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暗闇の世界に住む刺繍たちの物語

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ムムリク舎です。 ひとつひとつの刺繍ブローチが持つ、物語をまとめました。 手のひらにおさまる絵本の様に読んでいただけたら嬉しいです。
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#絵画

人々に歌を届けにゆく旅人

どんよりと曇った暗い日曜日。フランドル地方の貧しい農村から美しい歌が聴こえてきた。 質素な服装の農夫や子供達が集まる。みな、手には日々働く為の道具を手にしたまま。その歌に聴き入った。 きらびやかでもなく、華やかでもない歌であったが、その旅人の歌は温かく優しく、貧しい生活ゆえ目の前も心も白黒だった農民達の視界が鮮やかに色づき、心が満たされる感覚になった。 その後、旅人は歌を人々に伝える旅を続け、村人たちに生きる希望を与えたという。

ある画家と妻の物語

ある小さな村に貧しい画家がおりました。 その画家にはとても美しい妻がおりました。 画家は貧しいながらも妻に毛皮の付いた 黄金色のローブを買い与え それを着た妻をモデルに絵を描いておりました。 小さな美術展で妻の絵画はあまりに美しく 評判となり、ついには隣国のメデューサ国にも 知れ渡りました。 メデューサの王は画家へ使いを出し 妻を差し出すように告げられたのでした。 断り続けた画家はついに、 メデ

ユディト

今、目を閉じてイメージする。 シーツに身を埋めて寝息を立てる男の首にナイフを突きつける・・・。 力を入れる。侍女の太い腕が怯える私の腕を上から押さえつける。 そして・・・ 「旧約聖書 ユディト記より」

狂女ファナ

スペイン王国を築き上げた王と女王との間に生まれたファナは女王自慢の娘でした。年頃になると、策略家の父の指示で、ブルゴーニュ公国の王子と結婚させられました。美しく気品のある夫をファナは愛し、夫に死が訪れた日に彼女の心が壊れました。 「夫は眠っているだけ。だから誰も近づいてはいけない。」 遺骸を棺に移し、従者を伴い数年間、死んでしまった夫と共に野を彷徨い続けたということです。 「ハプスブルグ家の絵画より」