B→C 山澤慧

山澤慧というチェリストは稀有な存在である。
現代音楽への深い理解と、確かな技術、そして音楽への誠実さ、この辺りは一定以上優れたチェリストであれば誰しもに備わっている要素であるかもしれないが、彼を彼たらしめる所以はその活動内容にある。現代の若い作曲家たちへの委嘱企画を続けているところだ。

ソロで人前に立つ演奏家は、必然的にコンサートの場を自己表現の場として用いることになる。その機会を彼は自分だけのものではなく、現代音楽界の活性のために利用する。自らがエンジンとなって閉じた世界になりがちなクラシック音楽の現代音楽全体を推進させるかのように。

オペラシティで行われる「B→C(ビートゥーシー:バッハからコンテンポラリーへ)」は若手日本人演奏家によるリサイタルシリーズで、1998年にスタートした。既に公演回数は200を超え、バッハ作品から現代作品までを組み合わせた意欲的な内容は人気を博している。

今回の第219回B→C山澤慧はとりわけこのリサイタルシリーズの表題を意識させるような内容であった。

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J.S.バッハの6つの無伴奏チェロ組曲の前奏曲にそれぞれ繋がるようにという依頼の元で書かれた委嘱新曲が演奏されるという試み。巨人の作品と並べて(しかも繋がるようにという文脈付きで)鑑賞されるというのは、曲を書く方に取っては多大なプレッシャーがかかることは想像に難くなく、しかも寧ろプレ前奏曲といった位置付けに置かれているにも関わらず演奏会としては寧ろそれぞれの組曲のメインディッシュとして聴かれる立場になるわけで、日頃クラシック作品と現代作品とを自在に行き来している山澤氏だからこそ許されるプログラミングであったと思う。

今回委嘱を受けた6人はそれぞれ新進気鋭の作曲家であるだけでなく山澤氏の知己であり、自身が触媒となって音楽界を盛り上げていこうという気概を強く感じた。B→Cという大舞台でも日頃の活動であるマインドツリーシリーズとリンクした内容を披露し、聴衆も満席の客席でそれに応える、現代の演奏家たちの中でもスペシャルな立ち位置にいる彼の存在は、同世代の自分にとっても大いなる刺激である。


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