ランニングエコノミーが改善するテクノロジーとは?


ランニングエコノミーが改善するシューズが流行っていますが、そのような外的要因でランニングエコノミーが改善する時に身体には何が起きているのかを順を追って考えてみましょう。

筋肉のエネルギー消費を減らせばランニングエコノミーは改善

はい、結論を言うとこういうことです。まず、ランニングエコノミーとはある速度で走っている時の1分あたりの酸素摂取量(または、平常時からの酸素摂取の増加量)を体重で割ったり(ml/min/kg)、それをエネルギー換算したり(cal/min/kg)、移動距離あたりのエネルギーで考えたり(cal/kg/m)しています。いずれにしても同じ条件で走ってたらより少ない酸素のほうが”エコノミーに優れている”と評価されるわけです。では酸素は主にどこで利用されているでしょうか?→筋肉ですね。ということは、一定のランニング中に筋肉の酸素消費量が少ないほどエコノミーに優れることになります。

では、筋肉はどのような時に酸素を消費するのでしょう?それは、縮もうとする時です。変な言い方をしましたが、1)縮もうとしながら縮むとき(コンセントリック)、2)縮もうとしながら伸ばされる時(エキセントリック)、3)縮もうとしながら長さが変わらない時(アイソメトリック)によって、酸素の消費量が大きく違います(正確には力や速度によっても違います)。最もエネルギー消費が大きいのは1)です(次は2)> 3))。筋肉が縮もうとして縮む時は、どのような脚の動きが生じるでしょう。例えば、まっすぐに立ってつま先立ちをするとき、ふくらはぎの筋肉が縮み、足首が伸びますね。

このような”足首を伸ばす”といった、筋肉のコンセントリック収縮に対応する下肢関節の動作にかかるエネルギーは”正の仕事”といってある程度計算で見積もることができます。下図はランニング中の正の仕事が下肢関節のどのような運動に対応するのかを示しています。

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ここで見ていただきたいのが、足首(Ankle)です。歩行からSprint(ちょっと遅いですが)まで最も比率が大きいことがわかります。ランニングエコノミーに話を戻すと、足首のエネルギー消費を少なくすることが効果的にランニングエコノミーを改善できそうですね?お察しの方がいるかも知れませんが、厚底シューズは足首の仕事を減らすことができると考えられています。(下図イメージ)

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このように、足首の仕事を減らすと足首を伸ばすためのふくらはぎの筋肉のエネルギー消費が減ってランニングエコノミーが改善する、というのが一つの理由と考えられます(諸説ありますが)。これを裏付けるもっとアグレッシブな研究もあります。Witteさん達は下図のようなマシーン(外骨格)を装着して、適切なタイミング(立脚期後半)で足首を動かすようにしてみました。すると、一般的なシューズを履いた場合にくらべてなんと14.6%もランニングエコノミーが改善することがわかりました。

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このように、ランニングエコノミーを改善させたければ、下肢の筋肉のエネルギー消費を少なくするような仕組みを考えることが有効であることがわかります。ふくらはぎの筋肉に関しても、まだまだ削りしろはありそうですし、さらなる技術革新によってもっと筋のエネルギー消費を下げられる可能性が期待できますね!メーカーにはもっと頑張ってもらいたい!

さらなるランニングパフォーマンスの改善には

ちなみに、足首の力学的貢献は、5−6m/s(1km3分ペース程度)までが大きくそれより速くなるとあまり変わらないことが示されています。

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この図は縦軸が足首の力を意味しますが、速度が上がるとあまり変化しなくなっていますね。勘の良い方はお気づきかもしれませんが、現在のスーパーシューズが長距離種目だけに極端に恩恵が大きいのはこれが理由と考えています。つまり、現在のスーパーシューズは足首のアシストがメインの効果なので、ある程度速い速度になった時は、足首の力発揮に余裕があっても速度は上がらないことを意味します。今は最も効果が大きそうな足首の運動に関わるエネルギー消費を減らすような技術が多いですが、これから更に技術革新が進めば、膝や股関節のエネルギー消費を減らす技術も登場するかもしれません。スプリントパフォーマンスを上げるには股関節の出力UPが重要なので、次の時代はこんな感じのギアが陸上競技では採用されるかもしれませんね!

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参考

ということで、これからの勝利を目指すアスリートは最新のギアから目が離せません!っていう話でした。(あれ、陸上競技ってそういうスポーツでしたっけ?)


おわり