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Black Country, New Road の全アルバムをフィジカルで聴く

そのサウンドは掴みどころがなく、変幻自在。ロック、ジャズ、クラシック、フォーク、プログレ、オルタナ、ポスト・ロック、ポスト・パンク、様々なジャンルの要素が散りばめられており、その音とリズムの玉手箱のような楽曲郡は非常に独創的ではめられる枠がない。聴いたことが無いようなこの自由奔放の音を、仕掛けを楽しみながら聴いてもらいたい。

ブラック・カントリー・ニュー・ロードってどんなバンド?

2018年、ケンブリッジ周辺出身の若者たちによって結成されたバンド。元々は、タイラー、ルイス、ジョージア、メイ、チャーリーと2ndアルバムリリース直前に脱退してしまったアイザックの6名は、別のバンドに所属していたがそのバンドは予期せぬ問題で解散。1名を除いた残りのメンバーにルークが加わり、アイザックがメインソングライター&ヴォーカルとなることで、派生的に生まれたのがブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下BC,NR)。

メンバー

タイラー・ハイド(b,vo)
ルイス・エヴァンス(sax,fl,vo)
ジョージア・エレリー(vn,vo)
ルーク・マーク(gt)
メイ・カーショウ(Key,vo)
チャーリー・ウェイン(ds)

※アイザック・ウッド(g,vo) 
 2021年1月、2ndアルバムリリース直前に脱退

ルイス、ジョージア(Jockstrapのメンバー)、メイ(母が日本人)はロンドンのギルドホール音楽演劇学校でクラシックやジャズを学び、アイザックは同学校でコンピューター音楽を学んだ。タイラーはなんとあのUndergroundのカール・ハイドの娘!などバラエティ豊かな7人の(現在は6人)個性が見事に融合されて一つとなったバンド。

左からルーク(Gt.)メイ(Key.Vo)チャーリー(Ds)ジョージア(Vli)ルイス(sax,fl,vo)※アイザック(Vo.Gt)タイラー(B.Vo)

オリジナルアルバム(2024年1月現在)

1. For the first time (2021年)
2. Ants from up there (2022年)
*3. Live At Bush Hall (2023年)
  ※全曲新曲のライブ・アルバム

1. For the first time (2021年)

所有メディア:国内盤CD
ライナーノーツの天井潤之介さんの解説が大変素晴らしい。
これ目当てで国内盤を購入する価値あり!
歌詞カードの写真も格好良い。

BC,NRの曲にキャッチーなわかりやすい曲は無い。僕が彼等を好きなのは、何もそのわかり難い楽曲をわかったフリしてマウントを取りたいわけでもない。もうそのグルーヴや音楽の遊びの部分に完全に魅了されてしまっているからだ。正直、彼等の音を初めて聴いたときはなんだか変わった曲が多いな、程度にしか感想を持っていなかったのだけれども、聴き込んでいくうちにどんどん深みにハマった。あまりにも多くの仕掛けを含み、聴く度に新たな発見がある彼等の曲は飽きが来ない。

1曲目の「Instrumental」のこの力強いドラミング。
そこに乗る独特のキーボードリフ。次々に重なっていく音たちに耳が釘付けになり思わず聴き入ってしまう。

待望の1stアルバムは、2020年3月に6日間かけてライヴ・レコーディングで制作された。本作のプレスリリースでエヴァンスは「ライブでこう聴こえていれば気持ちいいなと思う音とまったく同じにしたかった」と語っていた。

ライナーノーツより

ライナーノーツを読んで最初はたったの6日間でレコーディングされた事やそれがライブレコーディングだった事に驚いたが、2曲目の「Athens,France」のライブ映像を観て納得。このバンド、演奏力かなり高い!
そしてこのシングル曲はイントロから最高に格好良く、途中で曲の雰囲気がガラッと変わり優しくなるところがまたいい。

BC,NRの初期特徴の一つに、アイザックの語るようなスタイルのヴォーカルが挙げられるが、この手法にしっかりと名前がついていることもびっくり。これもライナーノーツを読んで知ったことだ。フィジカルならではの価値。

それは俗に”シュプレヒゲザング(Sprechgesang)”とも呼ばれる歌唱技法で、歌と語りの中間に位置するようなそのスタイルは、それこそドライ・クリーニングやドゥ・ナッシング、トーク・ショウ、あるいはブラック・ミディいった昨今の英国のロック・シーンを牽引する”ポスト・パンク”勢のヴォーカリストにも顕著に見られる傾向でもある。

ライナーノーツより

2. Ants from up there (2022年)

所有メディア:輸入盤レコード
所有メディア:国内盤CD
大好きなジャケ、LPサイズはやっぱりいいね。
2ndの国内盤ライナーノーツも天井潤之介さん。
アーティストの情報と魅力が正確に伝わる解説。

個人的な意見だがちょっと雑で乱暴な言い方をすると、BC,NRは1stより2ndが遥かによく、そしてライブ・アルバムだが全曲新曲の3枚目は2ndより更に良い。つまりBC,NRはアルバムを出すたびに確実に進化していくバンドなのだ。この2ndアルバムのライナーノーツにこんな言葉がある。

「前よりも聴き心地の良いサウンドになった。様々なレベルで楽しめるサウンド」と本作の仕上がりについてエヴァンスは自負する。
「例えば、初めて聴くときはただ聴き心地よく、その後2、3回聴くと、ただ心地がいいだけではないカラフルなサウンドにのめり込んでいく。アルバムには、馴染みのあるメロディやハーモニーもあれば、風変わりな音もあるんだけど、その変わった部分はあえて全面に出してはいない。そういう芸術的ではあるけど非現実的な部分、アーティスティックすぎて理解しにくいような部分を、今回のアルバムでは以前よりももっと微かに取り入れているんだ」

ライナーノーツより

なるほど。これだ。
この2ndは最初からスーッと入ってきて心地よかったのだが、それでいて何度も何度も聴きたくなり、聴く度に色々な音の遊びや仕掛けを発見し興奮し、それをまた味わいたくて何度も聴いてしまう。
そうエヴァンスが言う通り、カラフルなサウンドにまさにのめり込んでしまったのだ。

アルバム1曲目の「Intro」から2曲目の「Chaos Space Marine」ですでにその傾向が見える。このアルバムは全曲本当に魅力的な曲ばかりだが、まず最初に気に入ったのは5曲目「Good Will Hunting」。アイザックの歌が1stに比べると語りからより歌にシフトしていること、そこにメイやジョージアやタイラーのコーラスが加わり歌の幅が広がっていること、そして何よりこのギターリフとドラムリズムの絡み方が絶妙で有ること。うーん、耳に残る。

なんとも牧歌的で美しい6曲目「Haldern」(このサックスとフルート、ピアノの絡みは自然と目を閉じて聴き入ってしまう)などを挟み、ボブ・デュランの「I`ve Made Up My Mind to Give Myself to You」へのオマージュ曲でもある8曲目「The Place Where He Inserted the Blade」へ。この曲の楽曲そのものの良さと、テクニカルな部分をエヴァンスがうまく表現しているのがライナーノーツに掲載されていたので抜粋してみた。なるほど、そういった仕掛けだったのかと、納得。

「すごくシンプルに良い曲。僕はこの曲が大好きなんだ」
「この曲では、科学的にパーフェクトなものを目指していた。対旋律(※主旋律に対して独立した形で示され、主旋律を効果的に補う形の別のメロディのこと。カウンター・メロディ)がメインのメロディのスペースを使わずに存在しているんだけれど、最終的にはメインのメロディとハーモニーを作っている。(中略)この曲ではそれをやってみたんだ」(エヴァンス)

ライナーノーツより

9曲目「Snow Globes」のミニマル感の素晴らしさからラスト、10曲目「Basketball Shoes」への流れがこのアルバムのメイン。BC,NRの真髄がここに詰まっていると感じる。”Basketball Shoes”は、初期の頃からライブで演奏されていた曲らしく、ファンの中でも人気の代表曲的なナンバーだったらしい。

「アルバムの他の曲にとってのメインのインスピレーションとなった曲なんだ。アルバムのメインのテーマはあの曲そのもの。アルバムが持つ様々なエモーションがあの曲に含まれているんだよ」と話す。
(ルイス・エヴァンス)

ライナーノーツより

ライナーノーツを読んで納得。
このラストの盛り上がりはアルバムに宿るエモーションそのもの。組曲のような構成の曲が、ラスト大勢のコーラスで盛り上がっていく様子はアルバム終焉の曲にふさわしく、痺れる展開。

この素晴らしいアルバムリリースの数日前に、メイン・ヴォーカル&ギターのアイザックの脱退が公式に発表された。あまりの驚きにショックどころか、アルバム売るための仕掛けかと思った。けれどもそれは本当の出来事だと分かり、このままBC,NRは解散してしまうのかと。

しかし、彼等は残った6人でバンドを続けていくことを決断し、なんと全曲新曲のライブ・アルバムという形で新作をリリースしてきたのだった。いやぁ、BC,NR最高でしょ!

3. Live At Bush Hall (2023年)

所有メディア:国内盤CD
ライブ・アルバムとしてリリースされた経緯や写真も掲載!

どんなバンドでもメンバー、しかもヴォーカルの離脱は痛手であり、7人の音楽/友情双方における結束の固さを思うと余計にショックが大きい。

ライナーノーツより

アイザックの脱退が決定しても、決まっていたライブやフェスへの参加を見送らず、しかもアイザックに敬意を評して過去2作からの楽曲は封印し一切演奏しない、というとんでもない選択をしたBC,NRは全曲新曲でフェスへ参加し見事にこの難局を乗り越えた。凄すぎる。

そんな全曲新曲のライブ・アルバム1曲目は、もやはBC,NRのアンセムとも言える「Up Song」。ちょっと深読みすると、このアッパーな曲を1曲目に持ってくること、そしてブレイクでみんなが叫ぶ歌詞が、アイザックに向けたかのようで泣ける。

Look at what we did together 
ねぇ見て、私達が一緒にしたことを
BC,NR friends forever 
BC,NRは永遠の友達同士

歌詞カードより

メイン・ヴォーカルが抜けたことで、BC,NRはタイラーとルイス、そしてメイが主にヴォーカルを取るスタイルに変わった。これが思いのほか素晴らしくハマっている。

ルイスの決して技術的にはうまくないであろう、しかし熱い想いが胸に響くヴォーカルが刺さる4曲目「Across The Pond Friend」も素晴らしい。 
一緒に大声で歌いたくなる。

そして、このアルバムで最も好きな曲。
メイのヴォーカルが非常に良い。
またこの曲はライブの時、前半はメンバー4人がステージ中央に集まって座り込み、アットホームな雰囲気を作る。実際に僕も足を運んだクアトロのライブでもそうだった。メイの歌と美しいピアノの旋律が素晴らしく、特にこの曲の後半、全楽器が加わり盛り上がっていくところが素晴らしい。

フジロックは観れなかったので、来日公演は必ず行こうとチケット発売と同時に予約し、無事にクアトロ公演に足を運んだ。BC,NRはこのアルバムでも証明した通り、ライブこそ素晴らしいライブ・バンド。本当に良いライブだった。終わるのが惜しく、次回来日したら何があっても必ずまた行こうと思った。

ツアー初日の名古屋クアトロを観ることが出来た!

2024年現在、最も新譜が待ち遠しくまたライブに行きたいバンド。
今年も来日してくれないかなぁ。

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