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「お絵描きAI」についての考え方の整理

こんにちは、こんばんは。Muaccaです。
お絵描きAI「Stable Diffusion」で遊ぶのにハマって趣味時間の配分割合の大転換が2年ぶりに起きている今日この頃ですが、みなさまはいかがお過ごしでしょうか。
さて、今回はお絵描きAIについて私が勝手に考えていることを文章として整理しようかなということで、つらつらと書き散らしていこうと思います。たぶん長いです。

なお、2022年10月現在、私がお絵描きAIで遊んだ結果の画像は随時ツイートで投稿しています。最近生成した画像たちからいくつか選んでタイトル画像にしておきました。また、ツイートは時々Togetterにまとめてますので、ご興味がありましたらそちらもご覧頂ければと思います。

何が起きているのか

「お絵描きAI」というものがなんだか最近盛り上がっているな、ということを感じている方もいるかと思います。AI自体はだいぶ前、とは言ってもせいぜいここ10年以内ですけれども、かなりイイ感じに発展してきていて実用されるシーンも増えてきたということはご存じかも知れません。
そんな中、2022年はいわゆる「お絵描きAI」が急に世の中に広まり始めた年ということになりそうです。その辺の話は他の人もけっこう詳しく書いてくださっているので、「Midjourney」や「Stable Diffusion」といったキーワードで検索してみると良いと思います。
技術的には「Latent Diffusion Models」という手法が登場したことで、これまでのAIの手法よりもより速く、より低コストでそれなりの品質の出力が得られるようになったぞ、ということみたいです……が、詳しい話は技術系の人が多分解説してくれていると思うのでここでは割愛します。

AIで生成した画像:机の上にあるお絵描きロボット
AIで生成した画像:机の上にあるお絵描きロボット

さて、じゃあ「お絵描きAI」で起きていることっていったいなんなんだということを簡単に言い表すと「欲しい画像の概要説明をテキスト入力して、ボタンをぽちっと押すとなんか素敵なCGイラストが10秒ほどで出力されるようになった」とかそんな感じです。
「え?それだけなの?」と思うか「マジで!?すげー!」と思うかは人それぞれなんじゃないかと思うのですが、私としてはこれはとんでもないことの始まりの一つ、という風に捉えています。これからその理由を長々と説明しましょう。

そもそも「お絵描き」ってなんなんだっけ?

「お絵描き」って知ってますか?知ってますよね。小さい頃に真っ白ならくがき帳にクレヨンで好き勝手描き殴った思い出とか、誰にでもあるんじゃないかと思うのですが、そう、それです。
絵を描くこと自体は、上手い下手を気にしなければそれこそ誰にでもできる話です。「商業レベルで対価を得られるレベルの絵」となると「誰にでも描ける」というわけにはもちろんいかないのですが、その話と「お絵描き」そのものの話は別なので、切り離して考えることにします。
じゃあこの「お絵描き」、実際にはなんなんでしょうか。ちょっと「お絵描き」と呼ばれる一連の行為を分解してみてみましょう。

  1. 準備:絵を描く道具と画材を用意する

  2. 企画:何を描くのかを決める

  3. 描画:道具で画材を加工する

  4. 視認:出来上がったものを見る

  5. 鑑賞:見た人の心に何かが想起される

上記のうち、1.の「準備」と2.の「企画」は、順序が入れ替わっても問題ないです。描きたいものを決めてから道具や画材を選ぶことも多いので、そこは実際ケースバイケースですね。
例えばさっき書いた「真っ白ならくがき帳にクレヨンで好き勝手描き殴った」というケースを、上記の5つのステップに分けて考えるとこんな感じになります。

  1. 準備:母ちゃんがらくがき帳とクレヨンを持ってきて机の上に置いた

  2. 企画:よし、怪獣を描くぞ

  3. 描画:怪獣を描き殴る

  4. 視認:描き終わったものを自分で眺める

  5. 鑑賞:うひーっ!かっこいい!がおがおー!

AIで生成した画像:絵を描き殴る僕ちゃん
AIで生成した画像:絵を描き殴る僕ちゃん

さて、ここに登場人物が2人いることに気づいたでしょうか。「準備」は「母ちゃん」が行っていて、そのあとの「企画」から「鑑賞」は僕ちゃんが行っています。
実は「お絵描き」という行為、これは「準備」から「鑑賞」までひとりだけでも成立するのですが、多くの場合は複数の人で分担して行うことが多いです。例えばこんなケースもあるでしょう。

  1. 準備:美術の時間、自分の絵の具を中庭に持っていって、先生から画用紙を受け取り、画板にセットする

  2. 企画:「今日は中庭で風景を描いてください。何を描いてもいいですが、実際の風景を見て描いてください」と先生からお題が言い渡される

  3. 描画:中庭から見上げた空を描く

  4. 視認:後日、廊下にみんなの作品が掲示され、その中の自分の作品を母ちゃんが参観日に見た

  5. 鑑賞:「うちの子……絵は苦手なのかしら」

この場合、準備と描画は自分、企画は先生、視認と鑑賞は母ちゃん、ということになりますね。
「お絵描き」というともしかすると「3. 描画」のこと、もしくはそのテクニックのことだ、と狭く捉えることもできると思いますが、いろいろなことを考える場合には広義に「準備」から「鑑賞」までのすべてを「お絵描き」として捉えておく方が混乱しなくてよいと思います。
さて「お絵描き」の定義をはっきりさせたところで次の話題に進みましょう。

「お絵描きAI」は「お絵描き」の何を変革するのか

「お絵描き」を「準備」から「鑑賞」までの5つの行為の連なりと捉えた場合、「お絵描きAI」は「描画」に変革をもたらすもの、という位置づけになります。この点について、特に異論はないんじゃないかなと思います。

当たり前ですが、「お絵描きAI」が「1. 準備」をしてくれることはありません。
そもそも「お絵描きAI」は対応可能な画材が今のところかなり限られています。砂浜に木の棒でへのへのもへじを描いたり、結露した冬の窓に指先で相合傘を描いてひとり照れてみたりといったことはまだまだ「お絵描きAI」には不可能です。そのうちできるようにはなると思いますが、それにはもうちょっと技術革新が必要です。
いまのところ、「お絵描きAI」が描くことができるのは「CGイラスト」だけです。それどころか「お絵描きAI」自体、コンピュータが無いとどうにもなりません。コンピュータの中で動作し、コンピュータの中でCGイラストを出力する、ただそれだけの存在です。

また、「2. 企画」についても「お絵描きAI」は何もしてくれません。もちろん、ランダムに何かお題を出力させるようなことはできると思いますが、それは別にAIを使わなくても、あみだくじとかそういった古典的な手法でも可能ですしね。

AIで生成した画像:ベッドの上でさぼっているロボット
AIで生成した画像:ベッドの上でさぼっているロボット

ちなみに「お絵描きAI」は「4. 視認」についても特になにもできません。
実は「視認」については「お絵描きAI」が登場するかなり以前に大変革があったばかりで、そちらの方が「お絵描き」の在り方に与えた影響は大きいかも知れないのですが、それまで美術館に行ったり本屋でイラスト集を買ったりしないと見ることができなかった世界中のイラストを、いまでは家に居ながらにして見ることができるようになっています。「インターネット」だとかTVや新聞といった「マスメディア」とかがそうですね。
もちろん、油絵などの実物はいまでもその場所に足を運ばないと見ることができないのですが、油絵の外見を撮影した写真やデジタルデータとしてのイラストということに限れば、誰でもどこからでも「視認」することがすでに可能になっています。

最後の「5. 鑑賞」ですが、これはもう、人間ひとりひとり個人個人の心の中の話なのでAIがどうとかいう話とは無縁です。
もしもAIがこの「鑑賞」行為をできるようになったとしても、最終的にあなたにとっての「芸術」は作品を見て感じたあなたの心の中に現出するのであって、「お絵描きAI」だろうが母ちゃんだろうがそこに何か影響することはそもそも不可能です。

注:もちろんブレインハックみたいな概念で心の中の事象を外部からいじれるようになったら「鑑賞」も無事では済まないのですが……いまはその話は置いておきましょう。

「お絵描きAI」は「描画」をどう変革するのか

さて「お絵描きAI」が「描画」行為を変革するものだとして、それはどういう変革なのかを考えてみましょう。
「お絵描きAI」を使った「お絵描き」を、先ほどの5ステップに当てはめると以下のような感じになります。

  1. 準備:十分な性能のGPUを装備したコンピュータを用意し、そこに「お絵描きAI」のソフトウェアをセットアップする

  2. 企画:「水しぶきと水着の美少女」のCGイラストが欲しい

  3. 描画:「水しぶきと水着の美少女」を表現するテキスト(例えば「pretty  girl wearing swimsuite in splash」とか)を「お絵描きAI」の画面に入力し、ぽちっとボタンを押すとコンピュータの中にCGイラストのデータが保存される

  4. 視認:あなたがツイッターに投稿したCGイラストをフォロワーさんが見る

  5. 鑑賞:フォロワー「水着!いいね!」

どうでしょうか。冒頭で「欲しい画像の概要説明をテキスト入力して、ボタンをぽちっと押すとなんか素敵なCGイラストが10秒ほどで出力されるようになった」と書きましたが、つまりそういうことです。
従来のイラストや絵画の場合、ここの「描画」をどうしていたかを思い出してみてください。

  • らくがき帳にクレヨンで怪獣を描き殴る

  • 画用紙に絵の具で見上げた空を描く

  • iPadでペイントアプリを使って、Apple Pencilでデジタル作画する

どうでしょう。「お絵描きAI」での「描画」と従来の「描画」の大きな違いに気づくでしょうか?
そうです。つまり、「いままでのお絵描き」と「お絵描きAIでのお絵描き」の違い、それを一言で言うなら「筋肉を使わなくなった」ということになるわけです。
実のところ、「お絵描きAI」以前の「お絵描き」はいわば肉体労働みたいなものでした。例えば「3日間筆を持たなかったら絵が下手になった」とかいう話を聞いたことがあるかも知れません。それはつまり、「お絵描き」というものが腕や手、指などを動かす筋肉の訓練に依存した技術だったからに他なりません。これは最近のiPad等でデジタル作画をしているような場合でもあまり変わってなくて、「描画」行為の上手い上手くないはアーティスト個人の筋肉練度に依存していたわけです。

AIで生成した画像:原始、人類は筋肉で絵を描いていた
AIで生成した画像:原始、人類は筋肉で絵を描いていた

もちろん、デジタル作画になって「アンドゥ機能によるやり直しの簡便さ」だとか「レイヤー分けによるパーツ作業の実現」だとか「フィルタ効果による表現の幅の広がり」だとか、紙とクレヨンなどを使っていた頃のアナログ作画に比べると様々に便利な機能が増えたことは間違いありません。ですが、最終的な「描画」行為の良し悪しは筋肉練度の高低にかなり影響を受けていた、というわけです。

つまり「お絵描きAIによる描画の変革」とは「描画行為における筋肉練度の重要性の低下」ということになります。

「お絵描きAI」による変革で何が起きるのか

さて、描画行為における筋肉練度の重要性が低下したということで、この先いったいどういうことが起きるんだろう、ということを考えてみましょう。

そのために、ここで別の筋肉練度依存な行為である「長距離を走る」を先例として用いることにします。「愚者は自らの経験に習い、賢者は先人たちの歴史に学ぶ」ということわざもありますし(あるよね?)、ここは賢く「長距離を走る」という先例に起きた過去の出来事から、「お絵描きAI」によってこれから起きるであろうことを考えてみるわけです。
まずは「お絵描き」と同じように、「長距離を走る」行為についてステップ分けしてみます。

  1. 準備:移動するために必要なものを集め、出発できる状態にする

  2. 企画:移動先をどこにするかを決定する

  3. 移動:移動先に向けて移動する

  4. 到着:目的地に到着する

「長距離を走る」は「お絵描き」と違って、「鑑賞」がありません。これは「お絵描き」が自分も含め、誰かに見てもらわないと芸術として完成しないものであるのに対し、「長距離を走る」は目的地に到着すればそれだけでオッケーであるということからくる違いです。
こうした違いはあるものの、「お絵描き」と「長距離を走る」という行為にはそれぞれ「描画」と「移動」という従来であれば筋肉練度に依存していたステップを含んでいる点は共通しています。

では「長距離を走る」という行為のうちの「移動」に対し、その筋肉練度への依存性が低下することになった出来事として挙げられるのはなんでしょうか。
そう、馬車や自動車、鉄道といった自分の脚以外での長距離移動手段の登場・発達がそれにあたると言えるでしょう。とりあえずここでは「自動車」を「お絵描きAI」との比較に用いることにします。
自動車普及以前と以後で、「長距離を走る」という行為にどんな違いが起きたのかを見比べてみましょう。まずは自動車普及以前のステップです。

AIで生成した画像:マラソンランナーと競争する自動車
AIで生成した画像:マラソンランナーと競争する自動車
  1. 準備:靴を履く

  2. 企画:40km先のゴールを目指すぞ

  3. 移動:自分の脚で4時間程度走行

  4. 到着:ゴールに着いた!

これが自動車普及以降だとこうなります。

  1. 準備:運転免許を取得し自動車を購入、ガソリンを入れ、乗車する

  2. 企画:40km先のゴールを目指すぞ

  3. 移動:自動車を運転し1時間程走行

  4. 到着:ゴールに着いた!

違いは以下の2点ですね。

  • 「移動」が筋肉に依存しない「運転」という「操作」に変化し、時間が短縮した。

  • 「準備」に「運転免許の取得(=操作技術の習得法的な許認可)」「自動車の購入(=機器の入手)」「ガソリン(=維持費)」が必要になった。

つまり、これと同じようなことが「お絵描き」にも起きるということになります。一つ一つ、詳しく見ていきましょう。

起きることその1:「描画」にかかる時間が短縮することで「お絵描き」趣味のすそ野が広がり、商業としての「お絵描き」では「お絵描きAI」の活用が必須になる

「長距離を走る」という行為において、自動車普及以前とその後で目に見えて圧倒的に異なるのが「時間の短縮」ということになると思います。それまで人間の能力の限界に縛られていた走行時間が、自動車の普及で筋肉練度に依存しなくなり、劇的に短縮できるようになったというわけです。
これと同じことが「お絵描きAI」の普及で起こるのは歴史の必然ということになるでしょう。

では、どれくらい短縮されるのかという話になります。「長距離を走る」だと、それまでせいぜい時速10km程度の速さでしか移動できなかったものが、自動車を使えば時速40km、場合によっては時速100kmの速さでも移動できるようになりました。実に4~10倍くらいの変革、ということになります。これに加えて、自分の脚で走るとすぐに疲れてしまいますが、自動車なら筋肉的な疲労はなくなるので、その点も変革ということになるでしょう。

「お絵描きAI」はまだ黎明期ということもあり、その性能がどれだけ今後向上するのかは未知数なところもありますが、それなりの画像を10秒に1枚生成できるとしてみましょう。同じクオリティのCGイラストを仕上げるのにいままで5時間程度かかっていたと仮定すると、実に1,800倍の差があることになります。

「お絵描きAI」が「描画」のすべての作業を自動化してくれるわけではないので、全部が全部1,800倍になるわけではもちろんないですが、その一部分が1,800倍の速さで終わるようになると、いままで筋肉で何とかしていた作業時間が余るようになります。
その余った時間の使われ方のパターンとしては、以下の3つが考えられます。

  • ① お絵描き作業の他の部分にもっと時間をかけるようになる(=世に出る1枚1枚の画像のクオリティが向上する)

  • ② 別の画像を作成するようになる(=世に出る画像の枚数が増える)

  • ③ お絵描き以外のことをする(=お絵描きがより手軽になる)

ここでちょっと考えないといけないのが、「趣味としてのお絵描き」と「商業としてのお絵描き」とで、この①~③の影響の仕方が違ってくるということです。

趣味としてのお絵描きの場合、別に誰かと競争しているわけではなくて、自分の時間を好きに過ごしているだけなので、①と②については個人個人それぞれ、ということになります。
ある人は「お絵描きAI」を活用してよりクオリティの高い画像を世に出すでしょうし、別の人はいままでよりもたくさんの画像を世に出すという選択をするでしょう。
実は趣味のお絵描きに対して一番影響のあるのは③で、「お絵描きAI」のおかげでより短時間でいままでよりもクオリティの高いものが手に入るようになるため、「お絵描き」という趣味自体がより手軽にチャレンジできるものになります。
これは「お絵描き」を趣味に選ぶ人のすそ野が広がることを意味します。つまり人類全体での「お絵描き」趣味の底上げが起きる、ということです。
「長距離で走る」の先例で考えるなら、病気や怪我で遠くへの旅行に行けなかった人々でも、自動車を活用すれば旅行を楽しめるようになった、という感じになります。

AIで生成した画像:老人とロボット
AIで生成した画像:老人とロボット

一方、商業としてのお絵描きの場合に一番影響するのは②です。②は端的に言ってしまえば「お絵描き」というお仕事のコストダウンに他ならないからです。
「長距離を走る」の先例だと、「手紙を届ける」といったお仕事で想像してみると良いかもしれません。自動車登場以前、走って手紙を届けていた時代と言えば飛脚のようなものが思い浮かびますが、今では飛脚は存在しません。手紙を運ぶ主な手段は自動車などに取って代わられているというのが現実でしょう。「飛脚を数百人雇って手紙を配送するよりも、数台の自動車を導入してそれを活用する方が手紙一通あたりにかかるコストが安くて済む」といったような、商業としての判断の結果なんだと思います。
なので「商業としてのお絵描き」ではいずれ「お絵描きAI」を使うことが必須になります。そうしないとコスト競争で負けるからです。
ただ、この現代でも手紙を届けることのすべてを自動車がやってくれているわけではなくて、最後の一軒一軒のご家庭の郵便受けに手紙を入れていく部分は配達員の方が行っているかと思います。商業としての「お絵描き」にも同じようなことが起きると考えると、大まかな作業のほとんどは「お絵描きAI」を使うことになるけど、最後の仕上げとか細部の詰めといった部分はこれからも人の手で実施する、ということになる可能性が高いんじゃないでしょうか。

起きることその2:「お絵描き」では「お絵描きAI」の操作技術が求められるようになり、その操作のためのUIはどんどん改善する

「長距離を走る」ではそれまで「自分の脚で走っていた」のが「自動車を運転する」に変わりました。それまで長距離を速く走り抜けるには筋肉練度を向上させればよかったわけですが、そうではなく自動車を適切に運転することの方が重要になったということです。
これと同じように、「お絵描き」でも「お絵描きAI」の操作技術が今後は重要になっていくというのが歴史の必然ということになりそうです。

ちなみに現時点での「お絵描きAI」の操作方法は「生成したい画像の概要説明をテキストで入力する」という感じになっています。いわゆる「prompt」とか「呪文」と呼ばれているのがその概要説明で、この呪文次第で画像の良し悪しが結構影響を受けるため、「お絵描きAIでは呪文が重要らしい」という雰囲気があったりします。
ただそれも黎明期の一時的な事情に過ぎないと私は考えています。いくらなんでもAIの言語モデルに合わせて調整された呪文を入力するなんていうUIが一般化するとは考えにくいですし、だいたい面倒です。おそらくですが、今後はそうしたUI部分がどんどん改善されていき、例えば音声で自分の欲しい画像のイメージを話すだけでいくつかの画像の候補がAIから提示されるといったような、簡易な操作方法が登場すると思います。

AIで生成した画像:水着のかわいい女性と夏空と海

「オッケーAI、水着の美人さんの画像が欲しい」「うーん、3番の画像をベースに背景を夕焼け空に変更」「右上に花火を入れて」「違う違う。線香花火じゃなくて打ち上げ花火」「オッケー、あとはソフトフォーカスで人物に焦点を当てて、他は軽くぼかして」……とまあ、こんな感じにUIが進化するはずです。進化してください(他力本願)。

起きることその3:「お絵描きAI」を使うための手段が色々出てくる

「長距離を走る」の先例では、変革の恩恵を受けるには自動車を入手する必要がありました。それと同じように、「お絵描きAI」による変革の恩恵を得るには、「お絵描きAI」を使うための手段が必要になります。
高性能なGPUを搭載したコンピュータを買い、そこに「お絵描きAI」を動かすための環境とソフトウェアを導入する……「自動車を購入する」に相当するのは、こういった感じの話になります。
ですが、現代でも自動車を買う以外の方法で「長距離を走る」手段を得ている例はあるでしょう。例えばバスや電車を利用するだとか、タクシーを呼ぶだとかですね。これと同じようなことが「お絵描きAI」でも起きるはず……というか、2022年10月時点でもうすでにそうした代替手段が登場しています。

「お絵描きAI」を使うための代替手段として、まず「高性能なGPUを搭載したコンピュータ」を買わなくても済むようにしようというのが、GPUマシンを借りられるクラウドやレンタルサーバということになると思います。自動車の先例でいうとレンタカーサービス、みたいな話ですね。
これは「お絵描きAI」が登場する前から他の用途向けに存在していたサービスで、利用時間に応じた料金を支払うことでコンピュータを使えるようになるというものです。

AIで生成した画像:たくさんのコンピュータ
AIで生成した画像:たくさんのコンピュータ

高性能なGPUを搭載しているコンピュータを手に入れたとしても、「お絵描きAI」がすぐに使えるわけではありません。「お絵描きAI」を動かすための環境やソフトウェアを導入する必要があるのですが、それも技術者ではない一般の方にとっては結構ハードルの高い話です。なので、その辺の話をまるっと引き受けて、簡単に「お絵描きAI」を使えるようにしてくれるサービスがすでに登場しています。
2022年10月時点で、オンラインサービスの「Midjourney」「Memeplex」やスマホアプリの「AIピカソ」、LINEボットの「お絵描きばりぐっどくん」といったものが登場し、商業サービスの可能性を模索しているといった感じです。
これは「長距離を走る」の先例で言うとバスや電車に相当するものになるかと思います。

そういえばPhotoshopやClip Studioといったお絵描きのためのアプリケーションのプラグインとして「お絵描きAI」を利用できるようにするという試みも始まっています。
そうなると誰でも知らず知らずのうちに「お絵描きAI」の組み込まれたアプリケーションを利用するようになる、といったことになるかも知れません。趣味としての「お絵描きAI」の活用は、このケースがメインになるかもですね。
「長距離を走る」の先例だと……うーん、自転車に電動アシストが付いて便利になる、的な感じでしょうか……?

もう一つ「長距離を走る」の先例だとタクシーのような形態の利用手段もありますよね。「お絵描き」で考えると、あなたの代わりに「お絵描きAI」で画像を生成してくれる代行業を利用する、といった感じになるでしょうか。
ただ、この形態だと「お絵描きAI」を使っているかどうかは、利用する側にとってはあまり関係ないかもしれません。注文した通りの画像が得られればいいわけですから、それがどういう方法で作成されたものかは気にならないということはあると思います。イラスト代行業の場合、お客様から見えない裏側で、だんだんと「AIお絵描き」を活用したものへの移行が進んでいく、そういう話かも知れないですね。

とまあ「長距離を走る」の先例とも対比しながらいろいろな活用手段を考えてみましたが、もしかすると私たちの想像を飛び越えた形での利用方法も今後、登場するかも知れません。楽しみです。

起きることその4:「お絵描きAI」の利用についての法的な整理が進む

「長距離を走る」の先例でいうと、運転免許制度や道路交通法といったものが、法的な整理の結果ということになると思います。なので「お絵描きAI」についても今後何らかの法的な整理が進むことは歴史の必然と考えておく方が自然でしょう。

AIで生成した画像:ドラゴンと対話する裁判官
AIで生成した画像:ドラゴンと対話する裁判官

では、具体的にはどういった整理が進むのでしょうか。
法にはおおまかに3種類があるので、それぞれを区別して考えてみましょう。

  • ① 基本的で普遍的な人類共通の当たり前(=自然法。基本的人権とか)

  • ② 社会を維持するうえでの約束事(=公法。刑法などがこれ)

  • ③ 個人や企業の間での取り決め(=私法。民法、商法、労働基準法など)

さて、「お絵描きAI」が変革するのは「お絵描き」における「描画」行為についてですので、上記の①~③のうち、①についてはまったく関係がなさそうです。例えば「お絵描きAI」のおかげでそれなりのクオリティの画像が大量に世の中に出回るようになったとして、それで何か「平等権」や「自由権」といったものが侵害されるかというと、そういうことはないような気がします。

「長距離を走る」の先例で考えてみると、道路交通法は②の公法に分類されるものです。道路交通法は自動車が走行することで生じる危険な状態に対してそれを緩和するためにルールを定めたものだと思うので、「お絵描きAI」についても何か生死にかかわる危険な状態だとか、財産を失うようなリスクだとかいった話があれば、公法としてのルールが整備されることになるでしょう。また、そういった危険やリスクがあるとなれば、「お絵描きAI」を使うための許認可制度も整備しないといけないかも知れません。「お絵描きAI免許」とか?うーん。ちょっと考えにくいですね……「お絵描きAI」について道路交通法に相当するようなものや許認可制度が整備される可能性は低いと思います。
むしろありそうなのは例えばデマ画像、例えばフェイクニュースとしての画像だとか、リベンジポルノの画像に対する規制、みたいな話でしょうか。「お絵描きAI」は「描画」にかかる時間を短縮するので、そうしたデマ画像についても、これまでより手軽に生成できるようになります。ですので、今後はそうしたデマ画像がもっとたくさん出回るようになるでしょう。ただ、こうしたデマ画像に係る法的なルールはすでに刑法で対応できる(信用毀損罪、名誉毀損罪、偽計業務妨害罪、威力業務妨害罪など)とも思うので、改めて「お絵描きAI」に特化したようなルールが整備されるということにはならない、とは思います。

ということで、「お絵描きAI」について、もし法的なルールが整備されるとすると③の私法、ということになると思います。私法の中で関係しそうなものとしてぱっと思いつくのは著作権法ですが、実は著作権法って「お絵描き」の5つのステップでいうと「4. 視認」に係る変革(活版印刷で著作物の大量の複製が可能になったこと)の社会的影響(著作者の権利関係を明確にしないと社会全体の創作効率が下がる)についてのものなので、「3. 描画」の変革である「お絵描きAI」についてはあまり関係ないんですよね……。
あと、公法のところでも取り上げたデマ画像関連で言うとそのデマが原因で損害を受けた人がいた場合には損害賠償責任が問われるとか、そういう話はありそうです。ただ、これも既存の法の枠内で対応できるような気はしますね。

とはいえまだまだ登場したばかりの新しい技術なので、この先どういうことが起きて、どんなことで揉めるかは正直分からないです。いまいまの我々の想像を超えるようなことが起きるかも知れず、注意深く見ていく必要があるのだと思います。そのうえで、社会全体が「お絵描きAI」による利便を享受できるようにしていく、「お絵描きAI」によって生じる損失を未然に防いでいく、そういうルールを整備していくことが重要なんだと思います。

その他の話題

ここまででだいたい書きたかったことは書いたのですが、そのほかの話題についてもQAっぽく書いておきますね。

イラストレーターという職業はなくなってしまう?

なくなりません。イラストレーターの中で、AIを活用できる人とできない人とで二極化し、活用できる人だけが商業的に生き残るというだけの話です。
あと、お絵描きに係る「描画」以外の部分については、「お絵描きAI」は関係ないのでイラストレーターの仕事の大部分は今まで通りに必要となります。仕事とってきたり、どんなイラストを描くのかをお客さんとイメージ詰めたり、そういうことの方が実は時間がかかったりしますしね。

AIを使わないお絵描きはもうなくなってしまう?

そんなことはありません。少なくとも趣味の世界であれば、AIを使おうが使うまいが自由です。
ただ、もし商業的なお絵描きを志すのであれば、AIを活用することは必須になります。あと、抜け道として「AIを活用しないお絵描き分野」というものを別に確立して、そこで活躍するという手はあります。
例えば、「長距離を走る」の先例であればマラソン選手のような存在を目指す感じです。「AIを活用しない」なんらかのお絵描きレギュレーションを定め、それを趣味の一分野として確立し、その趣味を愛好するコミュニティを育み、展示会やイベントなどで集客することで商業的な対価を得ることは可能だと思います。CGイラストが登場した後も、油絵や写真などはそうしているわけですから、それと同じことをすればいいのだと思います。

AIの学習元のデータには著作権法違反の疑いがあるから使ってはダメ?

学習元データの違法性については今後の判断を待ちたいところです。もし違法であると認定された場合、学習元データについて何らかの対策を行う必要がありますね。でも今は特にその点を気にする必要はなさそうです。違法性が確定したら改めて考えましょう。

AIで画像生成するための呪文をいまから練習した方がいい?

趣味として呪文の探求を楽しむのはイイと思います。けっこう楽しいですし。
ただ、呪文という手段での操作は黎明期の一過性のものだと思いますので、「呪文さえ極めればこの先もお絵描きAIの活用シーンで有利になる」ということにはなりません。
このあと、AIの操作方法はまた劇的に進化すると思いますので、お絵描きに活用するのはそれからでも遅くないです。呪文にこだわる必要はありません。

まとめ

さて、いろいろ雑多に書いてきましたがまとめておきます。

  • 「お絵描きAI」の登場で、欲しい画像の概要説明をテキスト入力して、ボタンをぽちっと押すとなんか素敵なCGイラストが10秒ほどで出力されるようになった。

  • 「お絵描きAI」は「お絵描き」のうちの「描画」において、筋肉練度の重要性を低下させる変革である。

  • 「お絵描きAI」によって、次のようなことが起きる。

  1. 「お絵描き」趣味のすそ野が広がる

  2. 商業としての「お絵描き」では「お絵描きAI」の活用が必須になる

  3. 「お絵描き」において「お絵描きAI」の操作技術が求められるようになる

  4. 「お絵描きAI」の操作方法はどんどん改善され、簡単になる

  5. 「お絵描きAI」の利用手段が色々登場し、誰でもお金さえ払えば使えるようになる

  6. 「お絵描きAI」の利用についての法的な整備が進む

さいごに

今回は「お絵描きAI」に絞った話題でしたが、実のところこれはまだまだ始まったばかりの出来事の一つにすぎません。すでに「動画を生成するAI」ですとか「音楽を生成するAI」「小説を生成するAI」といった、他の分野でのAIの発展も始まっています。
実はAIによる進歩のインパクトはとんでもない規模です。先例として挙げた自動車の例だと速度の点で言えばせいぜい10倍程度の性能革新だったわけですが(もちろん、他にも運ぶ荷物の重量だとかの性能革新もあるのですが)、お絵描きのAIにおける性能革新は低めに見積もっても1,000倍程度はある計算になります。10倍の性能革新か、10分の1のコストダウンかが起きると、それはその適用分野において破壊的なイノベーションの核になりうるわけですが、お絵描きAIはその水準を軽くクリアしてしまっています。お絵描きAIだけであれば適用範囲が狭いので社会への影響はそれほど大きくはないかも知れませんが、例えばこれが娯楽のあらゆる分野でAIが活用されるようになると、いままで思ってもみなかったような変化が起きる可能性はけっこう高いと思っています。そういう意味で、こうした技術の進展にはアンテナを高く持っておきたいと思う次第です。

AIで生成した画像:海水浴をする女性のアップ
AIで生成した画像:海水浴をする女性のアップ

ではでは! ENJOY!




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