あいみゅう現場ことはじめ 下巻〜フロアが声を取り戻すまで〜

続いては声出し解禁から今に至るまでのお話です。

2022年上期。
世間ではこの頃、声出し再開の機運が徐々に高まっていました。
22年の春、サッカー界では既に海外で声出し応援が再開となる中、浦和がACLアウェイのタイ遠征でコロナ禍以降初の合法声出し応援を実現したことが話題となりました。
その後Jリーグの試合でも声出しの実証実験が行われるようになり、少しずつ元のあるべき姿に戻ろうという動きが広がっていきます。

あいみゅうはと言うと、7月頭に決まっていた対バンが後から急遽声出しOKとなったのが史上初めての声出しありライブとなりました。
その時はとにかくみんながむしゃらで、数年単位となったブランクですっかり衰え切った声帯にいきなり鞭打って必死に定番のコール・mixを入れていくような感じでした。
声出し解禁前から「コロナ禍デビューのグループは声出し解禁後は定着・コールの確立に苦労する」と言われていましたが、この夏で2年目に突入しようというあいみゅう現場には全くその通りの展開が待ち受けていたのです。

もっとも、このライブの直後に世の中で感染が再拡大したため、この1回きりを最後にあいみゅうのライブで声出しがOKとなるにはもうしばらくの期間が必要となるのでしたが。(グループ立ち上げ以来、要所要所でメンバーのコロナ感染で活動が制限されてきた経緯もあって、事務所としても殊更保守的な判断だったという背景もあります。)

本格的にあいみゅうで声出しが行われるようになったのは22年の秋頃となりました。
この頃は「声出しOK公演」ということだけで価値が付く状態で、そこを明記してのチケット発売は重宝がられる風潮がありました。
この声出し黎明期に存在感を発揮したのは「Star Girl」。
元々アップテンポの曲で、初期からコンスタントに使われ続ける一曲ではありましたが、デビューから1年を迎え、様々な楽曲が次々に発表される中で徐々に起用回数も減っていたところでした。しかし声出しとなると話は別で、わかりやすくコールを入れやすい構造になっていることで真っ先に何をやるかが浸透したのがこの曲で、そのわかりやすさが声量にも繋がり、一気に「スイッチを入れる一曲」としての役割が強まりました。

ただ、それ以外の部分で、声出し初期はコロナ前の現場経験者・未経験者が入り乱れている状況で少なからず摩擦もあったように思います。
今となっては考えづらいですが、この頃メンバー側から提示されたコール講座の動画は当時の雰囲気を今に伝えてくれています。

今振り返ると非常に幸運なことなんですが、あいみゅう現場には結構「ここであのコール入れよう」といろいろやるタイプの人が多く集まっていました。
声出し初期の段階で「Aim for the stars」の2番に「アイアイアイアイ愛崎ユウナ」が入っており定着、その後しばらくして1番の同じ位置に「アイアイアイアイ愛されあいにゃ」も加わったり、「この声届け!」で「レターパックで現金送れは全て詐欺」が定番になったり、最近では先述の「Star Girl」で「な!か!ざ!わ!りかこ!」が入るようになったりと、定番をなぞりつつもところどころでオリジナリティが発揮されているのはありきたりさがなくて非常にバランスがいいことだと思います。
旧来のオタクのありようってこうだったよな、とある種当たり前のことだとは感じていますが、一方でそうした試みが今のアイドル現場ではあまり見られないため、それだけでも特異性の一つとして尖ることができているなと評価しています。

ところが、声出しの初期からこれだけできていたわけではなく、立ち上げは相当苦労した記憶が強いです。
なにしろ長い長いブランク明けで声帯が元に戻っておらず気持ちよく声が出せないというのが第一で、そして現場でもコンセンサスがなかなか取りきれない中、声出しを躊躇する人も多くいまいち声が揃わない時期が長く続いたように覚えています。
22年秋頃の主催ツーマンで何組かと「ラスト一曲のdb数を計測し、どちらが声を出して盛り上がれていたか勝負」という企画が行われていたのですが、ことごとく連戦連敗。
秋〜冬にかけてはそんなわけで現場の流れもあまりよくなく、23年2月の3rdワンマンに向けては暗雲が立ち込めていく状況でした。(いきなり2グループ目を作りはじめたせいで身近なところに脅威が生まれたり、ワンマンチケットの売れ行きが芳しくなくメンバーに販売数ノルマを課したり(それは流石に反発が多く割とすぐに撤回)とかなり迷走した時期で、メンバーもファンも運営もみんなもがいていました。もうあんな雰囲気味わいたくないなというくらい何やってもうまくいかない最悪の時期でした)
ですが、その渋谷WWW Xでの3rdワンマンを乗り越えるころにようやく声出しも確固たるものとなってきて、そこからはむしろ声が強みとなっていくようになりました。
6月のうな誕の頃にはすっかり大歓声に包まれるうなちゃんがいましたし、この夏のTIFにはちゃんと自分たちは声を出せる、という自負のもと参加していた覚えがあります。
そういえばこの絡みでもう一点、声出し可能になってから確固たるものになるまでの間、一貫してステージ上からmixを煽るようなマネを誰もしないでおいてくれたのは本当によかったと思っています。

こうして、こんにちのあいみゅう現場が形成されて今に至ります。
今では、「他のグループよりもしっかり盛り上げられるフロア」というアイデンティティを身につけ、毎回の対バンでもフロアみんなが自信を持って臨めています。
このような雰囲気ができたのは、クラップしかできない時代から声出しが伸び悩んで苦しい時期まで、一貫して「とはいえとにかくやり続ける、一発ぶちかます」の精神でやってきたことが根底にあるのかな、なんて思います。
そうした意志の元には同じような意志の人が集まるし、そうして輪っかがでっかくなっていって今に至るので、やり続けてきたのは間違いではなかったのでしょう。

パフォーマンスを繰り広げるのはアイドル側の責任ですが、フロアの盛り上げはそこに集まるオタク側の責任であり、その責任の中で戦えるか戦えないかは非常に重要なことです。
現在の業界の構造上、「対バン」という不特定多数の人が集まる場での戦いを強いられるのが常ですが、その場の中でいかに目立つか、他との違いを見せるかを意識するのとしないのでは行き着く結果が天地の差ほどあるのではないでしょうか。
自分が逆の立場なら、うんともすんとも言わず何の盛り上がりもない他のグループなんて悪いけど見向きもしないですからね。
だからこそSEの第一声の「はいせーの!」から思い切り声出して会場の雰囲気を一変させに掛かってますし、何よりそこでバチっと決めるのが一番楽しいですから。
「意志あるところに道は開ける」とはよく言いますが、これまでそうだったようにこれからも自分はフロアではそういう意志のもとやっていきたいし、これを読んだ方ももしそういう意志のもと対バンに臨んでくれたらこの上なく心強いなと思います。
もっともっと声が大きくなれば、もっともっと高いところに行けるはずなので。
まだまだあいみゅうの歩みを止めずにこれからもやっていきたいですね。

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