ものをかくこと

小さい頃からいつも頭の中がうるさかった。

言葉で、私の頭の中はうるさかった

私の頭の中にはいつも言葉が飛び交い
みたものきいたもの感じたもの、
それを言葉、文章にすることでいつも忙しくうるさかった。

感じたこと、思ったことを言葉にして残さないと、
っていう感情と
だけどそれに追いつけない自分に苦しくなるときが
ほとんどだった。

自分にとって素敵な出来事があった日、
かけがえのない時間を過ごした日、
つらいことがあった日、
よし頑張ったぞっていう日。
そんな日たちにうまれる私の特別な感情。

この感情や感覚、景色を言葉にできそうになくて
残せそうになくて、追いつけなくて自分の心の中だけじゃ
収まりきれなくて処理できなくて
とても抱えきれない気持ちになって
それがもどかしくてたまらなかった。

だから、
私の 楽しい、嬉しい、特別 の中にはいつも
どこかすこし 苦しい、悲しい を持ち合わせている。

満開の桜の花をみるのが苦手だ。
とても苦手というわけではない。
もちろん綺麗な桜はみたい。
だけど、あぁ、今年もあの感情になるのかな、と
すこしだけ薄黒いものが混じることを恐れる気持ちがあった。

満開の桜をみると、
その綺麗さを自分の中だけじゃ到底抱えられるものではないと
その場にいる私は、どうしたらいいのかがわからなくなる。
豪快に惜しみなく、美しく可憐に広がる、綺麗な桜、
その光景を自分の中で整理して落とし込むことができない。
どうしたらよいのかわからなくなって苦しくなる。
そして、こんな苦しい気持ちになるくらいなら、
早くここからいなくなりたい。
こんな気持ちになることがわかっているからみたくない。
そう思ってしまう。
そんなことを思っているうちに桜は散っていく。
すこし汚い桜をみると、ショックではあるがどこか安心している。
あぁ、あの気持ちにならなくていいんだと。

真っすぐと桜をみて、綺麗だ、最高だ、素敵だ、と言える人、
そして、満開の桜を今年もみたい、と言える人が羨ましかった。

こういったことは桜だけでなく、他のものに対しても思うことだが、
とくに花は、私をそういう感情にさせる。
散ることが悲しいから、とは思ったことはないけれど、
もしかしたら、潜在的にその感情も埋め込まれているのかもしれない。

だって あんなにも大きく果てない綺麗なものが
嘘みたいにそのうちなくなるなんて それさえ抱えきれない

花でなくても、完璧で綺麗な、人工的でない自然なものは
私を苦しくさせる。

だから、21歳の誕生日のとき、母からのプレゼントは、
絞り模様の薔薇とかすみ草を選んだ。
白い薔薇に、まだらに濃いピンクが入り込んでいる。
白の中に無造作にあつかましくピンクが散りばめられている未完成さと
遠慮ぎみに咲くかすみ草はみていて苦しくならなかった。
だけどすこし、薔薇のひとつひとつの花びらが構成する完璧な形は
苦しくとまではいかないが、言葉にできないなにかを
私に残した。

綺麗な花をみるだけでもこんなにも私の頭の中はうるさい。
日常の出来事も、特別な日も。
私の頭の中はうるさかった。

言葉や文にすることを考えるから苦しくなり
頭の中がうるさいけれど、
それを救うのもまた、
言葉や文でしかなかった。

言葉や文にすることで生じる私の頭の中の騒がしさや苦しさを
救うのは、言葉や文を書き出すことだった。

最近やっと、なにかをみて、きいて、感じて、
そこから書き出し止まらない手を
認めてあげることができた。
あぁ、書ききれない、この感情全部言葉にできない、
残せない、残さなきゃ、と焦る私の頭の中と右の手を、
私は見守ることにした。

書くために、言葉にするために文にするために、
いろんな感情になりたいとも思えている。
その感情でどんな言葉が、文が出てくるのかも
気になっている。
もちろんそのぶん、苦しくも怖くもなっている。

やっと気づいたことがある。

私にとって書くことは、苦しくも怖くもなる
だけど、それでも好きなのだ。

うるさい頭の中、答えのない苦しさ、
書き残せないかもしれない恐怖。
そんなものが奥にある。たまに水面にもでてくる。
だけど、こんな気持ちになるくらいなら、
もう書きたくない、とは思えない。
書かないと生きていけない。
書かずにはいられない。

私の人生、ものを書かずにはいられないのだ。
やっと気づいた。
苦しくても、怖くても、
それでも書くことが好きなのだ。

なぜ好きなのかは、これからみつけていく。

また感情があふれ出し、あらたな言葉を紡いでいく。
そのときに直面したことを考えると
やはり怖いが、書いていたいし残したい。
そして大切な人たちに読んでもらいたい。

いつか堂々と、

私は書くために生きているけど、
あなたのために書いている。

と言いたい。


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