ゲンロンSF創作講座2022 感想#4実作

『凍えるほどに温かく』方梨もがな


 多くの人が訪れる観光都市にも、暮らしている人たちがいる。自分がその立場ではなかった人間なので、観光都市に住む人間の視点は新鮮味を感じることができました。アピール文にある「文脈を理解したいま」をもたらすのが作中における「デバイス」に相当するでしょうか。ARデバイスそのものはもうSFガジェット単体としては弱いものかもしれませんが、もたらしている効果のベクトルを考えれば、ガジェット選定は成功だったと感じています。
また、描写に充分な文面を割けているために梗概らしさは感じず、一つの短編として完成していると思いました。物語の展開の動きは激しくはないですが、それを求めるタイプの作品でもないかと。
 強いて気になる点を挙げるとすれば、ディティールが書き込まれている反面、ヨットまわりのワードは聞きなれないものが多く、若干読みにくさを覚えた点でしょうか。かといってすべて抽象的なワードにしてしまうとせっかくのディティールが損なわれてしまう……バランスが難しいところですね。

『マジックミラー』宿禰


 序盤で張られていた伏線が後半で回収され、「体質」やそれ故に生まれた「養子」の存在に、「エキス」など、京都を舞台にしたSFの梗概として楽しく読むことができました。真相を知ったうえでもう一度読むとにやりとさせる部分もありました。ただ、どうしても説明的な文も情報量も多いので、アピール文に書かれているとおり「梗概として」という注釈は外せなかったです。もっと字数を費やしたバージョンの実作が気になるところです。
 もしこの設定をフラッシュフィクションとして活かすなら……どうするのが正解だったのでしょう。幸太郎が大人になったところから書き始め過去の出来事を小出しに書くといったところでしょうか。

『通路にて』 岡本みかげ


 日吉に通っていた人間なので、地名を見て少しテンション上がりました。はさておき、実在するものから、不老長寿をもたらす桃にまで話が膨らんでいて、楽しく読ませていただきました。
 一方で、「伝説の桃」と「地下通路の奥」という組み合わせがややミスマッチに感じてしまいました。意外性のあるコンビではありますが、地下通路の最奥に何か禍々しいものが待っていると匂わせておいて(腐敗臭など、実際にそういう描写をされていて)、出てくるのが桃というのはインパクトに欠けると思いました。後半の描写には読者を飲ませる勢いはありますが、ふと冷静になると違和感を覚えます。「土壇場で伸ばした」とあったので情報提示や表現のブラッシュアップに時間を割ききれなかったのかもしれませんが、真相の衝撃をより大きくするための土台つくりを序盤でもう少し丁寧にできれば、より完成度を高められたのではと思います。

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