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公共空間の測りかた

2015年から東遊園地で社会実験「アーバンピクニック」を開催してきましたが、そのスタートにあたって、公園そのものが活性化することではなく、公園を中心とした都心部の価値が高まることを目標としてきました。都心部の価値とは、ずばり不動産価値のこと。様々なひとが公共空間の価値を感じたとき、それが周辺の不動産価値に反映されるはずですし、不動産価値の上昇分を転じて再投資に回していくBIDなどの手法が、公共空間の活性化にあたって最も論理的だと感じてきました。

基本的な考えかたは変わりませんが、いくつかの面で補足が必要だと感じるようになりました。

一つは、不動産価格へ反映されるまでの時間です。不動産はその類型ごとに取引頻度が違い、不動産価格への反映には時間差が生まれます。賃貸マンションなどの取引頻度が高い類型は反映速度が速いですが、オフィスビルの一棟販売のような取引頻度が低い類型については反映速度が遅くなります。取引事例が少なければ、当然不動産鑑定士が関わる不動産指標への反映が遅れるので、オフィスビルが多い都心部では、公共空間の価値が不動産価格に反映するには時間がかかることになります。

次に、不動産価格の構成要素はもっと幅広いということが挙げられます。景気や金利の動向、そして人口水準の予測値など、かなり多くの要素が不動産価格を左右するため、公共空間の活性化の影響だけを抜き出して分析することは難しくなります。

また、一晩放置するとゴミが散乱するアメリカなどの公共空間と違い、日本ではゴミが散乱することもなく、BIDの導入に切実性がないのも一側面です。BIDの必要性が足りなければ、公共空間の価値が不動産市場にどのようにインパクトを与えているか、分析が蓄積しません。

このように、不動産価格だけを指標として、公共空間の活性化を測ることはむずかしいと感じていますが、昔ながらの来場者数のカウントを指標とすることもできません。

来場者数は、気候、イベント、周辺での催事など、さまざまな要因で乱高下します。何よりも気になるのが、公共空間という無目的の人びとを受け入れる器を、イベント会場などの目的性の高い用途に使うことによって、来場者数を高めることができるという点にあります。公共空間は、地方自治体や民間企業など、多くの主体によって安価な屋外会場として利用される傾向があります。そういった用途を全て否定するわけではありませんが、無目的の人びとを受け入れる器としての価値をなかば放棄して、クローズドな利用に陥りがちなワナが、来場者数という分かりやすい尺度の向こうに見えてしまうのです。

アーバンピクニックでは、初年度の2015年に滞在者数をカウントすることで指標化を試みました。滞在者のリピート率を測定することができれば、よりよい指標になり得ますが、どこよりもプライバシーを大切にすべき公共空間で、どのように滞在者のリピート率を測定するのか、技術的な問題が残っています。

いま、私は豊かな公共空間は、利用者の類型の多様性で測れるのではないかという仮説をもっています。

あまり使われていない公共空間には、傍観者しかいません。そこが使いやすくなったときに利用者が現れ、その空間をもっとよくしようと行動するボランタリーな市民が現れます。

豊かな公共空間では、この3つの階層を行き来する人びとが現れます。普段は利用者だけれど、一年に一度だけゴミを拾うひとや、ある特定のプログラムの時には来場して主催者を手伝うひとなど、単純な分類では分けられなくなります。ボランタリーな市民を超えて、運営に携わる人も出てくるでしょう。

それはあたかも、寒帯の単相的な生態系では、ドミナントな動植物の種類が限定的なのに比べ、熱帯の複雑な生態系では種が細かく分化し、多くのニッチが生まれていることに似ています。新しい種は、プアな生態系では居場所を見付けることができません。リッチな生態系だからこそ、受容され、生きていくことができるのです。

これはまだ仮説にすぎません。しかしながら、このように考えると公共空間を運営していくうえでのヒントが見えてきます。

例えば、ボランティアと一般の利用者の区別をしすぎると、生態系が貧しくなります。これは、ボランティアに参加することへの抵抗感を高め、類型の多様化を妨げてしまいます。アーバンピクニックでも、ボランティアスタッフを管理することによってこのような状態に陥った失敗がありました。

また、新しい類型が公園に常に生まれるように、公園利用のアイデアを広く求めることもヒントになるかもしれません。例えば体験型のプログラムは、参加者自体が他の人にとっての魅力的なアクティビティをつくります。一人の楽しみが他の利用者の目を楽しませることができれば、受容される環境だと理解しやすくなるのかもしれません。

利用者の類型の多様化が、公共空間の価値を測る尺度としてどのように使えるか、これからも考えてみたいと思います。

写真 :2017年の社会実験で公園に(勝手に)設置するためのテーブルを製作しているところ。

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