The Posies の全アルバムをフィジカルで聴く
The Posiesってどんなバンド?
84年、ジョン・オウアとケン・ストリングフェロウの二人がワシントン州ベリンガムの高校で出会いバンドをスタート。87年にケンがシアトルの大学に通っている間に二人が書き溜めた曲を二人でレコーディングし、88年に『failure』を自主制作。その後ベース、ドラムが加入し、インディーズのポップラマからデビューアルバムとしてリリースした。
89年ゲフィン傘下のDGCと契約、90年に『Dear23』でメジャーデビューを果たし、98年に一旦活動休止するまでにメンバー変更も経て4枚のアルバムをリリース。活動休止後はケンがREMのアルバムに参加するなどソロ活動が盛んになるが、2000年にはケンとジョンでアンプラグドツアーを始め、2005年に7年ぶりとなるアルバムをリリース。その後も2010年、2016年にもアルバムをリリースした(このアルバムが実質ラストとなる)が、残念ながら2021年に完全解散してしまった。
ポウジーズは同じシアトルで生まれたグランジムーブメントとは一線を画す立ち位置ではあったが、いわゆるインディー・ロック、インディー・ポップ、パワーポップにカテゴライズされるサウンドで、マッドハニーやサウンドガーデン、ダイナソーJr .などのグランジ勢ともジョイントツアーをやったりしたことで、グランジファンからも受け入れられていた。
そして、ジョンとケンの活動で特筆すべきことは、70年代にパワー・ポップの先駆者として活動していたバンド、ビッグスターに1993年から2010年の17年間、オリジナルメンバー死去によるバンドの解散まで正式メンバーとして参加していたことも非常に興味深い。
オリジナルアルバム
Failure『フェイラー』 (1988) ※インディーズ
Dear 23 『ディア23』(1990)
Frosting on the Beater 『フロスティング・オン・ザ・ビーター』(1993)
Amazing Disgrace 『アメイジング・ディスグレイス』(1996)
Success 『サクセス』(1998)
Every Kind of Light 『エヴリ・カインド・オブ・ライト』(2005)
Blood/Candy 『ブラッド/キャンディ』(2010)
Solid States 『ソリド・ステイツ』(2016)
メンバー
〈解散時メンバー〉
ジョン・オウア(Vo、Gt)
ケン・ストリングフェロウ (Vo、Gt、Key、ba)
フランキー・シラグサ (Dr)
〈元メンバー〉
アーサー・ロバーツ (Ba)(1988年~1992年)
デイヴ・フォックス (Ba)(1992年~1994年、2018年~2019年)
ジョー・スカイワード (Ba)(1994年~2001年、2013年~2014年)
マット・ハリス (Ba)(2001年~2012年)
ブライアン・ヤング (Dr) (1994年~1998年)
マイク・ムスバーガー (Dr)(1988年~1994年、2018年)
ダリウス・ミンワラ (Dr)(2001年~2014年)
1 Failure (1988)
インディー・レーベルのポップラマからリリース。
二人は持ち寄った曲をジョンの8トラックに録音。ジョンがドラムを叩き、ケンがベースを弾き、二人でギターとヴォーカルを担当。88年4月に制作費50ドル、当初はカセットのみでのリリースだった。その後ポップラマのコンラッド・ウノの耳に止まり、同年12月にLPとしてリリースされた。
「At Least For Now」
ケンとジョン二人の演奏によるもので、録音環境等も含めてクオリティはそれほど高くはない。ただ、レーベルの目に留まるだけあって、楽曲自体はその後のポウジーズを物語るかのような素晴らしさが垣間見える。
2 Dear 23 (1990年)
90年リリースのメジャー1stアルバム。
プロデューサーには、ラーズやトラッシュキャン・シナトラズ、ストーン・ローゼズを手掛けたジョン・レッキーを迎えた。これだけでポウジーズへの期待値がどれほどのものかがわかる。そして、メジャーということもあり、レコーディング環境は格段に向上し、音のクオリティもバランスも比べ物にならない程よくなった。「My Big Mouth」や「Golden Blunders」などライブで定番となったポップな名曲も多い。
「Golden Blunders」
これぞポウジーズというようなパワーポップソング。
この曲はUSモダンロックチャートでも17位とバンドの名前が大きく知られるきっかけとなった曲。僕にとってのポウジーズとの出会いもこの曲だった。また、当時オレゴン州ポートランドで観た彼らのライブ、この曲でのオーディエンスの盛り上がりも未だに記憶に焼き付いている。
3 Frosting on the Beater (1993)
そして、ポウジーズファンの多くが認めるであろう最高傑作。93年リリースの『フロスティング・オン・ザ・ビーター』。
これほどアルバムのクオリティと評価とセールスがアンバランスなアルバムも珍しい。プロデューサーにはティーンエイジ・ファンクラブやホール、スクリーミング・トゥーリーズなどを手掛けたオルタナポップの鬼才、ドン・フレミングを起用。そしてアルバム収録の楽曲は、名曲「ドリーム・オールディ」から始まり、おそらく彼らのキャリアの中でもベストソングと思われる「ソーラー・シスター」や「フレイヴァー・オブ・ザ・マンス」、「ラブ・レター・ボックス」「バーン&シャイン」など文句のつけようがない程見事なメロディのパワーポップソングが並び、アルバムのエンディングは空間を切り裂くような切ないギターが特徴的な「カミング・ライト・アロング」。
このアルバムは93年のグランジ全盛期から今もなおパワー・ポップの超名盤として知られ、その楽曲サウンドクオリティは非常に高く、批評家や評論家からの評価も高い。それなのにアルバムはイギリスのチャートで100位以内を記録した程度で、セールス的には大ブレイクといかなかった。今聴いても、このアルバムはもっと売れてよかったと思う。
『Solar Sister』
僕は本当にこの曲が彼らキャリアのベストだと思っているのだが、どうだろうか。これほどまでにポウジーズの名刺代わりとなる曲はないのではなかろうか。かき鳴らすギターにポップなメロディーが乗り、ジョンとケンの見事なコーラスが展開される。ケンの少し甘い声がまたこの曲のメロに合うし、ちょっと疾走感があるところがまた良い。
『Flavor of the Monthe』
この曲も歌い出しからジョンの締まった歌声とメロディが素晴らしい。そしてやはり二人のハーモニーが絶妙だ。基本的にジョンとケンの声質というのは互いを引き立たせることができるとても合うものなのでしょうね。
4 Amazing Disgrace (1996)
96年4枚目のスタジオアルバム、『アメイジング・ディスグレイス』をリリース。前作があまりに素晴らしかったためどうしても比較されてしまうが、このアルバムも実は楽曲が粒ぞろいでとても良い。プロデューサーにはP.I.Lやケイト・ブッシュとの仕事で名を馳せたニック・ローネイを起用し、アルバム全体は『フロスティング・オン・ザ・ビーター』よりロック色が強くなり、キャッチーさがその分若干減った。それでもPOPなメロディと美しいハーモニーは健在でシングル「Ontario」や「Precious Moments」「Fight It」などポウジーズらしいパワー・ポップ全開の良曲が多い。
『Throwaway』
中でも3曲目の『スローアウェイ』は絶品だ。バース1静かな立ち上がりからバース2のポップなメロディーにジョンの声質がよく合っていて、フックで敢えて最後のコードをマイナーで落ち着かせる世界観が良い。いい曲だ。
5 Success (1998)
ポウジーズがメジャーから離れ、ポップラマに戻ってリリースしたのがこの5thアルバムの『サクセス』。プロデュースに名を連ねるのは、バンドの他にジョニー・サングスターとポップラマのコンラッド・ウノ。スタジオ機材の問題か、環境か、もしくは敢えてそういった音作りなのか、アルバム全体の音が軽目で薄く感じる。ふくよかさに欠ける気がするのだ。ギターの歪みが細いというか…。音がバラけて聴こえないというか…。気のせいだろうか。曲は「You`re The Beautiful One」や「Fall Apart With Me」「Who To Blame」「Friendship of the Future」など悪くはないのだけれど。
『You`re The Beautiful One』
ゆったりとした曲調に丁寧なケンの歌声がのる。美しいメロディにフックでジョンの歌声が重なり、”あなたは美しい” というストレートな歌詞が刺さる。欲を言えば、もっと深みのある録音状態の音でこの曲を聴いてみたい。
6 Every Kind of Light (2005)
ポウジーズ名義でのオリジナルアルバムとしては7年ぶり。6thアルバム『エヴリ・カインド・オブ・ライト』はリリースまでの期間が長かったせいか、1曲目の「It`s Great To Be Here Again!」や「I Finally Found A Jungle I Like!!!」なんかを聴いた瞬間、違うバンド?と思うほどサウンドに変化があった。キーボードを積極的に取り入れたことが理由だろうか。ただ「Conversion」のようなポウジーズらしいパワーポップの良曲や「Love Comes」のようなメロセンス抜群のポップソングなど聴くと、やっぱりこういったメロディ&ハーモニーはポウジーズの真骨頂だなと思う。
『Conversations』
切ない線の細いアルペジオから始まる曲だが、フックはポウジーズらしさが出る。"Conversations On And On"と続いていく力強さが伝わるメロディが良い。
7 Blood/Candy (2010)
2010年リリースの7thアルバム『ブラッド/キャンディ』。
前作ではキーボードを取り入れたことでいくつかの曲でサウンドに大きな変化をもたらしたが、このアルバムもその流れを組んでいる。いわゆる90年代的なパワーポップ一辺倒ではなく、曲調も音にも幅が生まれた。従来の彼ららしい「The Glitter Prize」「Cleopatra Street」やインディー・フォーク的なアプローチの「So Caroline」などもあるが、ビーチ・ボーイズやクイーンなどからも影響を受けているのでは?という楽曲もあり、今までに無いバリエーション豊かなアルバム。
「Licenses To Hide」
この曲を聴いた瞬間、ジェリーフィッシュみたいな曲だなと思った。いい意味で今までのポウジーズのメロディの良さに、その変幻自在なポップセンスが加わった!というイメージ。
8 Solid States (2016)
実質ポウジーズ最後のアルバムとなってしまった2016年8thアルバム。
個人的には3rdの『フロスティング・オン・ザ・ビーター』以降のアルバムで一番好きなアルバム。ドラム以外の全ての楽器をジョンとケンで、ドラムは元々ポウジーズのファンで解散まで在籍したフランキー・シラグサが殆どの曲を叩いた。そんな事もあってか、アルバムの世界観のまとまりが良い。
「Scattered」「Titanic」「March Climes」など、ポウジーズらしくもあり、Weezerなど他のパワーポップのレジェンドバンドから影響を受けたような曲もあり、彼らの美メロ、美ハーモニーが非常に生きているアルバムだと思う。
「Titanic」
タイトルがタイタニックとあり、どんな歌詞の内容なのだろうと読んでみたが、元々歌詞の内容を深読みしたりすることが得意ではないので、正直、意味は全くわからなかった。それでも軽快なドラミングにのるギターの薄いアルペジオにベルの音、フックのコーラスワークなどポウジーズらしいなぁ、とグッと来る。
次のアルバムが待ち遠しいバンドだったが、2021年にケンが告発された事によってバンドはすでに完成していたアルバムもお蔵入りとし、解散してしまった(実質はジョンとフランキーが即脱退を表明した)。告発内容に対してケンは真っ向から無実を訴えているが、デビューからずっといっしょにいたジョンがすぐにバンドを去ったことなどを考えると、真実はどこにあるのだろうとモヤモヤする。告発内容が事実だと判明したらなかなか今後ポウジーズを聴くのはどうかと思うが、ポウジーズにはジョンが残した多くの名曲があるのも事実。長年のファンとしてはこんな結末は悲しすぎる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?