アニメ屋むらまさくん【新2】「レイアウトと原画ときどき背景」

アニメ屋むらまさくん【新1】「セル画のお話」|むらまさ (note.com)


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2023年現在のむらまさくんは建築業で働いておりますが、でっけぇ工場やら倉庫やらの建築に携わりながら、「アニメ屋とかわんねぇな」などと思うのです。

建築では、建物の基礎を打ち、柱を建て、階を積み上げ、外壁を取り付け、内装を組み、中に電線や空調管や上下水管を仕込み、天井を貼り、床天井壁を仕上げ、人が住んだり働いたりする空間を作り上げます。
大工さん、鉄筋屋さん、土方さん、鳶さん、内装屋さんに、設備屋さん、そして我ら電気屋さんなどのそれぞれの工事のプロが進捗に合わせ作業に携わり、一つの建物を作っていきます。


アニメも、色んな工程を順繰り進行していき、それぞれの作業のプロフェッショナルがアニメと言う一つの創作物を作り上げていくので、流れとしては一緒なんだなぁ、と思いながら日々汗を流しています。


ではでは、建物がだんだんと人がその中で過ごせる物として出来上がっていくように、アニメが人の目に触れる作品として出来上がっていく様はどんなものなのかと言う話を書いてみようと思います。

がらん堂は下請会社なので、「はいじゃあこれ作ってね!」と元請会社から勅命受けるんですが、そんながらん堂所属のむらまさくんが最初に着手するのが、

絵コンテのコピーです。

絵コンテは、建築業で言うところの設計図、図面にあたるもの。
全ての工程で必要とされる指針。建築が設計図に描かれている通りの建物を作ってのに対し、アニメは絵コンテに書かれている通りの映像作品を作っていきます。

元請会社から上がってきた絵コンテを受け取った下請け会社の制作進行、むらまさくんは、関わるほとんどのセクションのクリエイターさんに絵コンテを渡す必要があるので、複製作業に勤しみます。会社にコピー機は必須ですので当然リースされており、自動送り機能も付いているので差し込んでボタン押すだけですけどね。


さて、まずはアニメ作りの大枠の流れを先に書いてみましょう。


絵コンテ

レイアウト
↓                  ↓
原画
↓ 
動画     背景
↓ 
仕上げ     ↓
↓ 
撮影

編集

アフレコ

ダビング

VTR編集

最後のやつは正直覚えてなくて全然自信がありません。
しかもむらまさくんが携わってたのは20年前の出来事ですし技術的に色々変わってるかもしれないので、その工程は無くなってるかもしれない。
そもそも制作進行がガッツリ絡む工程でもないしね。
まぁとりあえず知る限りはこんなもんです。
細かく言えばもっと色んなチェック作業とかも入りますが、簡略化してあります。
あと、アフレコ、ダビングに関しては、むらまさくんが関わったアニメに限って言えばこの順番では行っていませんが、それはおいおい書きましょう。


絵コンテの次に来るのが「レイアウト」作業になります。

建築業でも物を何処に配置するかなどの場面で使われるし、雑誌やらネット上のサイトなどでも誌面の、画面の、何処にどの記事を割り付けするのか、どの絵を何処に置くのかなどと言う意味で使われる「レイアウト」ですが、むらまさくんがその単語を初めて聞いたのはアニメの制作においてでした。なので当初はアニメ用語と勘違いしてました。

さてアニメの「レイアウト」作業。
携わる職種は「原画マン」と言われるアニメーターさん。原画マンは勿論上記工程の中の原画を担当する人たちですけど、その前のレイアウトの段階から作業して貰います。
レイアウトだけをやる人、原画だけをやる人も居ますけどね。それは特殊なパターンになると言う認識ですね。

絵コンテには、一枚の用紙の中で5つくらいの絵を描く小さなコマが左側に並んでいて、右側には各コマに対しての説明、そのカット内でキャラが喋る台詞や画面内で使われるエフェクトなどの指示が書かれています。
その小さなコマの絵は、絵コンテを描く人によって違うものの基本的にはラフの絵に過ぎず、大袈裟に言うと丸と棒だけでキャラを表現してるレベルの落書きじみたものである場合すらあります。これは、絵コンテを描く人がアニメーター出身の人の場合もあり、むらまさくんのような絵が描けない制作進行が仕事を覚えていき演出、監督になっていく場合もあるため、大きな幅が出来てしまうんですね。
直接では無いものの、ジブリの宮崎駿監督の絵コンテを見た事もありますけど、あれなんかは下手なアニメーターさんに描かせるよりも全然凄い描き込みがされてますね。宮崎監督はアニメーター出身、しかも相当レベルの高いアニメーターさんですのでそれが出来ますが、制作進行上がりの演出家さんにそのレベルを要求するのは酷ですし、そもそもその必要は無いんです。絵コンテに描かれるのは指示ですから、実際それを正確な絵に起こすためにアニメーターさんがいるわけです。

絵コンテの小さな絵を、制作に必要な大きさの用紙の上にブラッシュアップして描いて貰います。そこに描かれるのはキャラクターだけではありません。鉛筆画ですが、背景も描いていきます。
そのカットの中で、キャラが何処に居て、どんな角度でカメラに収まっているか。
そのカメラの画角内で、後ろに映っている背景を描く、それが「レイアウト」。
作画用の紙は画用紙のような厚いものでは無くペラペラに薄いので、前に書いた透明なセル程ではないものの、複数枚重ねても下が透けて見えます。
またアニメーターさんはトレース台を使って作画します。
トレース台は、紙を置くところがガラスになっていて、そのガラスの中に照明器具が仕込んであり、下から灯りで照らすわけですね。その光の効果で数枚の紙でしたら全部鉛筆で書いた部分が透過され、セルを重ねたときのように見えます。

1番下に背景の鉛筆画。
その上にキャラクターの絵を重ねていきます。背景画だけですと、そのシーンに出ているキャラクターとの比率が分からないので、背景画を描く際に支障が出るためレイアウト時にもキャラクター絵は必至です。

こうして「レイアウト」が上がってきますと、それをまず演出さんに見てもらいます。背景はそれで良いのか、カメラの画角は合っているか、キャラの立ち位置や動きは合っているか。
全然違う場合はリテイクとして戻されますが、多少の違いは演出さんがその場で修正します。原画マンが描いた絵に赤ペンを入れるわけではなく、色の付いた紙を上に重ねて修正部分だけ描き足す感じですね。僕が関わった中では演出さんの指示は青い紙で描かれることが多かったな。

演出チェックを抜けたレイアウトは次に作画監督のチェックをうけます。

背景をより完成品に近く修正入れたり、キャラ絵を作監のタッチに修正していきます。アニメーターは「似せて描く」プロですが当然各人個性もありますので、作監が絵柄を統一しないとカット毎に絵が違う作品になってしまいます。
僕の関わった中では作監は黄色の紙に修正絵を描く事が多かったですね。

作監チェックを抜けたレイアウトは、一度制作進行が回収して、背景絵とある程度のキャラ絵をコピー機にかけます。
複製されたキャラ絵は勿論原本を原画マンに返して次に原画作業に移行するわけですが、背景絵の方はコピーした複製のものが原画マンの方に渡ります。

原本はと言うと、背景屋さんに持っていきます。
パラパラ漫画の理論で動くキャラや物、メカなどは「アニメーター」が描いていくんですけど、セルの1番下に敷く背景はまた別の工程なんですね。

動くキャラクター達、セル画として起こされるキャラ絵は、色に濃淡があると、連続して表示する性質上、色がウネウネ動いてしまいますので、完全に同色にする必要があります。髪の毛が赤いキャラクターの赤の色は、今でしたらRGBで表示して数字で指定できるんでしょうかね、その全く同じ色で彩色しないといけません。影が付いている場合は、光の当たっている部分の赤、陰になっている部分の赤、のように2色で塗られますが、濃淡はありません。

一方背景画は基本的に一番下に敷かれたまま動きません(例外もありますが長くなるので省略)。
そして背景絵に濃淡が無いと恐らくのっぺりとしたアニメになってしまいますね。壁の色なんかも色んな色遣い、タッチで、木々の緑も一色ではなく何種類もの緑で表現されて奥行きを作ってくれます。上手い背景屋さんなど、実写か!?ってくらいの濃密な風景画を描いてくれることもあります。
このような違いがあるため、同じ画面に入る絵同士でも、描く人、作り方が違うんですね。レイアウトを終えた素材は、原画に行くのと背景に行くのとの2ルートに分かれていくわけです。

とは言え背景絵は上がってくるとそのまま撮影さんに行くだけになりますので(演出チェックはしてもらったっけな…忘れた)、制作進行としては後は納期を確認しつつ回収に行くくらい。こちらはそれほど厄介な工程ではありません。

一方の原画、これがまた大変です。

原画と言うくらいですので、動画になる前の元の絵、なわけですけど、これって要するに「お芝居」なんですね。

前の記事で「タイムシート」の事にちょっと触れましたが、原画の段階ではこれが大いに重要になります。
キャラクターAが、キャラクターBを殴ると言う絵を描いて貰ったとして、ではそのカットは2秒のカットとしましょうか。
2秒の間に、Aがどういう姿勢からこぶしを振り上げ始め、それを受けるBはどういう体制と表情で居て、2秒後のBにAのパンチが当たる、と言う絵に至るかを、原画マンは考えて描く必要があります。
Aが殴ることを得意とするキャラなのか、普段そういうことをしないキャラなのかで、Aのお芝居は全然違いますよね。
Bが、殴られてすぐひっくり返ってしまうキャラなのか、受けてもびくともしないキャラなのかでも、芝居は全然違います。

そういう絵を実際に書きながら、ではカットのスタート時にAはこの絵、Bはこの絵、とタイムシートの一番最初に指示を刻みます。
その後、Aなら「殴り始め」と「殴り終わり」は必ず原画で描きますし、Bなら「最初の立ち絵」と「殴られた瞬間」などは必須で描き起こされますかね。まともな原画マンでしたら、Aの始めと終わりの絵の間の絵をもう一枚描いてくれるでしょうか。
その「殴り始め」「なぐり途中」「殴り終わり」の3枚の絵が、2秒間のうちの、コンマ何秒の時に表示されるかをタイムシート内で指示を打ちます。
同動きの中で、Bの「立ち絵」と「殴られた瞬間」の絵が、コンマ何秒時点で表示されるかを打ちます。

殴る芝居の中で「始め」「途中」「終わり」の3枚の絵だけでアニメーションしたらさぞかしカクカクした動きになってしまうかと思います。ですので、実際にはその間に「中割り」を入れます。タイムシート上は「、」として書いてあるだけで、原画マンは中割の絵を描きませんが、作業が進んで動画マンのところにこのカットが渡りますと、アニメーターはタイムシートを読んで原画にて描かれていないこの「、」の部分もきちんとした絵に描き起こします。が、まぁこれはまた後の工程。

とまぁそんなこんなでキャラが何秒何コマの時にどう動くか、と言うのを起こしていくのが「原画」と言う作業になります。
そういう意味では、原画マンと言うのは役者の一種と言ってもいいんじゃないでしょうか?原画マンにしてみりゃ「違うわ」っておっしゃるかもしれませんけどねw
これ、殴る~の一連の例えで「キャラクターが」としか書きませんでしたけど、そのキャラは別に「人間」とは限りません。
ロボットかもしれません。立って動く動物かもしれません。怪物、エイリアンの類かもしれません。
人間のお芝居だけでも結構大変かと思いますが、機械や人ではない生物も、視聴者に違和感なくお芝居をさせないといけないので、僕としては原画マンっていう人たちは相当様々な見識を持ち合わせた役者さんである、と思ってるんですよね。

そんな異能の人たちに「いいから早く作品あげてくれよ」と言って急かすのが、むらまさ君の仕事になるわけです…。

ただ指定された絵を、機械的に描いていくだけではありません。
どのタイミングで、どういう芝居をして、どう動かすのか。
簡単に出来る作業では無いのは一目瞭然です。その上で、動画マンに渡して統一された絵になるように、キャラクターデザインに寄せた絵を描く必要がありますので、正直この工程でとんでもない労力が掛かる事は間違いりません。
一朝一夕で仕上がってくる工程では無いのです。正直時間がかかりますし、かけて欲しいパート。しかし、スケジュールがそれを許しません。
むらまさくん達制作進行は、時に疲れて机に突っ伏して寝ているアニメーターを叩き起こしてでも原画作業を催促しないといけないのです(やったことあります)。
制作進行の仕事んの中において、難しいポイントは何点かあるんですが、その中でも最上位に位置するのが原画マンとの追いかけっこかもしれませんね。

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むらまさくん「いつになったら次のカット上がります!?もう出して貰わないと間に合いません!!」

原画マン「えーっと、1カット1時間で終わらせたとしても、あと4カットだから最低17時とかにならないと…」

むらまさくん「わかりました!17時に伺います!!」

・・・・・・・・・・・17時。


むらまさくん「先生!原画回収に上がりました!!」

原画マン「馬鹿野郎!1カット1時間で終わらせたとして…とは言ったけど本当に終わるわけないだろ!17時と言われて本当に17時に来る馬鹿が居るか!!!」



そんな事を日々こなしている制作進行。
そりゃあ、次第にぶっ壊れていくってなもんです。


全行程説明し終えようと思ったけど原画までで5000文字超えてしまったので一旦締めて、後はまた別の書くネタが無い週にでも。

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