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人生の1/3は眠っている時間

人間を含め、動物にとっての睡眠。
睡眠とは、からだとこころの休息の時間、だけではないんです。
人生の1/3にもあたる睡眠時間を、どのような質にするかで、
人生の質も変わると思いますよ。

現代社会の問題は睡眠障害から

24時間化している社会で、身体に負荷のかかる仕事をされている方も多いと思います。また、慢性的にストレスがかかる生活の中で、不眠や睡眠障害を引き起こし、それが生活習慣病、高血圧、糖尿病、肥満などの病気に影響しているようです。

2003年、山陽新幹線の居眠り運転によるオーバーランが、重度の睡眠時無呼吸症候群(Sleep apnea syndrome;SAS)が原因とわかり、この後、日本でもSASの治療が急速に発展しました。

睡眠障害の場合、交通事故のリスクは7倍になるそうです。

このように、睡眠の質が悪いと、心身の回復ができず、病気の一因になったり生活の質が落ちていくだけでなく、車での事故や、新幹線の一件のような、命に係わる大事故につながる可能性もあるんですよね…。

睡眠は本当に大事です。

睡眠の役割

睡眠の役割をわかりやすく大まかにまとめると、

①ホルモンの分泌
②自律神経を整える
③デトックス
④脳と心のメンテナンス

となります。

ホルモンの分泌

身体の成長や代謝の調整に関わり、細胞の修復を促してくれる成長ホルモン。子供にとっては、身長を伸ばしたり、身体そのものを成長させる骨格や筋肉の発達にとても大事なホルモンですし、大人にとっても、傷の修復や、肌の入れ替わりなど、細胞の新陳代謝にとても大切です。また、脳の疲労回復にも関わっています。
「寝る子は育つ」とか、「お肌のために早寝を!」というのは成長ホルモンの恩恵を十分に受けるためですね。

さらに、成長ホルモンはコルチゾールというホルモンと共に、夜間の血糖値の維持に関わっています。
入眠から1時間半くらいで成長ホルモンが分泌され、入眠から3時間をピークに、その後徐々に下がっていきます。
逆に、コルチゾールは夜に分泌量が低く、朝にかけてだんだん上がっていきます。
この二つのホルモンがしっかり出ていることによって、夜間何も食べなくても血糖値が安定することができるのです。

成長ホルモンとコルチゾール

また、睡眠に欠かせないホルモンがメラトニンです。
メラトニンの放出リズムによって、睡眠と覚醒の時刻の調節が行われ、概日リズムに影響しています。

メラトニンには、血圧を下げたり、脳の深部体温を低下させる役割もあり、睡眠の質にも大きく関わっています。
また、免疫細胞を活性化させ、免疫力を上げることもわかっています。
さらに、メラトニンは高い高酸化力を持ち、細胞の老化や、がん細胞の増殖を防いでくれます。

成長ホルモンとメラトニンが分泌量最大の時間(入眠から3時間)に、徐波睡眠と言われる深い眠り(ノンレム睡眠)があり、これが睡眠のゴールデンタイムと呼ばれます。この時間に細胞の修復が活発に行われるのですね!

メラトニンとレム・ノンレム睡眠



自律神経の調整

身体は概日リズムという恒常性を保つ働きを持っています。
人間の体内概日リズムは約25時間ですが、朝の光や温度、食事によってセロトニンが分泌され、24時間でリセットされる仕組みになっています。この14~16時間後にメラトニン分泌が起き、眠気が起こるという仕組みです。
この様々なホルモン分泌と影響し合うのが、自律神経です。
ホルモン分泌の命令と、自律神経の支配は、同じ脳の視床下部という場所で行われています。

人間の身体は、覚醒システムと睡眠システムが作動し合うことでリズムを作ります。
覚醒に関わるホルモンがオレキシン。オレキシンは、1998年に柳沢正史先生らによって発見されたそうです。結構最近の話で驚きましたが、睡眠には未開拓の部分がまだまだあるようです。
この発見の後、オレキシン受容拮抗薬(睡眠薬)ができ、逆にオレキシンを活性化させることで、ナルコレプシー(過眠症)の治療にもなるそうです。

夜勤のお仕事や、海外に行った際の昼夜逆転によって概日リズム障害が起きます。

また、夜間の光刺激によってメラトニンが抑制されてしまうので、夜間のブルーライトも睡眠障害を引き起こしてしまうんですね。

夜勤や時差ボケの対策として、眠る時間をだんだんずらしていくことで身体を慣らしていくと負担が軽減するようですが、眠る時間を遅くしていくことは比較的簡単でも、眠る時間を早めていくことは難しく、徐々に慣らしていくことが必要だそうです。

睡眠によって概日リズムが整うと、ホルモン分泌も正常になり、自律神経も整ってくるという身体の仕組み。身体はバランスをとる天才です。

デトックス

日中、外部から入ってきた毒素(空気汚染、食べ物の添加物、農薬、薬、タバコ、アルコール、タンパク質が分解されたあとのアンモニア等)は肝臓へ運ばれます。

毒素は肝臓で無毒化されたり、細胞の外へだされて体外へ排出されるのですが、寝ている間に肝臓でのデトックス作業が粛々と行われているのです。
AM1~3時にこの働きが活発化するといわれますが、解毒しなければいけない毒素が多すぎると(例えば入眠前にアルコールを飲みすぎたり)、解毒が亢進しすぎて夜間覚醒につながってしまいます。

肝臓に炎症があったり、脂肪肝だったりすると、この解毒機能も落ちてしまいますよね。

脳と心のメンテナンス

睡眠にはレム睡眠(rapid eye movement sleep, REM sleep)とノンレム睡眠(non-REM sleep)の2種類あることは有名ですが、90分サイクルで訪れるこの2種類の睡眠にはそれぞれ大事な役割があります。

レム睡眠時は、日中と同じかそれ以上の小刻みな脳波の動きがみられ、脳神経のシナプスをつなげて様々な脳神経の道路を作る働きをしています。
日中受けたストレスを処理したり、日中見聞きした記憶、感情を整理し、必要なものを選択的に脳に固定するという仕事が行われています。
夢を見るのもレム睡眠時。夢は、脳が色んな情報の整理をしているときに見るのだそうです。日中のストレスが大きければ、それを処理するためにレム睡眠が多くなります。

ノンレム睡眠時は、大きく幅のある脳波がみられます。ホルモンが盛んに分泌され、身体や脳の修復が行われたり、深部体温を低下させることで睡眠の質に関わってきます。
また、不必要なシナプスを刈り取って交通整理をしたり、より迅速に情報が伝わるようにしているそうです。
寝返りをうったりするのは、ノンレム睡眠の時なのだそうです。

この二つの睡眠の働きによって、人間は大量な情報から、自分にとって必要なものだけを脳に記憶として残しておけたり、ストレスを処理できるなどメンタルの回復ができたり、機能的な脳・身体のメンテナンスができるのですね!

やはり、生き生きした人生には、質の高い睡眠が不可欠です。

人間の睡眠は異常⁉

動物の睡眠と比べると、人間の睡眠の長さは異常だそうです。

知能が発達し、社会的にも発展した人間は、交互に眠るということができるようになりました。そこで、長い睡眠をとれるようになったんですね。

この睡眠の長さが、脳(知性)の発達にも大きく影響したのではないかと言われています。

しかし、だんだん顎の骨格が退化してきたことや、生活習慣の変化によって、現代人は睡眠時無呼吸症候群をはじめ、睡眠障害という人間特有の病気に悩まされることになりました。

リラックスするべき時にも、交感神経優位になってしまう生活。
時間の節約のためと、食事や睡眠の時間を削ってしまう。
より便利さを求めていく中で、身体を使わなくなってしまった。

などなど・・・

知性の発達のために、異常に長い睡眠を獲得してきた人間にとって、現代社会は進化の歴史に逆行する生活なのかもしれません。

質の高い睡眠を得るために

早寝早起きや、食事をきちんととるなどの生活習慣を整えることは大前提として、

まず、口呼吸になっていないか?を確認することが重要かもしれません。

鼻呼吸で眠っていると、脳の冷却につながり、スムーズな入眠が得られます。また、気道がきちんと開き、呼吸をしっかりすることにつながります。
口呼吸になっていると、気道が狭くなり、呼吸がしづらいためにアドレナリンを出して呼吸を早くし、脈や血圧を上げようとしてしまいます。
口から直接異物が入ってくるので、免疫機構の働きも鈍ってしまいます。

口テープなどが販売されているので、活用するのも良いですし、ご家族に自分が眠っている間、無呼吸になっていないか確認してみても良いと思います。重症の無呼吸症候群の場合、きちんと治療することが望ましいと思います。

また、舌が下がってしまうことによる気道狭窄を防ぐために、口周りの筋肉、舌のトレーニングをすることもおすすめです。舌を動かしたり、あいうべ体操などを毎日習慣にしてみると良いかもしれません。

舌を出したときに、周りにぎざぎざと跡がついている場合、食いしばりが起こっていると考えられます。夜間覚醒や起床時の肩こり、食いしばりがある場合、夜間の低血糖が原因と考えられます。日中の低血糖対策が必要かもしれません。

また、女性ホルモンの影響もあり、プロゲステロンが下がってくる前更年期と言われる時期から、睡眠の質が悪くなるといわれています。プロゲステロンが呼吸中枢を刺激して、気道を広げる役割をしてくれるからです。
PMS症状がひどい、よく眠れないなどの症状がある場合、プロゲステロンクリームを塗ってみると違うかもしれません。

睡眠と腸の関係も深いです。
脳内でセロトニンからメラトニンに代謝されるのですが、セロトニンは腸でも腸内細菌によって作られています。セロトニンは分子が大きいため、血液脳関門を通過することはできないのですが、腸内のセロトニン濃度情報は神経系に伝達され、脳内のセロトニン量に影響することがわかっています。

つまり、腸内のセロトニン量が多ければ、脳内のセロトニンも増えるということです。このように、腸脳は情報を伝達し合い、全身の健康にかかわっており、これを腸脳相関と言います。


身体は恒常性を保つため、常にバランスの舵取りを行っています。
本当に、そのバランスは分子レベルで絶妙に操作されていて、感動するほど。

自分に与えられた命を最大限生かすために、
まず自分の身体と向き合うこと、

「時間を使う」という意味を、今一度考えてみる事も
今後の長い人生のために必要かもしれません。






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