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No.18 硫黄岳

見たこともない。

触れたこともない。

雪山の神秘。

どちらかと言うと寒いのが苦手で、

自分からこの世界に飛び込む事は幼少時代から一度もなかった。

雪国育ちでもなく、

スキーもスノボも経験はない。

そんな私が雪山への一歩を踏み出せたのは

以前紹介した八ヶ岳の北横岳だった。

そして更に雪山の魅力に引き込んでくれたのは

雄大な爆裂火口跡が特徴的な

八ヶ岳 硫黄岳(2760m)だ。

八ヶ岳としては北横岳に続いて冬山のレポート。

夏は比較的優しい八ヶ岳、

冬には一気に難易度が高くなる。

しかし、条件が揃えば安全に登山を楽しめる。

そんな一人では到底向かえなかった世界に誘ってくれたのは

またしても山小屋主催のイベントだった。

冬の南八ヶ岳・赤岳鉱泉に出現する人工氷瀑のアイスキャンディで

毎冬2月にアイスクライミングの楽しさと冬山安全登山啓発をテーマに開催されるアイスキャンディフェスティバル。

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初心者でもアイスクライミングの体験が手取り足取りで教えてもらえ、

体験出来るのは勿論、

山の著名人によるトークショーやお天気講座、

普段なかなか予約が取れないガイドさんとの硫黄岳登山など

魅力的なコンテンツが目白押しで、日本各地から登山者が訪れる大人気のイベントだ。

僭越ながらそのイベントにゲスト出演した時、

参加させて頂いた硫黄岳登山講座。

ここで私は雪山の世界に完全に引き込まれたのだ。

赤岳鉱泉からコースタイムとしては約2時間程度。

夏山として考えると初心者向きのわりと気軽な登山に思える。

しかし冬山、夏のようにサクサクと軽快にはいけない。

装備もウェアも重たくなり、アイゼンの足捌きは

慣れるまではぎこちないものだ。

幸い私はアイゼンハイクの経験ありで挑んだこともあり、

ストレスは感じず雪山をしっかり楽しむ事が出来た。

一日目は美濃戸口ー赤岳鉱泉まで約2時間ほど。

初日からしっかりと冬山装備で向かう事が大切。

凍ってる斜面にも遭遇するためアイゼンは必須だ。

今回はイベントの話は置いておこう。

気になる方はこちらをチェック↓

去年までのイベントの雰囲気↓

今年はコロナウィルス感染予防の為バーチャルで開催予定。

クラウドファンディングで支援を募っています。

私も微力ながら協賛しています↓


話は戻り。

二日目、

硫黄岳登山当日。

この日は快晴で風もなく、小屋を出た時点ではとても穏やかだった。

メルヘンな樹林帯の中進んで行く。

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これがなんともファンタジックな世界なのだ。

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まるでお伽話に入り込んだような……

普段こんなガーリーなコメントをしない私だが

この世界は別。

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少女に戻ったような感覚で

多少キツイ急登もワクワクと心が弾んだ。

視界が開けると阿弥陀岳や赤岳が神々しく佇んでいる。

ただただイケメンだ。

穏やかな樹林帯を抜けると気持ちの良い稜線に出る。

しかしここからが危険。

急に風が強くなり、

突風が吹くこともある。

気を抜くと簡単に飛ばされてしまいそうだ。

私はこの時初めて

「風で人が死ぬこと」への臨場感を感じた。

前回の赤岳もそう。

稜線に出た瞬間は風の恐怖をしっかりと想像しなければ……と肝に命じたものだ。

この稜線のタイミングで下山を選ぶ登山者も多数見かけた。

それはそれで大事な判断。

危険を少しでも感じた時は立ち止まって自分とちゃんと向き合いのが大事。

下山したって誰も責めやしないし、決してかっこ悪いことではないのだから。

しかしその風とうまく付き合う自分を見つける事が出来れば

ここからの稜線歩きは美しい景色が全てを包み込んでくれる。

空は青く、山々は雪化粧され光輝く。

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足元はふわふわのパウダースノウ。
ピッケル、アイゼンでしっかりと踏み込んで
登っていく。

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終始、心は踊っていた。

そして山頂。

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やっぱり風は強い。

ワクワクしながら進んできたとはいえ、やはり雪山。

夏は2時間ほどのコースタイムでも3時間以上はかかる。

風が強すぎて爆裂火口をゆっくり見れる余裕もなく、

とにかく風から守ってくれる樹林帯に戻りたくなる。

どんなに美しく、ずっと見ていたい景色が目の前に広がっていても

冬山の山頂での長居は禁物だ。

下山も風に飛ばされないよう気を抜かず、慎重に下りて行く。

無事、赤岳鉱泉に下山出来た時は思っていた以上に疲労困憊だった。

やはり冷たい風にさらされ、慣れない雪山装備で歩くのは容易なことではない。

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もはや誰だか分からなくなる雪山用の装備。
相当着込んでいる。


だがこの疲労感がまた

たまらないのだ。

小屋に入ると温かく、ホットコーヒーやラーメンで体の芯から自分を解凍する。

ホッとして一息つく目蓋の裏には冬の美しい山々が鮮明に広がっている。

向かうまでは不安で二の足を踏んでいた硫黄岳、雪山登山。

しかし一歩足を踏み出してみれば

冷え切った空気に澄み切った空。

どの季節よりも鮮明に山の姿や匂い、静けさを感じることのできる

心が震える世界だ。

そんな雪山の神秘を感じ

自慢したいほどの写真と思い出を残せた特別な山。

それが

八ヶ岳 硫黄岳だ。

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次回は夏の硫黄岳で爆裂火口をじっくりと眺めたい。


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