リアルファイトクラブ③-①
柄シャツの男
柄シャツの男を見てボクは、懐かしさのようなものを感じていた。
胸が締め付けられていくのが分かった。
精神の病を抱えた患者に柄シャツの男がまた金を渡していた。
こっそりと、だけど辺りを警戒するわけでもなく堂々としていた。
胸の鼓動が大きくなった。
あいつはタイラーだ。
看護婦が何か言いたそうな顔でタイラーを見ている。けど言えない。タイラーは気安く人を寄せ付けない。社会に従順してる者には特に。
ボクは何かに取りつかれたように彼を見つめた。
看護婦が狼狽えている。
いこいの広場に心地よい風と場違いな柄シャツの男。
これは偶然か、
いや、必然だ。
約1年振りに見るタイラーの姿。僕の心が垣見だされる。
看護婦がボクを見つめる。ボクは看護婦を見つめる。深い沈黙のあと、一言だけ彼女に告げた。
「ボクのすべてを奪った奴さ」
沸々と甦る感情。
ボクに憤怒の感情。
植物人間だったボクの感情。
死にかけた精神が目を覚ました瞬間だった。
これが生の喜びだ。
ボクはベンチから重い腰を上げた。いこいの広場の柔らかな芝生の感覚が久しぶりに感じた。
タイラーの方へ歩を進めた。
彼に近づくにつれ、鼓動が早くなった。
タイラーはボクの存在には気づきもしなかった。
標的は患者とお喋りに夢中だった。
ボクの弾道ミサイルの標準は、ターゲットへロックオンされる。
ボクの一年越し怒りのミサイルパンチは、振り向き様のタイラーの頬に命中した。このパンチの打ち方も彼に教えてもらったものだ。
鈍い音がした。
標的は不意打ちのせいで、見事にダウンした。
拳に痛みが走った。
見ると皮が捲れて血が滲んでいた。
拳の皮が剥がれた事よりも、明日の筋肉痛が一瞬頭によぎった。
ボクは冷静だった。
札束が舞ういこいの広場に、倒れた柄シャツがよく似合っていた。
殺風景ないこいの広場に、花が咲いたみたいだった。
この世のクズだ。
私の格闘技活動と娘のミルクに使いたいです。