見出し画像

ポートメッセなごやの終演後ラッシュは避けられないのか?

年末の整理をしてたら作りかけの時刻表が出てきたので、それをベースに少し書いていく。

2023年7月29日・30日に開催されたTHE IDOLM@STER MILLION LIVE! 10thLIVE TOUR Act-2 5 TO SP@RKLE!!。公演としては大変満足したものであったが、多くの参加者にとって記憶に残ったのは終演後のあおなみ線乗車までの長蛇の列だろう。終演後、あおなみ線金城ふ頭駅の入場規制のため駅前ロータリーを1周するような形で長蛇の列が形成され、熱帯夜の中で長時間待つことになった。この模様は何故か朝の情報番組にまでバンナム映像提供で取り上げられた。こうした事態から、名古屋の西武ドームやベルーナドームの方が帰りはマシとネット上では言われていた。まあそもそも今年の夏の暑さで同じ日に同じセトリでベルドでライブやったら熱中症が続出するが。
私も両日参加したが、特にDay1は後方の席だったこともあり20:45頃の終演に対して金城ふ頭駅で乗れた列車は22:08発。名古屋駅に着いたのも22時半過ぎで夕飯を食べそびれかけた(マックはやってたので事なきを得たが)。

ということで今回は自称西武野球臨研究家の筆者目線から、なぜあおなみ線の終演後ラッシュが避けられないのかを考えていく。

あおなみ線の路線概要

まずあおなみ線の路線概要を簡単にまとめる。

  • 路線数:複線

  • 運行間隔:ラッシュ時最短10分、通常時15分

  • 所属編成数:4両×8編成

  • 所要時間:標準24分

  • 貨物と共用

  • 全駅にホームドア設置

先に比較対象として挙げられたベルーナドームのアクセス路線である西武狭山線と比べてみる。両路線ともイベント開催時は臨時列車を増発するが、狭山線は単線であることから交換の関係で(追加料金を必要としない)普通列車は最大でも7.5分間隔でしか運転できない。一方であおなみ線は複線であるため理論上は運行間隔の制約が少ない(この点は後述)。他方あおなみ線は4両編成だが、狭山線は10両編成まで対応のため1本当たりの輸送力では2.5倍程違うことになる。
なおポートメッセなごやとベルーナドームの最大の違いは鉄路以外でのアクセスがある。ベルーナドームは県道55号など周辺道路が片側1車線かつ他、ライブ開催時は施設の駐車場の利用が大幅に制限されるためほとんどの参加者は鉄道利用となる。山口線に乗る手や、多摩モノレールの上北台駅まで歩くこともできるが、山口線の輸送力は乏しく(1本の定員が302人、乗車率150%でも450人)、上北台駅までは歩道や街灯の無い坂道を下って約20分程かかるためそこまで推奨はできない。一方でポートメッセなごやは公共交通機関としてはあおなみ線に限られる一方、自動車では伊勢湾岸道名港中央ICが近接し、あおなみ線を沿うような形で市道金城埠頭線も通っている。会場駐車場も5000台あるため、会場キャパの約15000人(Act-2時は約12000人来場)のうち1/3ほどをカバーできる計算となる。この点は車社会の中京圏ならではとも言えるだろう。

あおなみ線の最大の特徴は、貨物列車と路線が共用なところだ。あおなみ線自体は名古屋駅で終点であるが、線路は名古屋駅から先、枇杷島方も続いており、東海道本線の貨物線である稲沢線として稲沢操車場まで繋がっている。また荒子駅~南荒子駅間には名古屋貨物ターミナルが存在し、稲沢操車場とともに中京圏の一大拠点となっている。加えて名古屋駅~ささしまライブ駅~笹島信号場の1.8Kmは関西本線方面の貨物列車もあおなみ線の線路を走行する。これらは元々あおなみ線は西名古屋港線という貨物線として作られたためである。

あおなみ線名古屋方面土休日通常ダイヤ(金城ふ頭発19時~22時台)
青字は貨物

今回検証していくのは土休日の19時台~22時台となるが、上記のようにこの時間帯においても毎時2本程の貨物列車が運行している。そのためこの貨物列車もイベント時の列車増発上の制約となってしまっている。ではこの制約がどの程度のものなのかを次項で見ていく。

ライブ開催時のダイヤ

ここからはポートメッセなごやにて今年開催されたライブでの臨時列車を見ていく。なお今回は時期及び規模が比較しやすいように7/29,30に開催されたTHE IDOLM@STER MILLION LIVE! 10thLIVE TOUR Act-2 5 TO SP@RKLE!!(以下ミリ10th)、8/26,27に開催されたラブライブ!スーパースター!! Liella! 4th LoveLive! Tour ~brand new Sparkle~(以下Liella4th)、9/16,17に開催されたウマ娘 プリティーダービー 5th EVENT ARENA TOUR GO BEYOND -GAZE-(以下ウマ5th)の3公演5日分を対象とする。
あおなみ線のライブ開催時ダイヤの特徴として各公演の終演時間毎によって設定される臨時列車が変わることである。これは公演毎に設定されており、期間中に終演時間が異なる場合はその日ごとに別のダイヤが設定されている。

①7/29ミリ10thDay1(開演17:30)

あおなみ線名古屋方面7/29ダイヤ(金城ふ頭発19時~22時台)
赤字はノンストップ、緑字は臨時普通、青字は貨物

臨時列車が運行されたのは金城ふ頭駅基準で21:27発以降からだが、比較のため19時台から掲載する。なお時刻表上での検証のみのため、貨物8286レは臨時普通の後ろでの運転の可能性もある。臨時列車はノンストップが4本、臨時の普通が3本の計7本運転された。
この時間帯、通常ダイヤの普通列車は3運用。他方、臨時列車は計算上4編成が充当。そのため所属8編成中計7編成を使用していたことになりほぼ上限マックスでの運転である。
なおこの日の終演が前述のように20:45頃だったため、臨時列車の1本目まで30分ほど空いていた。事前ダイヤ決定のため終演時間が前後するライブでは難しい部分でもあるが、この30分空いた点(&規制退場ではあるが駅の混雑関係なく会場退場させた点)が混雑に拍車がかかった点だと個人的には考える。ちなみに狭山線の場合は終演後にダイヤが決まるため、優等が終演後15分前後程に1本目には出るのでこうしたタイムラグは小さい。

②7/30ミリ10thDay2(開演16:30)

あおなみ線名古屋方面7/30ダイヤ(金城ふ頭発19時~22時台)
赤字はノンストップ、緑字は臨時普通、青字は貨物

この日はノンストップ6本が運転。終電との兼ね合いなのか前日比では1本減。また似た時間帯であっても前日と若干スジが違う列車も存在している。事前に設定されたパターンダイヤから4~7本を追加で運転していく狭山線と異なり、輸送量や前後の列車間隔に応じてスジを書き換えているのがあおなみ線のようだ。この日も臨時列車には4編成が使用されている。

③8/26 Liella4thDay1(開演17:30)

あおなみ線名古屋方面8/26ダイヤ(金城ふ頭発19時~22時台)
赤字はノンストップ、緑字は臨時普通、青字は貨物

この日の臨時はノンストップ4本と臨時普通2本の計6本。これも4編成で回している。ノンストップのスジはミリ10thDay2で運転されたノンストップと後ろ4本と同じダイヤとなっている。

④8/27 Liella4thDay2(開演16:30)

あおなみ線名古屋方面8/26ダイヤ(金城ふ頭発19時~22時台)
赤字はノンストップ、緑字は臨時普通、青字は貨物

この日の臨時はノンストップ6本で、4編成で運用。ミリ10th同様Day2はノンストップ主体となっている。

⑤9/16,17 ウマ5th(開演16:00)

あおなみ線名古屋方面8/26ダイヤ(金城ふ頭発19時~22時台)
赤字はノンストップ、緑字は臨時普通、青字は貨物

ウマ5thは2日間16:00開演予定であったため、両日とも同じダイヤで運転された。計算上は3運用で回している。19:25~20:26の時間帯は名古屋貨物タ発、関西本線発を合わせると5本の貨物が設定されているため、これ以上の増発ができないためであろう。
なおDay1開場時間が16:30に変更、Day2は音響トラブルによりいずれも終演が押した。そのため両日とも臨時が3本とも空打ちになる事態となった。

ダイヤ検証

ここまで各日のダイヤを見てきたが共通した特徴として、Day1は臨時普通があり、Day2は全便ノンストップである点だ。ただこの設定なのは今回取り上げた3公演の場合であり、例えば8/19,20で開催されたNiziUのライブはDay2でも臨時普通が出ている。逆に1/13,14に開催予定のポルノグラフィティのライブは両日とも臨時はノンストップで全便運行と発表済だ。

ではノンストップのみの運行の場合と、臨時普通が設定される場合が分けられる理由は何かを考える。ライブ終演後の乗客はほとんどが名古屋へ向かうため全便ノンストップであるのが自然である。あるいは沿線住民のことを考慮すると全便普通であることの方がメリットがある。どうして混在しているのか。
ミリDay1、LiellaDay1、そしてここには掲載していないがNiziUで共通している事項がある。それは臨時普通が運転されるのは21時台ということだ。21時以降に港湾関係者も増えるためその利便性を測るということも考えられるが、あくまでダイヤ上の制約から考えていく。

臨時普通のあるミリ10thDay1の21時台以降を抜粋

(以下金城ふ頭発基準)21:27は後続の貨物から逃げるためにノンストップ設定と推測、21:30発は定期。21:35発が臨時普通になるがノンストップの所要時間は17~18分のため先発から5分間隔で21:35をノンストップで出すと、先発列車に追いついてしまう。そのため臨時普通として間隔を調整している。逆に定期21:47の普通の3分前の21:44にノンストップを出し、名古屋着時点で差がつくようにしている。つまり21:30~21:47の17分間に2本の臨時を出すための策として臨時普通とノンストップを組み合わせて運転している。他方、これより前の時間帯は定期普通の間にノンストップを1本入れるだけのためノンストップのみで済んでいる。
21:59発についてはノンストップで運転できない理由が難しいが、考えれる点としてはノンストップで運転した場合は名古屋着が22:16前後となるため名古屋発22:18と被る。22時以降に使用するホームを1本に絞るために臨時普通として運転し間隔調整をしている可能性はある。22:21発については、金城ふ頭発を早くしたい一方でノンストップで運転した場合は貨物の8286レと干渉するため臨時普通で対応と思われる。
貨物における制約としては、貨物が走る時間帯であっても15分間隔の中に1本臨時を入れ込むことができている。しかし貨物がある場合、21:30~21:47のような2本入れ込むことが困難であるためこれ以上の増発を不能とする存在となっている。

但しNiziUの場合は、金城ふ頭19:40→名古屋20:03で臨時普通が設定された。ウマ5thにおける金城ふ頭19:42→名古屋20:01の時間帯だ。これについては時刻表の表面的に表れる部分において説明することが難しいが、可能性の1つとしては貨物1095レとの兼ね合いだろうか。NiziUの際は臨時普通として1095レとの間隔を空けたが、ウマ5thの際は間隔を狭くできる何らかができたのかもしれない。

あおなみ線の終演後ラッシュは避けられないのか

ここまでダイヤ上でのライブ開催時のあおなみ線の現状を見てきたが、この終演後ラッシュを改善する方法はあるのだろうか。結論から申し上げると、あおなみ線だけでは終演後ラッシュを避けられないということになる。
まず第一に車両・ダイヤ双方の面から、あおなみ線のこれ以上の増発は不可能な点にある。時間帯によってはやりよう次第で設定できる可能性はあるが、貨物によってこれ以上の増発ができない時間帯もある。特に名古屋貨物タ発基準で19:42~20:37の55分間で関西本線発も含めると5本の貨物が走る。この時間帯は16時開演で3時間公演、16時半開演で2時間半という標準的なライブにおける終演時間と見事に合致するため、この時間帯での追加増発は困難となっている。このコア時間帯に増やせないとラッシュの改善は難しい。
その上多くの場合で所属8編成中7編成使用のダイヤを組んでいるため、1本でもコア時間帯に増発した場合場合予備0となる。前述の西武山口線など多客時に予備0で運行している路線はいくつか存在するが、そうした路線は車両の長期間離脱が必要な検査を閑散期に行えるように設定してやり繰りをしている。しかしポートメッセなごやは屋内会場のため、先約が入っていたり施設の整備点検であったりの事情を除けば使用が限られる時期はほぼない。降雪などの影響も極めて少ないため、夏だろうが冬だろうがライブができる。そのため施設の閑散期というものが無く、集中的に検査を行える時期が存在しないため、同様の措置を取ることができないのである。
加えて同じ保安装置を持つJR東海から借り入れて運行することも考えられるが、その場合でも今度はホームドアの問題がある。ノンストップでの運転でも名古屋駅、金城ふ頭駅共にホームドアが設置されており、JR東海の車両にはTASCが搭載されていない。金山駅にホームドアが設置されているためTASC無しでホームドアに対応すること自体は物理的にはできるが、金城ふ頭駅はフルスクリーン型であることなどから保安装置が同一であるだけで乗り入れ可能かと言われれば難しいと思われる。

ではポートメッセなごやの終演後ラッシュは何も対策されていないのか。これもNOであり、策としては打たれている。あおなみ線以外への分散策である。前述の上記3公演の際には、バスツアーやシャトルバスが設定された。ミリ10thの際はあくまででらますの1施策としての往復バスであったが、ミリ10thの際の事態を受けてか、ウマ5thでは名古屋まで1500円(+手数料)のシャトルバスが販売された。バス運転手の人材不足の中でも、数多くのバスが金城ふ頭へ送り込まれ、ライブ参加者を名古屋まで運んだ。ミリ10thから一連の流れとして名鉄観光グループ様様である。

また長期的な面でも打てる策が無い訳ではない。あおなみ線は当初から6両編成への増結が視野に入れられており、ホームは6両分の有効長が用意され車両側も増結が可能な構造となっている。ポートメッセなごやの新第1展示場の供用開始が2022年10月で一定の需要や輸送量の結果が出る頃だろう。今後も混雑が続くようなら増結の実施も考えられるだろう。事業化まで4~5年はかかるだろうが


同じ名古屋で多くライブが行われる日本ガイシホールが来年4月から25年6月末まで改修工事で使用できないため、ガイシの改修と愛知国際アリーナ(最大キャパ17000人で25年夏改行予定)の竣工まで愛知圏の5000~15000キャパでのライブはポートメッセなごやとSkyEXPO、ドルフィンズアリーナの3択となる。SkyEXPO、ドルフィンズアリーナは7000キャパ前後のため、ガイシ(最大10000キャパ)の代替としてこの1年半でポートメッセなごやの利用は更に増えるだろう。25年夏以降が愛知国際アリーナへどれくらい流れるかによって長期的な投資は変わっていくだろうが、まずはこの1年半の間はミリ10thでの長蛇の列が無駄ではなかったような会場、輸送運用を行ってほしいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?