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『絶体暗星』/稲葉曇【AT1選note投稿祭】

こんにちは!巷で噂のAT1選note投稿祭に参加させて頂きました。ひえひえ昆布と申します!
今回は私の1選である『絶体暗星』についてお話させて頂きます。拙い文章ですがお付き合い下さい。




絶体暗星って良くってぇ…

初っ端から好きポイントを語らせて頂きます。よろしくお願いします。
絶体暗星との出会いや想いを書き連ねていたら好きポイントを語る隙間がなくなってしまい…仕方なく一番最初に…お許しください。

まず、私が絶体暗星の中で1番好きな部分。
始まってすぐやってくる短い間奏です。ここでは歌愛ユキが「ぁ〜〜あ〜〜〜」というコーラスをするのですが、このコーラスが本当に素晴らしい。
今にも泣き出しそうなほどか細いユキの声に、切なさとどこか懐かしさを感じる音程。片方は高い音、もう片方は低い音で両耳をまるで海を漂うように揺れ動きます。
1度でいいのでみなさんに聞いて欲しい。目を瞑って、集中して。どこか深い場所へ沈んでいくような感覚になります。

そして次に、サビ始めの音程
全てのサビが好きですが、ここではラスサビの展開と一緒に語ります。
ラスサビ前は「ああ 夜の循環にきみを纏った声が鳴る」の部分。この歌詞を歌い終わったすぐ後、ズーン…という低い音によりもっと深く絶体暗星の世界へと落とされます。
そしてすぐにやってくる、「星が」という芯のある声。細くて高いのにも関わらず力強い声をしています。その後の「暗くなってく」の部分で他の楽器が加わり、迫力が増してまるでユキが泣き叫んでいるかのように聞こえます。
私が特に好きなのは「暗」の、く、の部分。こんなに高めの細い声で必死に歌っているのに、どこかすっ、と切なげに収まってしまう声。まるで心の中と外の対比のようです。
この曲、必死なんです。必死に星を追いかけて、夜を照らしてる。


そして、歌詞
稲葉曇さんはほとんどが抽象的で比喩の多い歌詞を書くのですが、この曲も同じように抽象的な歌詞になっています。
ここで歌詞を考察……と行きたいところですが、実は私、この曲の歌詞を考察したことがないんです
え?AT1選なのに?ってなりますよね。
もちろん考察していないのはわざと。もっと言えば他の稲葉曇さんの曲はほとんど考察しています。絶体暗星だけを考察していないんです。

何故かと言うと、稲葉曇さんが書いた歌詞そのままを受け取りたいから。もちろん考察して理解を深めるのも大切で立派な「愛」です。
でも私はこの曲をあえて考察しないことで、この絶体暗星という曲を、稲葉曇さんが作り上げた世界を、ちっぽけな私の脳だけに収め切らないようにしています。本当はもっと私の思考が及ばない程大きく壮大な物語かもしれないものを、私の理解が及ぶ範囲に制限したくない
理解は深まらないかもしれない。なんのことを歌った歌なのか全然分からないかもしれない。それでいいんです。
私には理解できない」ということが、私が稲葉曇さんの世界を、絶体暗星の世界をそのまま受け取っている証拠になると思っています。
だから、ここでは歌詞の考察は書くことができません。考察がしたい方は是非この曲をじっくり聞いてみてください。


開始早々に語ってしまいましたね…まだまだ好きポイントはありますが、一旦ここまで。
ここからは私と絶体暗星のお話を聞いて頂きます。


絶体暗星と見た景色

私はこの曲を作った稲葉曇さんの大ファンです。絶体暗星はアルバム曲ということもあり、「稲葉さんの曲の1つ」という認識で他の曲と一緒に流れで聞いた覚えがあります。

そして聞いたわけなんですが…実は絶体暗星というのは、私が稲葉曇さんの曲の中で唯一、最後の最後までピンと来なかった曲なんです。
音数が少なく1つにきゅっとまとめられていて、他の曲とは違う雰囲気を感じていました。曲名とサウンドの統一、洗礼されたあの雰囲気が私には逆に引っかからず、普通の「稲葉さんの曲」として体を通り抜けていました。

では何故私がここまで絶体暗星が好きになったかと言うと、正直私にも分かりません。私と絶体暗星の出会いは何の変哲もない1日の、衝動的で不思議なものでした。本当にいきなりの事だったんです。
そうしてなんとな〜く聞いていた私が絶体暗星の虜になったあの日のことを、お話させてください。




あれは稲葉曇さんとの出会いから1年ほど経った、しっとりとした暑い夕方の車の中。
両親の実家に帰省していた私は、なかなか見ることの出来ない田んぼを眺めながらぐでっと力なく背もたれにもたれかかっていました。
壊れて片耳の聞こえないイヤホンを付けて、いつも通り稲葉曇さんの曲を聞いていました。
そしてそのイヤホンから流れてくる、いつも通りのよく分からない曲、『絶体暗星』。
最初のドンッという音から、低くて落ち着く歌愛ユキのいつもの声…そして、間奏。
いつも通りなんとなく、集中もせず、ぼーっと聞いていました。それだけなのに何故か、気づいたら母の声も聞こえなくなっていて。

まるで世界が真っ暗になったみたいに、もたれかかった車の椅子が私を暗闇に引きずり込むように、それともあの田舎ならではの広い広い、青い空に吸い込まれて行くみたいに。
ただ、聞き入っていました。音数の少ない暗いトーンで、まるで眠ってしまいそうなほど落ち着く音をしていました。それなのにサビになると、ユキがあまりに必死に、泣きそうになるほどひたすら星を追いかけていて。
気づいたら、真っ暗闇を見ていました。無意識に目を瞑っていた。



この曲………
そう気づいた夏の日でした。
どうして今まで刺さらなかったものがここまで全く違うように聞こえたのかは分かりません。ただ、きっとあの日はそういう気分だったのでしょう。
そして、こんなに「真っ暗闇」を歌っている歌を聞くのに相応しいのはもちろん夜。


当たり前ですがその日の夜、部屋の電気を消して、ベランダに出て…きちんとイヤホンを両耳付けた状態で、絶体暗星を再生しました。


そして、衝撃を受けた。

あの時壊れた片耳だけで聞いた私は到底知らなかった。
始まってすぐの間奏には、両耳で音程の違うコーラスが入っていました。
両耳で違うなんて思いもしませんでした。あの時の私は、あの片耳の世界が全てだったから。だから、もう片方の耳に消え入りそうなユキの声が届いた時のあの感情は、言葉に言い表すことも出来ません。

左右でゆらゆらと上下するユキの声。一瞬で絶体暗星の世界に引き込まれる、落ち着く浮遊感のある音程。
目を瞑ったらすっ…と意識が落ちて行く感覚に陥る中で、耳元では水が揺れ動くようにユキの震えそうな声が鳴るんですから、もう呆然と聞き入ることしか出来ませんでした。

田舎の夜はビルの明かりもなくて、目を凝らしてやっと見える田んぼと、遠くで背の低い建物がぼうっと光っているだけでした。虫の声がしました。月明かりが綺麗だった。昼の暑さとは違う生ぬるい風が、私と部屋のカーテンを撫でていました。
この暗くて広い空に、私を連れて行ってくれるような気がしました。
私の醜い部分も、嫌いな部分も、無理矢理作り上げた明るさも…全部、全部、絶体暗星が隠してくれた。全てを忘れさせてくれた。私を真っ暗闇の向こう側へと連れて行ってくれた。
あまりにも静かで、暖かくて、落ち着く…そんな空間に染み込んで行くような感覚でした。

ああ、聞き終わったんだな。そう思いながら静かな虫の声を見ました。なんだかもう一度聞く気にもなれず、さっきよりも涼しくなった部屋に戻って布団に潜り込んで。あの日はいつもよりもよく眠れたような気がします。


この日から、私の稲葉曇1選は絶体暗星になりました。他の稲葉曇さんの曲とは違う何かをこの曲に感じて、いつもハマった曲は繰り返し聞いてしまう私がこの曲だけは聞き倒したりせず心の奥にそっと置いています。

紛れもない、私の大切なAT1選です。


絶体暗星と過ごした日々

絶体暗星は何度も言っている通り、私の中で唯一特別な認識をしている曲です。
どう特別かと言うと、例えばこんなに大好きなのにリピートしない。流れた時は普通は叫ぶのにこの曲だけは体が固まって呼吸も忘れてしまう。歌詞をあまり考察しない…などなど。
そんな絶体暗星と過ごして印象に残った日々を振り返ります。


〈まず、魅力に気づいたあの日
私にとって忘れることなど到底できない大切な日になりました。今でもあそこのベランダは私のお気に入りの場所です。時々絶体暗星を聞きながら生ぬるい風に当たります。

〈真っ暗闇に照らす星を探したあの日
あれはお正月の午前2時頃。年越し後のふわふわとした気持ちで初詣に行き、広い広い星空を眺めながら絶体暗星を聞いて帰りました。
指先が凍りそうなほど寒い中で、神社の明かりを背に上を向いて星を見ながら歩いたあの時間はかけがえのない宝物です。

〈なんだか眠ることが出来ず、ベッドでこっそりイヤホンを付けたあの日
疲れた体で横になって聞く絶体暗星は私を夢の世界に連れて行ってくれました。いつまでも好きなあの間奏のコーラスを聞くと、深い深い水の底に落ちていく感覚になります。まるで眠りに落ちる瞬間を何倍にも引き伸ばして体感しているような気分でした。

〈何もかも嫌になったあの日
何もかも嫌になること、皆さんにもありますよね。
私もあの日、何もかもが嫌になってただ感情に任せて泣いていました。全てを壊したい衝動に駆られながらイライラと苦しさで震える手で絶体暗星を再生しました。

すると、あのドンッという大きな音が聞こえた瞬間、イライラも嫌な気持ちも全て消えて、力なくベッドに横たわりました。
あの瞬間、私の嫌な感情全てを絶体暗星が隠してくれた。真っ暗闇の向こう側に私を連れて行ってくれた。現実と醜い感情を全て切り離して、そっと私を掬い出してくれた。

このようにして私は絶体暗星と共に日々を過ごし、絶体暗星に助けられてきました。
絶体暗星のおかげで今の私があると言っても過言ではありません。


真っ暗闇の向こう側へ

絶体暗星は私の救世主です。いつでも私のことを助けてくれて、夢の世界を見せてくれます。
彼女が星を追いかけるなら、私は彼女を追いかけたい。
星が暗くなりきって見えなくなってしまっても、消えてしまっても、いつか私が彼女に追いつけた時に一緒に探したい。

私たちだけの絶体暗星を、彼女と一緒に追いかけたい。

「星が暗くなってく」

絶体暗星。きっとあなたは簡単に捕まってはくれないけれど、それでもいいから、ただ遠くでぼうっと光っていてください。あの日の田舎の低い建物みたいに。
あなたの隣に並べるまで、ずっと追いかけ続けるから。あなたと一緒に夜を照らすから。
だからその時までずっと、静かに光っていて。

きみが目印なんだ。



これが私と絶体暗星の、終わりのない物語です。
私はこれからも絶体暗星を、彼女を追いかけ続けます。
こんなぐちゃぐちゃに歩いた文章をここまで読んで下さり、ありがとうございました。

みなさんも、皆さんだけの絶体暗星を見つけられますように。


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