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みな去ってゆく。

だれも、死ぬまでに、何回かの恋をする。恋する相手は何故か似ている。みな痩せていた。青白い顔をしていた。貧しかった。ジュリアンソレル願望はあったのに、明るい女には巡り会わなかった。そんな時代だった。

みな、どこかで死にたがっていた。最初の恋は肺結核病みだ。接吻すると唇が真っ赤に染まった。彼女はいった。もう逢わない。あうとあなたを殺すことになる。

かまわない。

暫らくして彼女は消えた。探しても探してもいなかった。

上京して青山の土地持ちのお嬢さんと恋をした。空襲で家族は死んだ。祖母と彼女だけ残された。生きるためにチケット・ダンサーになった。広い屋敷の掘立小屋に住んでいた。いまや青山はビル街になている。

三人目も貧しく痩せた子だった。町工場で朝鮮動乱用小銃弾薬きょう部品を作っていた。一個何銭の工賃仕事である。その工賃が町工場の貧しい家族の米粒になった。

ご飯一口には、銃弾で死んだ米韓兵士の血が沁みついている。兵士が死ぬために他が生き延びる。因果な商売だ。親父はいつも不機嫌だった。

戦争で将軍は死なない。兵士だけが殺される。その銃弾が貧しい日本の、町工場の米櫃になった。おかしな現実だ。今も変わらない。

コロナ?なんやね?

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満85歳。台湾生まれ台湾育ち。さいごの軍国少年世代。戦後引き揚げの日本国籍者です。耐え難きを耐え、忍び難きを忍び頑張った。その日本も世界の底辺になりつつある。まだ墜ちるだろう。再再興のヒントは?老人の知恵と警告と提言を・・・どぞ。