"ムエタイ、賭けにまつわるあれこれ” ~シン・ムエタイで勝つ為の100の法則~
タイのムエタイは格闘競技であるとと同時に、どちらが勝つか?で賭けをしているギャンブルであることは既にご存じだと思います。
タイの人はギャンブル好きな方が多くて。
タイでそこら中で売られている「ロッタリー」(宝くじ)は言うに及ばず、サッカー・スヌーカー(ビリヤード)・闘鶏等々、合法非合法を問わず色んなギャンブルが盛んです。
ムエタイの賭けも独特で、
試合前に単純に勝敗を予想して賭ける場合、
ラウンドごとに賭ける場合、
勝敗ではなくいつKOするか、で賭けることもあったり。
ムエタイとギャンブルの関係は、
旧「ムエタイで勝つ為の100の法則」をご参照ください。
このギャンブルの動きにある程度左右されてしまうのが、ムエタイの最終ラウンド。
ムエタイファンならよく目にすると思います、両者が勝ったと確信している場合、お互い攻撃を出さずリングをぐるぐる回っている状態。
おそらく、外国人や一部識者から大いに批判を浴びている、あの行為です。
実は昨日3月3日(日)の人気TVマッチ「スック ムエタイ7シー」でもこの現象が起こり、業界の話題となっています。
日本でも試合経験のあるチャットパヤックと、タイトップクラスのムエカオであるポンサネーの試合、第4Rまでは見応えのあるとても良い試合でした。
しかし、
最終第5R、勝利を確信した両陣営は例によって攻撃を出さず、距離をとって無駄に時間を費やすのみ。
それも5R3分間ずっと・・・(!)
結果的にドローとなり、ここまではまぁ、よくあることなので話題にすらならないのですが、主催者(プロモーター)に近い人物がポンサネーのセコンドに「なんで攻撃を出さないんだ!」と怒鳴りつけたり、チャットパヤックとポンサネー両者がそれぞれSNSで謝罪を発表したりして、あらためてこの問題が浮き彫りになった、という訳です。
どうやら、両選手のファイトマネーは減額措置になったようで・・・。
「当たり前だよ!」
「格闘技なのに攻撃しないなんて・・・」
「最終ラウンドに両選手のダンスを見せられたらたまったもんじゃない」
等々好意的ではない意見が、特にコアなムエタイファン以外は同様の考えかと思います。
~最前線でムエタイを見てきている筆者の考え~
さて、ここから先は、
本場のムエタイの最前線に身を置いている者としての意見・考え方ですので、少々偏屈な思考かもしれませんが、「こういう考えもあるんだ」的な感じで受け止めていただけたらと思います。
”現場からは以上です”
そんな感じですね(笑)
まず、この5R目に両者攻撃を出さないという行為?動き?は本人の意思ではありません。セコンド・ギャンブラーの意向です。
要は、4Rまでにポイントを獲っている(はず)なので、もうリスクを犯して攻撃を出さなくて良い、という考え方ですね。
特に⇧の試合のように接戦になればなるほど、最終Rはほんの些細な動きで勝敗が左右されるので、絶対にミスは許されません。選手が消耗していてその集中力がない場合、セコンドとしては攻撃を出さないほうが得策、となるのです。
両陣営がその判断になると・・・⇧の試合のようになってしまうわけです。
これって、
奇妙に映るかもしれませんが、ムエタイを格闘技ではなく、
”勝敗を決めるゲーム”
と捉えると少しは理解できるかと思います。
例えば、
野球だって「敬遠」という措置があります。強打者に対しストライクで勝負せず、ボールを4球投げてわざと進塁させるあの行為です。
野球の「敬遠」に関しては、多くの日本人はゲームに勝つための戦略と捉えますよね??
ムエタイの⇧の行為も同じ、なのではないでしょうか?
また、
”格闘技”
という概念から考えると、言い方はおかしいですが”お作法”のような感覚で見て欲しいのです。
例えば日本の大相撲。
タイのムエタイと驚くほど共通点がある日本の国技ですが、リンクの旧「ムエタイで勝つ為の100の法則」でも書いていること、大相撲の立ち合いの話です。
大相撲の立ち合いってのは、お互いが息を合わせることが求められるのだそうです。そのため、昔は息が合うまで延々と立ち合いをやっていたとか。それがラジオ中継スタートをきっかけに制限時間というものが設けられ、現代の形式になったそう。
普通は3回くらいお互い仕切り直して、制限時間が来たらぶつかる、ってな感じでしょうか。
普段から相撲という格闘競技を目にする自分らはそのことに関して、なんら違和感を覚えませんが、外国人からするとやはり奇妙に映るようです。
「なんで何回もやり直すの?」
「最初からなぜぶつからないの?」
制限時間が来て息を合わせてぶつかることができるなら、なんで最初からやらないのか?
説明できる人って居ます??
自分らが導き出す答えは・・・相撲ってそういうもんだから、ではないでしょうか。
そう、
それが文化とか伝統とか、得体は知れないけれど何となく大切に感じるもの、なのだと思います。
相撲のTV中継なんかを見ていると、アナウンサーが、
「さぁ、制限時間いっぱいです!」
とコールすると場内から大きな声援が上がるでしょう?
そういう奇妙なものも含めて楽しめばいいわけですよ。
ナック・ムエが5R目にお互い攻撃を出さず、ぐるぐるリングを回っていても、
「おぉ、お互い自信持ってるな!どっちが勝つんだ?」
くらいの気持ちでレフェリーの勝敗を待てばいいわけです。
ぶっちゃけて言ってしまいますが、
ムエタイは格闘競技ではありますが、スポーツではありません。
文化とか伝統、風俗という認識でいるほうがストレスなく済みます(苦笑)。
~無視できないギャンブラーの支持~
さてさて最後に。
本場のムエタイ選手はほとんどこの賭けのあるムエタイを生業としています。一部、賭けの無い「ONE」などのイベントで生計を立てている選手もいますが、そういう選手も元はと言えば賭けのあるムエタイで育ってきた選手なのですから、ムエタイと賭けというのは切っても切り離せないもの。
だからこそ、
ギャンブラーを無視するわけにはいかないのです。
仮に、
最終5Rでセコンドから「もう行くな!(相手と戦うな)」という指示を無視して攻撃を出し、運悪くカウンターなどをもらって負けたりすると・・・今後の試合にギャンブラーの支持を得られなくなり、悪い立場に追いやられます。
一生の思い出に、と数回タイで試合をする程度の選手であれば問題ないのでしょうが、この世界最高レベルのムエタイ界で生き残っていくためにはギャンブラーからの支持は欠かせないのです。
勘違いして欲しくはないのですが、決してこれが良い状態とは思っていません。
しかし、
選手はファイトマネーとは別に、ギャンブラーからのチップなどで生計の足しにし、所属ジム関係者は自身で賭けてこれも運営費に充てるわけで(所得税とかそういうことは聞かないで🙇)、経済状態が上手く回っている以上切り離すことは難しいのです。
もちろん、
業界もコロナ前に比べると随分そのスタイルに変革が起きています。
しかし、
伝統や文化、風俗としてのムエタイはこれからもずっと生き残っていくはずだと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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