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(ネタバレなし)劇場版少女☆歌劇レヴュースタァライトは「極上ケーキ食べ放題」みたいな劇場版アニメ説

今さら劇スを観ておかしくなっている人の記録。


1.前置き

 劇場版少女☆歌劇レヴュースタァライトが大変非常にベリー面白かったので、周囲の人にネタバレを避けてオススメしようとした結果、『なんかすごいパァーンなってジャーンってなるアニメですごいんだよ、観ようよ!』『ハァ?』という大惨事が起きました。そんなわけで、この劇場版はどんなアニメなのかを改めて考えてみる話です。

2.キレイに終わったTVシリーズの後に出てくる劇場版は何をすればいいの問題

 本題前に、劇場版レヴュースタァライトの持つ特異性について書きます。
 私は、『最近の一般的なアニメのTVシリーズにて、ストーリーが最後までしっかりと完結した後で、様々な理由で追加で劇場版アニメが作られる』というような場合、2つの構造的問題があると思っています。
 1つ目は「公式の蛇足による、あそこで終わっておけば名作だったのに問題」です。1度終わった物語の後に出るタイプの劇場版には、「短い時間で倒せる新たな強敵」とか「突然のゲストキャラがトラブルを起こす」とか「主人公が解決したはずの心の課題がもう一度同じ形で復活する」とかといった、ファン目線でなんとなく雑に見えてしまう付け足し、焼き直しが起こりがちです(これは好みの問題で、特定の作品を悪く言う意図は無いです。むしろ劇場版で盛り込んだ新要素のおかげで傑作になる場合も沢山ある)。
 2つ目は「コレわざわざ映画館で観る必要無かったよね問題」です。1つ目の「あそこで終わっておけば名作だった」問題を解決するため、冒険を避けてTV版の持ち味を極力活かす形にすると、今度はどうしてもTV版と同じ味がする画面になってしまうわけです。だったら劇場版じゃなくてTVで続きをやればいいよね、と思ってしまうのです。もちろん、TV版そのままのキャラクターが大きな映画館のスクリーンに映ることは、ファンの健康にとても良いことではあるのですけれども。劇場版アニメを映画館で観る時、『大画面でTVシリーズの続きを観ているだけ感』を感じたこと、ありませんか。
 この2つの問題に対して、劇場版レヴュースタァライトが採用した完璧な解決策があります。(はじめから狙ってたのかどうかは知りえません)

3.映像表現で、感情だけを伝える

 まず1つ目の「公式の蛇足による、あそこで終わっておけば名作だったのに問題」の解決について。劇場版レヴュースタァライトは「新しい物語を足さない」という選択をとりました。本当に何もドラマを起こさない。心理描写は過多と言えるほどあるのに、状況説明は一切無く、感情移入できるような物語性が徹底して排除されています。虚構が入り混じる事実と、登場人物の感情だけの列挙。付け足した物語が無いため当然の帰結ですが、鑑賞後の蛇足感が本当に無いです。
 そして2つ目の「コレわざわざ映画館で観る必要無かったよね問題」の解決については、「映画館で映える映像表現、映画的演出に全力を注ぐ」という正面突破で乗り切っています。私自身はまだ映画館で観ていません(観たら倒れるという恐怖が強いため)。ですが、巷で「とにかく映画館で観ろ」と言われている演出、映像美、音響、それらを掛け合わせたすべてに、映画館で観る価値があると感じています。
 まとめると、映画向け演出を大量に増やして、ストーリー要素を減らし、演出で感情だけを伝える。結果これが劇場版アニメにありがちな問題を全部取っ払っていると思えます。

4.極上のケーキを食べ放題

 こうして『いささか異質な劇場版アニメ』とも呼べる、劇場版レヴュースタァライトが生まれました。ここから本題です。大団円を迎えて終了したTVシリーズの後に出される劇場版ですが、その系列にありがちな問題は解決されています。劇場版レヴュースタァライトは完全無欠です。
 もしTVシリーズや総集編を料理のメインディッシュに例えるならば、この劇場版は、メインの後にお出しされる最ッ高のデザートタイム、極上ケーキ食べ放題バイキングと言えるでしょう。極上とつけたのは、劇場版として、デザートとしての問題がないから、そしてケーキの品質が非常に高いからです。職人がこだわりにこだわりを塗り重ね生み出した究極の食感。これまで食べてきたメインディッシュの後味を失わず、むしろより引き立てる方向で丁寧に隠し味として再配置される上質食材の数々。見たことが無いほど過剰なまでに盛り付けられたビジュアル。どのケーキも輝くばかりに美しく個性的ですし、だいたいトマトが上に乗っているし、ケーキの中に入っているやたら存在感のあるバナナはとても魅力的です。

5.ただし、ケーキ食べ放題が苦手な人もいる

 ここで少しオススメの話に戻りますが、私がオススメして驚いたのは、劇場版レヴュースタァライトを観てもおかしくならない人間がいる、観た後で夜中に突然目が覚めて謎の感動で泣かない人間もいるということです。
 なんだかんだで「ケーキ食べ放題」って結構、人を選ぶイベントなんですよね。ケーキって、あくまでデザート、たま~に食べるから美味しいのであって、普段はそんなには必要ない。
 
そもそも甘いものを全く受け付けない人だってたくさんいます。見た目の演出や感情といったケーキ的キラキラ要素に全くピンと来ない人には、この劇場版をすすめない方がいいまであるかもしれません。
 たぶん一番多いパターンは、確かにケーキも食べる、そこそこケーキは好き。だけど、そんなに大量にケーキだけ出されても正直うーんって感じ、2個目で飽きるわ、それより肉とか食べ放題にしてくれない? みたいな人達ではないかと。
 劇場版レヴュースタァライトのオススメもそんな危うさがあります。本当に大丈夫な人だと、いきなり極上ケーキ食べ放題に案内する(初見で劇場版から入る)パターンで全く問題ないと思います。けど、そこまでケーキ好きな人でないなら、やっぱりメインディッシュをきちんと味わってもらってから、デザートへの需要を高く積み上げてから極上タイムにつなげないとイマイチ良さが伝わらないっていうような気がします。このあたり結局、人によるとしか言えず難しい。
 名作映画を、観た人100人のうち90人がもう1回見たくなる映画だとすると、劇場版レヴュースタァライトは、観た人100人のうち5人が1000000回見たくなる映画、そんな違いがある気がします。根拠は無い。

6.最初のひとくちが一番おいしい

 ケーキって、最初のひとくちが一番美味しい感じしませんか? しない?ああそうですか。するって前提で話を続けますね。
 
ケーキってものはとにかく、見た目で期待値を上げてくる食べ物だと思います。そして私の感覚ですが、ケーキの感想には順番があります。まず視覚による期待感、雰囲気が一番最初。見た目すご~い、そして食べる、おいし~~い、からのこんな味がするんだ、これ何の味だろう、最後に、あっ、こんな食材も入ってるんだ~、という順番があります。
 劇場版レヴュースタァライトも、この『ケーキの順番』を守っている気がするんです。最初はおいしいかどうかさえ分からない。「見た目、なんかすごい」がまず一番に来る。実際は映像なので聴覚の心地良さもありますね。で、その後で、理由はよくわからないけど、とにかくおいしいぞのターンが来ます。ここが最高。最初のひとくちが一番おいしい。「〇〇という理由でおいしい」というような余計な理屈を通すことなく、本能で『なんか良い』と感じているので、さっぱり分からないけど、なんだか知らんがとにかく良い。そして食べ放題なので、この「わからないけどおいしい」という極上ケーキの最初のひとくちがどんどん入ってくる。一つの極上ケーキを理解して食べ終わらないうちに次が運ばれてくる。幸福の連鎖です。
 しかしケーキですからね。せっせと食べ続けているうちに、やがて限界、満腹感がやってきます。人間そんなにケーキだけ食べられるようには出来ていないんですよ。食べ放題は完食できません。

7.そして発動するトラップカード

 しかし、ここでとんでもない罠が発動します。今まで劇場版レヴュースタァライトは「極上ケーキ食べ放題」だと言い続けてきました。それは嘘や。食べ物には「満腹」という物理的摂取上限があり、それは特にケーキの場合、その限界はすぐにやってくるものです。ですが、実際には劇場版レヴュースタァライトは食べ物ではなく映像作品ですので、現実にはお腹がふくれることがない。たとえ映像的な満腹、すなわち脳の処理能力が自分の限界を超えたとしても、目と耳を閉じない限り最ッ高においしい極上ケーキがずっと体内に流れ続けてくるんです。そんなことある? さらにヤバイことに、この極上ケーキ食べ放題は後半になればなるほどギアをアゲてきます。初見だと、だいたい映画の途中あたりで、「この作品はこんなタイミングまで計算されている。もしかして『この高いレベルのままで』最後まで突っ走ってしまうのではないか?」と気づくのですが、実際はさらにレベルが上がっていくので、序盤で楽しくなっていた人ほど後半では感覚が終わると思います。限界を超える映像の魔力。監督は終盤のことを指して『観たら気絶する』みたいな表現をなさっていたようです。「劇場版を浴びてスタァライトされる」というファンの謎表現がしっくりくるのも、この辺が理由な気がします。

8.結局どういうアニメなのか

 どういうアニメなのか、という具体的な全体像までは見えませんでしたが、少なくとも「分からないけど面白い」が連続する感覚、それがこのアニメを表す一つのポイントになりそうです。
 ちなみに劇場版レヴュースタァライトを何周も観ていると、なぜおいしいのかの理解度が上がってきて、好きな味の区別もつくようになってくるのですが、「分かってくる」ゆえに「さっぱり分からないけどおいしい感じ」は目減りする傾向にあります。しかし恐ろしいことに、この劇場版は目減り問題を「物量」でカバーしてきます。ここでも「食べ放題」です。抽象的で難解なものを短時間に大量連投することで、分かるケーキより「よく分からない」ケーキがより多く流れ込んできます。そのせいで「分からんけどおいしい」の期間が異常に長いです。「理解して美味しい」と「分からんけどおいしい」の二段構えで脳がバグります。少なくとも私は現在、完全にバグっております。つまり劇場版少女☆歌劇レヴュースタァライトは、なんかすごいパァーンなってジャーンってなるアニメですごいんだよ、観ようよ!

全額を劇場版スタァライト鑑賞代に