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ムリウイの作り方 物件との出会い


いったい何年この錆びた階段を人はのぼらなかったんだろう?


4ヶ月の交渉の末ついに禁断の扉を開けたのは一隻の小さな難破船


契約をむすんだ日、古いビルの屋上にアンカーを降ろす日、快晴


本当にこんな所でいいんですか?飲食店ですよね?宗教とかじゃないですよね?
そこでスパンと街の雑踏が切り取られたように空だけが広がり、何も聞こえない


鉄の扉を開け中に入ると驚くほどそこには何もなかった。何もない、という贅沢。
古い鉄骨と鉄枠の窓とコンクリートの床だけが数年ぶりの訪問者に驚いている


7メートルの窓をすべて開け放すと、待ち構えていた空気が外から一気に入ってくる。
「箱」は自分が生きていることをにわかに思い出したかのようにカタカタと動き始める


窓に近づくと飛び移れそうなくらい間近に木々が見える、そこに集う鳥が見える。
ふと数日前TVで見た不思議なサルのことを思い出した。確か「ムリウイ」だった。


何かに呼ばれた気がして振り返ると、そこには光があった。
そうか、これから毎日この場所にこの光を見にくるんだな。


しめた。このからっぽの空間には「必要なもの」がすべてそろってるぞ。
いま見てるものをそのまま人に見てもらいたい。この箱を壊さないようにしよう


この場所は自分を必要とするだろうか?自分に何が出来るだろうか?光の番人?