Q2.皐月の王Tシャツのデザイン完成まで
「梶駒さんはイラストだけでなく本のタイトルロゴやTシャツデザインなんかもすごく洗練されてて、尊敬しかできないのですが!
今回スパコミで頒布された皐月の王Tシャツのデザイン完成までのラフから決定稿までのポイントなど、教えていただけると嬉しいです。」
A. まず、回答にメチャクチャ時間がかかってしまって申し訳ありません!なにしろ長文になってしまって自分でも困ったので…w。諦めて長文のまま投下します。
デザインに関してのご質問ありがとうございます! なんだかいろいろお褒めいただいてしまってお恥ずかしいですが嬉しいです。
皐月の王Tシャツのデザインですか…がっかりされたらアレですが笑、頑張ってまとめてみます。
今回は「自分の描いたロビンフッドに着せたTシャツを実際に作りたい」「普段使いできるデザインにしたい」という2つが大きな柱になっています。
前者は「スタイルブック2.0」で実際に着せた絵を掲載する事にしていました。ロビンフッドに着せる事が出来る程度の、メンズで存在しても許されるデザイン…(誰が許すって、私が、ですがw)。
実際のデザインとして普段使い出来る推しアイテムでなければ意味が無いので、「ロビンフッドのモチーフを使う・できるだけ飽きのこない日常使える色とデザイン・主張しすぎない」という事を考えていました。この項目には「レディースのボディ(Tシャツの型)を使う」ということも含まれています。この件を語ると長いので割愛しますが、
「好きな作品のアイテムが、だいたいメンズ向けクルーネック綿100%で、女性ファン向けアイテムもそれに準じている」
というパターンが多かった(女性サイズが売られるようになっただけでもマシという場合もありますね)、辛酸を舐め続けたからというのもあります(最近は女性向けのデザインでコラボアイテムやライセンス商品を展開されているメーカーさんも出て来て、いい事だと本当に思います)。ということで、そういう自分の不満を解消する形で色々作っているのは言うまでもありません。
原動力は「私が欲しい、作りたい」です。
「私が欲しい」が最大のポイントになります。自分が着れるのかどうか。持ちたいかどうか。推しのモチーフで! 欲しいと思う物を作りたい!! これが大きなポイントです。これは同時に、作れる技能のなかでどうしたら出来るのか、ということも考えています。いまの自分には不可能なまでの背伸びはできませんし、金銭的に無理をしても楽しくはないですし、そういう製作や活動は長続きしません。
という前提の元に、以下の感じで進行します。
構想
皆様そうだと思いますが、一番時間を使います。
まずは情報をまとめたり、関連づけたりという作業を脳内で行います。実際に書き出す事もありますし、その上でノートや落書き帳などにさくっとラフを描くのですが、具体的なデザインの構想、完成形に近いものが脳内にできている時は、実際に作業するまであえて、あまりラフを描かないこともあります。今回は後者でした。
ところで、ここでいう「構想」は、単純にデザインそのものだけではなく、どう展開するか(ひとつのデザインをどう展開させるか)も含まれます。
「アレをこんなふうに作ろう」と思いついたときは、単純にデザインだけでなく、展開、つまり全体の仕掛けとしてどうなったら「より楽しい」か、を考えていきます。そのほうが作業も楽しく、個別のアイテムに連続性や物語性が生まれますし、なによりもトータルデザインとしてワクワクできると思うからです。ワクワクしたいんですよ私が!w
「作るデザインは印刷版として入稿しやすいものを最初から作る(Adobe Illustratorを使用し、線の太さを最初からシルクスクリーン印刷向のものにする)」「色のバリエーションを作れるよう想定する(インク色を濃い色にしない)」ということも自然に決まっていきます。
この時点で、デザインのみでなく「スタイルブックそのものの構成の仕方を利用して、同じ絵で異なる色のTシャツを着せる」事も決まります。また印刷向のデータ(版)は、そのままノベルティバッグにも共通で使用することが決まっていきます。
ラフ
このTシャツに関しては、実質ラフ的な物は存在していないに近いです。上の方で語っている通り、今回は「完成系に近いモチーフの組み合わせ方」がすでに脳内に存在していたからです。
・ロストロビン、3つの★、王冠、イチイ、弓
・らくがき、手書き風。鳥、植物等を詳細に描かない
・弓矢を使う
・手書きの文字(MayKingなど)を入れたほうがいいかもしれない
この段階でなんとなくお分かりかと思いますが、1冊目のスタイルブックで製作したマーク(都合MayKingマークと呼んでいます)と基本は同じです。FGOのロビンフッドなのでマントやフードを使わないならまあこうなるでしょうね、というものしかありませんが、同じ要素で前回と違うどんなアプローチで作るのか、というあたりが楽しいです。
前回はかっちりしたシルエットで「マーク」を製作しましたが、今回は「意匠自体が強い意味を持たない」、つまりマークなどとしては成立しづらいふんわりしたイメージのもの、にしています(普段使いしやすいということは、既に持っているアイテムとの相性も大事ですし)。
ラフに相当するものがまったく存在していないわけではありません。「スタイルブック2.0」ではロビンフッドに基本Tシャツを着せているので、柄が見える構図のものは「ロビンフッドのモチーフのTシャツ」の柄を作りました。
脳内には既に「皐月の王Tデザイン」は想定されていましたが、それとほぼ同一のバランスで、別のデザインを製作しています。作業の順番としては、そのTシャツ柄のために作ったイラストが実質的なラフとなっています。
構想としては皐月の王Tシャツのデザインの方が先に脳内にはあったのですが、「まあイラストだけなら色々着せられるしな〜」と思い、「NO FACE柄」としてこのデザインを製作していました(その後、こちらは修正したデザインでタグシールとして使っています)。
結果的に、このデザインがラフのようなものとして成立していきます。このNO FACE柄の時点でいろいろな試作が生まれており、実質それらがラフといって差し支えないかと思います。
デザイン作業
作業はすべてIllustratorで行いました。ベクター作画です。
上記の過程で生まれた植物素材を配置し、メインのコマドリ(これもコマドリかどうかすら曖昧なトリの絵にしています)を描きました。
正面ですが左右対称にはならない手書きの下手さ加減は意識しています。ガッツリした線や絵だと「普段着」の組み合わせやすさが半減するかなと。それに「キャラグッズだとバレない」程度のニュアンスも必要なので、そういう曖昧さは必要かなと。判る人が見たら誰がどうみてもアレでしかないんだけど。そういうアレです。結果的には「へんな鳥の絵のTシャツ」という感じに落ち着いたかと思います。
後光のような背景フレームは当初予定していませんでした。しかし予定の絵を仕上げても、どうしても寂しい気がして色々考えていたところ、ベタやモノではなく点描での円フレームがいいんじゃないか、と思いつきこうなりました。結果的にメチャクチャ良くなりました。このアイデアはすごく良かったと自分でも思います。こういうのがハマるとすごくテンションが上がります。
色、ボディ(Tシャツの型)の選定
インクは1色、他と喧嘩しない緑系。
ボディは着やすい・乾きやすいもの、タイトすぎないもの。サイズ展開が豊富なもの。重ね着しやすそうなもののほうがよい。
ということを考えて、色々検討した結果こちらのTシャツになりました。黒と白、SからXLサイズまで。どちらのカラーでも違和感のない緑。カーディガンやパーカーと合わせてもそんなにおかしくないだろうな〜というサイズ感でプリントしました。
そのほか
サイズと色を書き込めるタグシールを作成したり、色々楽しいこまごましたデザインも付随しました。このへんはスキマ時間に色々と。
結果的に、自分が想像していた以上に、たくさんの方に手に取って頂けて大変嬉しいです。実際にイベント会場や普段着ていただいていたので、それも見せていただけて嬉しかったです。なによりも自分が着て楽しかったですね〜着やすくて素晴らしいな!とw。
こういう「一見してわかりにくい推しアイテム」を日常用に作りたい、と私が思っているのは、日常でそのアイテムに癒されたり励まされたり、場合に寄っては守られたりしてほしい、という思いもあるからです。露骨にそれとわかるものは持ち歩けないけど、日常にも潜めるデザインであればいつでも推しと一緒にいられるんですよ…そういうふうにステルスで心に寄り添ったらいいなと。わかりますか! 一応ね、ぼくにはそういう思いがあるんですよ!! 二次ゆえに余計に!!!w
ちょっと大袈裟ですが、好きな雑貨やアイテムってそれだけで救われる事ってありますからね。マジで。そこまですごい事自分が出来るとか思ってるのではないんですが、そういうちょっとした日常に潜んで、にやっとできたらいいなって思います。
しかしTシャツ何度発注したかわからないくらい沢山作って発送して…を繰り返して、ヤマトのお姉さんにはすっかり顔を覚えられました。いつも沢山の箱を処理いただいてありがとうございます…。
「デザインtipsじゃないの?なんか思ってたのと違う!」って感じだったらスミマセン…。でもこんな感じで考えて、制作しています。長文にお付き合いありがとうございました!
初夏あたりまた再販するかもしれませんので、そのときはよろしくお願いします。
梶駒のお題・感想箱(https://odaibako.net/u/kaji_koma)にいただいたメッセージへのお返事になります。 いつもありがとうございます!