、渋谷のど真ん中で、だ。
「大変だなあ、最近の女子アナも」
私は欠伸とともにタバコの煙を吐き出しつつそんな心にもない同情の言葉を呟くと、再びリモコンを手にチャンネルを変える。

『……の詐欺行為に、ワンクリック詐欺、というものが』

別のチャンネルでは、真面目そうなオッサンが、フリップ片手に何やら熱心に喋っている。
真面目にどうでもいい話題だったので、さっくりチャンネルを変える。

『……みは、マロングラッセちゃんじゃないか!』

別のチャンネルでは、アンパンに適当な顔を描いたキャラクターが、わざとらしさ満点な驚きの声を上げている。
「……どう見ても旨そうなアンパンじゃないよな」
私はあのアンパンをちぎって食べさせられる立場を想像して、何となくげんなりする。
「マズいものを『食え』って、すげえ複雑な気分」
私はげんなりしたまま、再びリモコンを操作し、次々とチャンネルを回していく。

『……では山監督、来年の抱負などを……』
『……シンボリクリスエス、という馬はですね……』
『……と山千明さんが熱愛、というスクープを……』

「ああもう!なんだよクリクリうるせえなあ!」
私はとうとう耐え切れず、テレビをオフにしてリモコンを放り投げる。
「なんでどこ回しても『クリ』なんだよ!なんだよまったく!」
私が苛立ちと共に吸い殻を灰皿で揉み消した、そのとき。
テレビの電源が突然入り、何故か画面いっぱいにクリスティーナ・リッチが現れると、何故かドヤ顔でこちらを見つめてきた。

『それはもう、クリスマスですから、』

「……まさか、」

『クリスマスは――』

「……おいこら、」

『クリですま――』

「言わせねえよ!」

ぶちギレた私がすかさず投げた灰皿がテレビに命中すると、テレビの液晶は、ドヤ顔のクリスティーナ・リッチごと、綺麗に粉々になった。

(12月24日 PM6時36分。都内マンションの一室。)

 #Xmas2014 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?