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リアルファイトクラブ②-②

ヤクザのおっさん

ヤクザのおっさんは面白い人だった。一瞬ブルっていたけど、俺が今回逮捕された経緯を話すと「面白い奴だ」と言って気に入ってくれた。

おっさんの話だと、どうやら俺は懲役に行く可能性が高いみたいだ。経験豊富なおっさんの言葉には説得力があった。おっさんは6年の刑期を終えて出所し、2ヶ月で留置場に戻ってきた。今回の起こした事件は強盗だった。

「今回は8年くらいかな~」

そんな事を笑って話すおっさんを見て、落ち込む所か勇気が沸いてきた。それにおっさんが来てから留置場の中は騒がしく、毎日が面白かった。

同じ房に入っていたピンク野郎は、一日中スクワットをさせられていた。おっさんの問い詰めによってピンク野郎の罪名は強制わいせつだという事も分かった。

「パンツの上から触れば迷惑防止条例、パンツの中に手を入れれば強制わいせつ」

おっさんが俺に説明してくれた。

まさかパンツ一枚の境目に、法律の網が張り巡らされてるなんて想像もしなかった。痴漢にあった女性は全員、「パンツの中に手を入れられた」と声を上げるべきだと思った。冤罪はマズイけど。

おっさんは寝る前に睡眠薬を4種類貰っていた。それを飲んだフリをして、次の日の昼に飲んでヨレていた。俺も睡眠薬を分けてもらって一緒に飲んで、一緒にヨレた。

おっさんは今回の事件で破門になるとの事だった。そのせいで「俺はカタギだから」と口癖のように言っていた。

その容姿はどこからどう見てもヤクザにしか見えなかったけど、家族の話をしている時だけはカタギらしかった。その時の表情は優しくて、おっさんがヤクザであることを忘れるくらいだった。

おっさんが起こした事件は凶悪だった。

おっさんは新宿にある質屋に強盗に入り、拳銃を店員に突き付けて金品を奪い逮捕された。

拳銃に死の恐怖を感じた店員は、震えてショーケースの鍵が中々開けられなかったらしい。俺もおっさんに拳銃を突き付けられたら、震えていたに違いない。

「拳銃はトカレフ。取り調べはモデルガンって言ってるけどな」

自分よりヤバい人間に遭遇した事に、俺は興奮を覚えた。

強奪した金品は一部おっさんの親分に納めたという話だった。そして残りの金品は、おっさんの友人に預けたみたいだったが、おっさんには心配事があった。

「デコスケに持っていかれないように、そいつに預けたんだけど、ちゃんと金に代えて家族に渡してくれているか心配なんだ」

おっさんは勘繰っていた。これから8年は刑務所の中で過ごさないといけないのに、娑婆でやり残す訳にはいかない。出来れば心残りがないように、刑務所に行きたい。接近禁止で誰とも連絡が取れないおっさんが頼るのは、俺しかいなかった。

「なぁお前さんよ、ちょいと頼まれてくれやしねぇか?ただとは言わねぇ」

人間ダメだと分かっててても、そこに一歩踏み込みたい時が絶対にある。俺は逮捕されて、世の中を少し知った気でいたのかもしれない。自分が正しいと思う事をしたかった。

「おっさん俺に任せなよ」

俺の判決が決まる30日前の出来事だった。

この世のクズだ。

私の格闘技活動と娘のミルクに使いたいです。