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ユーザーは嘘をつく

記事:「ユーザーは嘘をつく」では、「ユーザーに聴く」ことの重要さと共に、ただ聴くのは、落とし穴があるので気を付けたいと述べました。
そこで予告した「ユーザーの声に騙されない」、少々センセーショナルな表現をしましたが😅、ユーザーの生の声をどう解釈するか、そのコツを書いてみます。

速い馬を作らない

スティーブ・ジョブズもよく引用していたといわれる、ヘンリー・フォードの名言があります:
もし私が何が欲しいかと聞いていたとしたら、人々は『もっと速い馬』と答えただろう
人々の生の声をそのまま実現しようとしていたら、量産による安価な自動車が爆発的に普及することはなかった・・・かも?

騙されやすい、ユーザーの声

ユーザーの声には、こんな傾向が多いです:

  1. 自分の知識の延長線上発想

  2. 自分の本当のニーズに気付いていない

  3. 本音は話せない

1. 自分の知識の延長線上発想

前出の「速い馬」がこの典型例です。自動車を知らない人が「自動車を作って」とは言わないですよね。
多くの場合、既存の商品/サービスに対して、それを前提とした「足し算」を求めるコメントになりがちです。

2. 自分の本当のニーズに気付いていない

1番の「延長線上」と密接なものですが、多くの場合「モグラ叩き」や「アイデア先行」のコメントが多いです。
※その有効性や、デメリット(副作用)まで考えられていない…という特徴もあります。

  1. モグラ叩きとは、「不満や不便」を直接的に打ち消すコメントです。
    馬で目的地に向かって遅刻した経験を持つ人が、「馬がもっと速く走るようにして」と言うパターンです。

  2. アイデア先行は、"自分の思いついたことは素晴らしい"と感じ、固執しやすい傾向から出ます。
    あるとき馬に水を飲ませたら、いつもより速く走った…という経験を持つ人が「常に水を飲ませられる装置を馬に付けて」と言うようなパターンです。

この人たちの本当のニーズは何でしょう?
速く移動したい」ですね。

別の可能性もあります。
遅刻癖を改善したい(約束を守りたい)」が本当のニーズだとしたら?
⇒ この人は馬が速く走っても、ますます出発が遅くなるだけかもしれません(私のことです😅)。
「大切な馬に元気でいてほしい」かもしれません。

3. 本音は話せない

誰しも、他人には知られたくないプライバシーや癖がありますよね。
直接的にそれを言えないために、別の事に置き換えて話す人もいますし、ちょっと作り話しも起こりがちです。
周囲の視線を気にして、カッコつけたり、背伸びした物を買ったり…なんてこともあります。

じゃぁどうしたら?

まず「ひとつの生の声」だけで判断しない ⇒ 他の情報を活かします。

  1. エピソードを聞く
    「○○が欲しい」に対して、直接問える場合は「何が不満・不便ですか?」「具体的なお困りエピソードは?」と追加質問で要因を探ります。

  2. 他の「声」と照らし合わせて、関連性を探る
    同じ人が別に述べていたり、類似する傾向の人が述べているコメントと並べて、それぞれの類似性や差分を分析することで、裏に隠れている要因を探ります。

  3. 行動を観察する
    エスノグラフィーに代表される、ユーザーの日常の行動を観察することで、本人も自覚していない「お困り事」や「ニーズ」が見えてきます。

  4. 類推する
    1~3を繰り返していくと、人の行動や発言に影響する要因にはパターンがあることが見えてきます。
    自分や家族の言動パターンに照らしたりすると「あるある」がありますよね。

上位下位分析

ここで有用な手法が「上位下位分析」です。
「生の声」のような「具体的な事象」に対して、その要因や本質的なニーズを分析・整理していくもので、ユーザー要求分析の定番手法です。
上位化は、下位の事象に対して「それはなぜ?」「どんな価値観が影響している?」と繰り返し問うことで、もっと根源に至ろうとします。
わかりやすい解説をされているページもあるので、詳細はそちらに譲ります:

上位下位分析の落とし穴

「定番手法」と紹介した上位下位分析ですが、これまた落とし穴があります。

  1. 上位化 ⇒ 抽象化 ⇒ 似た物分類 の勘違い

  2. 上位化しすぎて「幸せになりたい」

  3. ニーズまで出しておしまい

1. 上位化 ⇒ 抽象化 ⇒ 似た物分類 の勘違い

上位下位分析は、上に行くほど線が束ねられて、「ツリー構造」に見えるため、複数のものをひとつに「束ねる」ことが目的化しやすいです。
また上位化のことを、「抽象化」と表現する方が多く、この言葉が誤解を生みやすいです。
わかりやすく、極端な例ですが「寿司が食べたい」「金魚を飼いたい」「水族館に行きたい」という生の声があったとして、「全部魚に関連するから『魚が好き』に束ねよう!」と言うようなものです😅

抽象化を誤解すると、大事な情報を削って「ぼやかす」ことをしがちです。
上位化するときは、本質=その人の価値観を示す"キラリと光るもの"を探る姿勢が大変重要です。

2. 上位化しすぎて「幸せになりたい」

これ、めっちゃ「あるある」です。さっきの事例で「遅刻したくない」を上位化していくと「怒られたくない」⇒「ドキドキしたくない」⇒「心穏やかにいたい」…やりすぎると「幸せになりたい」に行きついてしまいます😅
これも「束ねたい」意識の強い人が陥りやすいです。

「このユーザーと声に現れている特徴的なポイント」を探るのが目的なので、やりすぎ注意です。

3. ニーズまで出しておしまい

上位下位分析でニーズの分析図ができて安心しちゃう人も多いです。それ「上位分析」だけですね。
今度は「こんな根源的な欲求があるんだったら」と下位に向かって分析します。「こんなニーズも実はありそう」とか「こんな実現方法でも欲求を満たせる」というものが見えてきます。
「速い馬」からスタートして、「誰でも買える自動車」にまで到達したいですね。

eX-Miningへの発展

このように、ユーザー要求分析で有用な上位下位分析ですが、この発想法はとても応用範囲が広いことが見えてきました。
一方で、落とし穴もあります。
⇒ 落とし穴を埋めつつ、もっと応用できる手法が作れるのではないか?
それでeX-Miningという手法を体系化しています。
順次ご説明していくので、フィードバックをお願いします。


まとめ

  • 「ユーザーの生の声」を鵜呑みにせず、本質的ニーズを導くことが「速い馬」を作らないために重要です。

  • そのために有用な手法のひとつが「上位下位分析」ですが、落とし穴もあります。

  • 「上位下位分析」の落とし穴を埋めつつ、応用性を広げる手法としてeX-Miningを体系化しています。


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