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clubhouseで「Capoeirax何とか」という実験①:Capoeira x 天文学史

clubhouseでカポエイラと、カポエイラとは全く関係ない何かを無理やりかけ合わせたら、カポエイラの何か興味深い一面に光があたったり、思わぬ共通点を楽しめるひとときになったり、ステキな出会いにつながったりするのではないかというTOSHIさんのアイデア💡より、早速設定した第一弾がこれ。2月1日に開催しました。

TOSHIさん・Hirokoさんと、天文学史家タロウ氏。正直ほとんどみんな同じ部屋にいたので、マイクはハウるわ一人のマイクでやたらワイガヤするわで本当に文字通り実験の場となりましたが、たいそう興味深い話に深まっていき、濃厚な30分でした。

カポエイラと天文学の歴史というと、共通点として思いつくのが口頭伝承。ということで、まずそのあたりから対話が展開しました。カポエイラの歌は言わずとしれた口頭伝承の典型例。カポエイラでは人びとが輪っかになり(roda)、音楽を奏でる人たち(bateria)が音楽を鳴らし、リードする人が歌いはじめ場づくりをすると、一人歌ってリード→それに合わせて周りがコーラスというスタイルの歌(corridos)が続きます。続きますというか、途切れないように続けます。その歌詞が口頭で伝承されてきたという話です。アフリカから連れてこられた奴隷たちは、文字に起こし書き写す、といった手段を持ち得なかった。けど、音や動きなど体で再現できることで伝えてきた。それが、歌であり、踊りの要素、儀式的な要素として残されてきたのですね。歌に関しては、アフリカ由来の、解釈がよくわからない言葉があったりしますが、それは音の連なりとして継承してきたからで、その意味の解釈についてはいろんな議論が深まってきていて、学術的な検討も進んでいるようです。私たちがカポエイラの練習するとき、ジョーゴするとき、歌を歌うたびに小さく小さく伝承の一端を担っているわけですね。なんかすごい。

TOSHIさんは基本情報が耳から入るひとだから、口頭伝承というスタイルがしっくりくるらしいのですが、かたや私のように基本視覚情報に頼って生活している人間やカポエイラ初心者は、「基本、耳!」というやりかたにとまどったりします。だけどそれは、現代の、あらゆる情報を視覚的に記録し再現することを前提とする仕組みに慣れすぎているからこその戸惑いなのかもしれません。とはいえ、今ではいろんなところにカポエイラ歌詞紹介サイトがあって、そこで歌詞を読んで勉強することはだいぶできるのですよね。ところが、いろんな音源でいろんなメストレ(mestres)たちの歌を聞くと、全然違って聞こえる-!なんで?ということがあります。それは、口頭伝承ならではの即興(improvacao)の側面であって、細部はほんとに多様、という即興性の話も出ました。即興で、その場に合わせたメッセージや遊びを入れつつ、中核になるところはしっかり伝え引き継いでいく、そういう深さ、強さ、そして軽さが口頭伝承という手段には、そしてそれをベースにもつカポエイラにはあるのだということを、改めて認識しました。

ここまで、カポエイラの口頭伝承の話ばかりになってしまいましたが、タロウ氏によると、天文学史においても口頭伝承は重要だったとのこと。天文学の歴史を遡ると、古代ギリシャで発展した宇宙論とインドで発展した計算法(ゼロの概念はインドから!っていうのはよく知られた話ですよね)が中世イスラーム世界で合体して、天文学がすごく発展したらしいのですが、そのインドでは口頭伝承が基本だったという話です。当時のインドの宇宙論は、亀さんのうえに乗っかった円盤が世界でそのど真ん中にでっかい山がある的なやつだったみたいで古代ギリシャの宇宙論(地球の中心が世界のど真ん中で、見えない天球が幾層にも重なっている)に比べると非常に神話的で、科学の部類には入らない感じですが、インドの数の概念とそれに基づく計算法は非常に優れており、それが天文学の発展に決定的に重要だったそうです。で、それを学びたいってなったとき、インドではものを書いて伝えるのではなく全て口伝えだったので、計算法についての伝承を覚えている人を連れてきてその人から口伝えで学ばないとならなかったのだそうです。それを書き残した最初の人たちが、イスラームで天文学に取り組んでいた人たちで、だから一番古い記録はアラビア語で残っている、そして、語ったインドの伝承者が何語で話したのかは、いまだわからないのだそうです。なかなかに壮大な話に一同ふぅぅん!と聞き入ってしまいました。ちなみに、こちらも、肝心なところが記憶にとどまるよう韻を踏んでいたり、周辺部分にアドリブが入っていたりするとのことで、このあたり、口頭伝承に共通する特徴なのですね。

その後、沖縄出身のTOSHIさんは、沖縄にも口頭伝承あるよ、という話をしてくれました。例えば、終戦間際のひめゆりの塔の伝承もあるとのこと。時間のスケールでいうとほんの100年ほど前の話ですが、そんな最近に口頭でしか伝承できなかった状況があったこと、そしてそれが生々しく今につながっていることのすさまじさを考えずにはいられません。

その後、話は世界観――どのように世界を捉えるか、的な方向に展開しました。タロウ氏によると、インドでは世界は大洪水から始まったとされていたとのこと。秩序が出来上がっていく前の、原点の部分に位置づけられる混沌が大洪水、ということかな。とにかくこれがすごく重要で、その後、惑星が全部一直線に並ぶとき=コンジャンクションには大洪水が起きると言われ、それで、天体の動きについての計算が重要だったとか、話題はもう「大・洪・水」でした。その間、TOSHIさんのもう一つの顔、タロット占いに手を出しているひと、がチラリと登場。タロットの世界でもコンジャンクション超重要とされているとのことでした。まあ、タロット占いも遡れば天文学astronomy/占星術astrology=天をあおぎ世界を知ろうとする体系的知識というもんですからね。通ずるところあって当然というところでしょうか。

さらに、カポエイラではジョーゴを始める前にある仕草をすることがあるという話に。地面に円を描きその中に十字を描くのだそうです。その4分割がそれぞれ、過去、現在、未来、あとひとつ何やら(普遍性?)を表しているそうで、その連なりの中に自分を位置づけるということなのかなと思うと、やはりカポエイラで継承されていることって、そっくりそのまま歴史であり歴史を現在進行系でつむぐ、そして次へつなげることなのだな、と感じた次第です。ちなみに、紀元前何百年とかの古代ギリシャから、17世紀にケプラーが惑星の軌道は楕円形であることを示し、その妥当性が認められざるを得なくなるまでの2千年とかそれくらいの間、完ぺきな球形の天体が完ぺきな動きである等速円運動で整然と動く、完ぺきで荘厳な宇宙というのが想定されていたことを考えると、ひとって「円」にいろんな意味を込めるよね、「世界」とか「完ぺき」とかさ、その感覚ってカポエイラにも宇宙論にも共有されている人間らしさなのかな、とか思ってみたり……

ということで、clubhouse「capoeirax何とか」room第1回、「capoeira x 天文学史」の濃厚なお話についてはこんなところで。2回め、3回め、と書いていこうと思いますが、まあ今回ほど長くは書かない予定なのでゆるく~。

clubhouseの「capoeira x 何とか」room、TOSHIさん(@capoeiratoshi)、Hirokoさん(@piyosawa)と共にコロナ禍で不定期開催しました。その記録です。

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