5ol.imoさん×ならざきむつろ=『手を伸ばす。』
ども、ならざきです。
先日、私のnoteの全期間総コメント数が4000に到達しまして。
ちょうどキリが良かったので、じゃあ、と、そのキリ番をゲットした5ol.imoさん(以下、イガラシさん)にコラボを持ちかけたんですね。
したらイガラシさんからこんなご提案がありまして。
曲というよりは。。 BGM的な音のアンビエントトラックを作って。 その音を作業用に聴いて頂きながら。なにか制作して頂くという形は如何でしょうか?
そしてイガラシさんが作られた曲が、こちらでした。
……うん、確かにこれは間違いなく、7月の空気と時間に絡みつくような、自然で静かで、でも駒達が躍(以下略)
というわけで、この曲をリピートしつつ書き上げたのが、以下の短編となります。
イガラシさんが、
って書かれてたので、朗読原稿っぽくしてみました。
誰か朗読してくれると良いなぁ、という思いも込めて(笑)
では、イガラシさんの曲を聴きつつ、お楽しみくださいませ。
「手を伸ばす。」
作 ならざきむつろ
曲 5ol.imoさん
とある街の片隅にある小さな児童会館の、
部屋の片隅に山積みにされていた、段ボール箱。
子どもたちも先生たちもいなくなった夜に、その段ボール箱がごそごそ、と動き出し、そこから小さな何かが抜け出て、フローリングの床の上にぴょこん、と飛び降りる。
それは、ぬいぐるみだった。
小さくて丸い、ホコリまみれでボロボロな、クマのぬいぐるみだった。
クマはそして両手を持ち上げ、動かない頭を身体ごとひねらせて周囲を見回すが、クマ以外に動くものが見当たらないことに気づいてがっくりと肩を落とす。
クマは、誰かと遊びたかった。
もうずっと誰とも遊んでいないから、誰でもいいから遊びたかった。
だからクマは、くじけなかった。
ふんぬ、と身体を起こすと、部屋の出口に向かってまっすぐに歩き始めたのだ。
両手を元気よく振って。
曲がらない足を一生懸命前に振り出して。
声を出せない代わりに、ほんのちょっと頭をゆらしながら。
クマは歩き続ける。
てぽてぽ、とぽとぽ。
不思議なリズムで、歩き続ける。
そして、部屋を出たクマは、児童会館のホールの中心までやって来ると、そのままぱたり、と大の字に倒れこむ。
クマの真上には、ホールの天井があった。
そこには会館が建てられたときに、近所の小学校の生徒が描いたのだろう、色あせたたくさんの星々が拡がっていた。
クマは寝っ転がったまま、不思議そうに頭を少し傾ける。
クマは、それが何かわからなかったのだ。
だって、クマは今まで一度も上を向いたことがなかったから。
でも、クマはあきることなく星たちを見つめていた。
星が何かはわからないけど、それを描いた子たちが楽しそうにしていたのは解ったからだ。
クマの右手が天井へと伸ばされていく。
まるで、もう今はそこにはいない子供たちを求めるように。
そして、クマの右手がまっすぐ真上にきたとき。
クマの動きがピタリ、と止まった。
まるでゼンマイの切れたおもちゃのように、
使い古された、ぬいぐるみのクマは、ピクリとも動かなくなった。
次の日の朝。
一番にやって来た児童会館の先生は、
ホールのど真ん中のぬいぐるみのクマを見つけると、
文句とグチをこぼしながら、再びダンボールの奥へとクマをしまいこんだ。
ただそれだけのおはなし。
(了)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?