感想『銀色の生き物の話-パーチェの追憶より』

小説の感想書くのって、なんかハードル高いんですよねぇ。

読ませて頂く作品の文章が優れていて、語彙もとても豊富なため、下手な事けないな…なんて思っちゃうんですよねぇ。基本的にみんな面白いし感心してるし好きだから精一杯感想を言いたいし誉めたいのですがね…。

そんなこんなで、現在ネット上で楽しませて頂いてる小説の感想は折を見てちゃんと書きたいとは思っておりますが、まずは!友人が書いた小説『銀色の生き物の話ーパーチェの追憶』の感想を書かせて頂きます。又吉弓なら感想拙くても許してくれるはず…w


完結まで読ませて頂いた感想。
素直に面白かったです。
世界観も綺麗に描かれていたし、キャラクターの個性も上手く出せていて、アサギリは良い奴で愛おしく、ボギーは生意気だけど愛らしく面白く、パーチェはムカつきましたw
ストーリー展開は予想できず、それでいて纏まりが有り説得力も有り、決して良い事ばかり書かれている作品じゃなく、SF的な内容で現代科学では成し得ないような技術体系に則って物語が展開されるものの、奇妙なリアリティを感じる読後感で、非常に読みやすかったです。

この作品で「良いな」って思ったのが、「悪役」が居ないところでしょうかね。
作品作りには、明確な悪役や完璧超人などが居ると書きやすいらしいし僕もそれは分かるんですけど、この作品には極端な悪いキャラが一人も居ないんですよね。
逆に言えば全員それなりに悪い部分も持っていると言うか。
にっこり笑って非道な事をして、相手を殺してもそれが当たり前の事と認識している。
「人間」として捉えるとそれは明らかに悪い行動なんだけど、人間の法に縛られない動物とするなら特に悪い事ではない。生きるために相手を捕食するのだって悪じゃないし、自身にストレスを与える相手は排除するべき。何も変じゃないんですよね。
そう言う中で、知能を与えられ思考に囚われてしまったアサギリが葛藤するのは、ドラマチックで有り悲劇でありつつ、美しさも内包していて、単純で描きやすい善悪論を廃した上での物語性が優れていて、なんと上手く表現が出来ているのかと感心させて頂きました。

冒頭、パーチェがメインで物語が進んでいったので彼が主役なのかと思いましたが、どちらかと言うとアサギリが中心でしたよね。途中からは、なんだかパーチェは狂言回し的な役割と言うか、僕の中では途轍もなく極悪な奴に映りましたね。書いた通り悪役では無いんだけど、非常に純粋に物事を引っ掻き回して、誰かが困っても悩んでも、全然気にしないでただただにっこりとそれを観察しているだけの、サイコパスのような、恐怖を覚える対象ですらありました。
ここまでの事は、読んでる途中にそう思ったって事ですが、完結まで読んだ後だと、なんかもうパーチェも長く生き過ぎて壊れちゃってるのかなぁ…なんていう風にも思いましたね。普通の人だと思い悩んだり後悔したりするようなことは、とうの昔に通り過ぎて、麻痺してしまっているんじゃないかなと。
そう考えると、ちょっとパーチェも不幸な存在な気がします。
マスコット的存在のボギーが居なかったら、ちょっと見てられないような可哀そうなヤツ、かもしれませんねぇ。

僕にしてみると、「人間の苦しみは知能があるから」なんて思ってて、馬鹿で単純な奴ほどノーテンキで、簡単な事で幸せを感じて楽しんでる、むしろ頭の良い人の方が、色んなことを考えて思い悩み、時には鬱になり苦しみ心を壊し、時には自死を選ぶ…なんて認識でいますので、下手に他の星に現生する動物に知能を与える事は、無駄に「心あるが故の苦しみ」をばら撒くようなテロ行為に思えるんですよね。
「考える」事が出来るのが、幸せとは限らない。
そりゃまあ、今から知能低下させて馬鹿になる手術が受けられるとしたらやるか?と言われたら知能失うのは嫌ですが。
才能が有るがゆえに沢山思考をし、苦しんだ歴史上の人物とかは沢山いるわけで、馬鹿にはならないまでも、一定以上に賢くはなりたくない、嫌な事も沢山想像できてしまうような境地に到達したいとは思わないんですよね。

パーチェは職務として、他の動物に知能を与えてる…のかな?
彼の目的の「地球で作られた遺伝子と、他の惑星の固有種を共存させる」に、知能を与える事が必要不可欠なのかはちょっと描写が無くて分からないんだけど、それは無くて良いんじゃ?と思ったので、その辺はパーチェの勝手なやり方と映ったし、エゴのような気がしてました。

今は、何百年と活動している中で、ボギーとのコミュニケーションの他は時折仲間と通信するくらい…と言う日々の中で、寂しくて他の生物に知識を与えて交流するようになったのかもとか、色々思ったりしますね。どちらにしろ、僕はパーチェはとんでもねー奴だと思って読んでいて、今はちょっとぶっ壊れてるのかもしれないな、なんて思っております。
振り回された結果になったアサギリは、一番可哀想ですけどもね。彼はただ普通に生きていただけですからね、生きて、食う事に何の咎も無いのですから。


とまぁ、色々考えたりして楽しんでいる作品です。
が、これに関しては、完結したから思う事であって、完結するまではちょっと色々分かりづらい作品、だったかもしれません。
5話くらいまでは世界観も物語もつかみかねてましたし。友達だから前のめりで読み進めましたけど、知らない人の作品だったら途中でやめていた可能性もあります。最初の方に、興味をグッと引く引っ掛かりが少ない印象ですね。
物語の輪が閉じた完結後、プロローグとエピローグが繋がり、それまでの各話の様々な描写が腑に落ちたわけですが、そのシステムが分かるまではちょっと取っ付き辛い作品かもしれませんね。
アサギリが動き出してからは読みやすかったですけど、終盤彼が気の毒で、ドキドキして続きは読みたいと思いましたが、それまでのドライな語り口からして良い結果には成らない予感もして、ちょっと読み進める気持ちが減退する場面もありました。更新されるたびに、又吉のXのポストでサイトにUPされたのは認識してましたが、最後の方はその度に読むのではなく、終わってから纏めて読みました。アサギリの苦悩が苦悩のままになるんじゃないかと思って少々怖くて。

それも含めて、終わった後はとても美しい展開だと思うんですけどもねぇ。
最後まで読み切るところまで持っていく、何がしかの燃料がもっとあれば、色んな人に勧められるんだけどな、とか思いました。
よくある、流行りの、なろう系のキャラの「気に入らないヤツをチート能力でボコボコにしてスッキリ!みたいな爽快感」は無いですからね。
現代社会は、例えば動画投稿サイトでもちょっとでも前置きが長いと消されちゃったり、音楽も前奏が長く歌が始まらないと弾かれちゃうような、なるべく早く興味をひかないと!と言うモノづくりが主軸となってると思うんですけど、そういう中では、静かでゆっくりと物語が進んで行くこの作品は、「万人に受ける」と言うモノでは無いのかな~なんて思ったりはしますね。


悪い癖でまた長くなってしまったので、この辺にしておきましょうかね。
僕の中では又吉弓は大好きな友達で有り、その贔屓目は絶対になくならないので、完全に冷静な目で見る事は出来ません。
僕はこの作品、とても好きで傑作だと思ってますが、これを又吉が書いたものだと知らずに読んだときにどう思うかはちょっと分かりませんね。面白いとは思うはずですが、ここまで誉めないし、それ以前にそこまで読み込まないかもしれません。
ですから、「誰でも楽しめる最高の作品!」なんて事は言いませんが、そうっすね「むらまさが大好きな小説」だったと言う事で、『銀色の生き物の話ーパーチェの追憶』の感想の締めとさせていただきます。

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