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おれの父方のじいさんは海軍で南方へ行ったりした堅い職業の人で、そのまたじいさんは奥州米沢で八百松という造り酒屋を営んでいたこれまた四角四面の堅い人。

かと思いきや、裏表ないよであるのが人の常。馴染の芸者との間に男の子ができ、妾腹ということでその母子は家には入れてもらえず米沢から居をうつし福島県須賀川に身を落ち着けることに。母親は習いおぼえた三味線で女手ひとつ子供をそだてる三筋の世渡り。

母親の苦労の甲斐あって旧制中学を出た息子は食いっぱぐれのない米屋に勤めはじめるが、大正2年の大火によって店が消失。命ばかりはとりとめたものの無一文無一物、生きる術を失った母子が途方に暮れていたところ、八百松の手代が使者としてやって来た。
主人である父親は寄る年波ですっかり気弱になり、そんな折に後継ぎの一人息子が急死したため養子となって跡をついでほしいとその話。地獄に仏、大海浮木とはこのこと。

一度自分たちを捨てた恨みはあれど背に腹はかえられず、手代と連れ立って米沢へもどり八百松の主人となり妻帯したが、母親が病死したころから身を持ち崩し、店の身代をかたむけた上、父親と同じくお妾に男の子をうませ、母子ともども家を追い出してしまう。因果はめぐる風車。
その後、家は没落。
この男の子が冒頭に書いたおれの祖父その人で、のちに海軍に入り横須賀で知り合った福島県いわき出身の祖母と出会い終戦後いわきに定住した。
というのは、嘘「八百」の「造り」話。

ご無礼いたしました。

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