文字起こし:【音声配信】特集「英語の民間試験などが導入される新大学入学共通テストの問題点とは?」中村高康×羽藤由美×荻上チキ(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」 2019年9月20日放送分)(※作成中)

2019年9月20日(金)Main Session
多くの高校が延期を求めるなど批判の声も!英語の民間試験などが導入される新大学入学共通テストの問題点とは?
https://www.tbsradio.jp/411707
<スタジオゲスト>
東京大学大学院教育学研究科教授の中村高康さん
<電話ゲスト>
京都工芸繊維大学教授の羽藤由美さん

(以下、話し言葉を若干、書き換えています)

【南部広美】 センター試験にかわって、2020年度から行われる大学入学共通テストに導入される、英語の民間検定試験をめぐって、大きな混乱が起きています。
 今月(9月)10日、全国高校長協会が、来年度の実施の延期を文部科学省に要請。協会のアンケートでは、全国の高校のおよそ7割が延期を求めているということです。しかしながら文部科学省は、あくまで来年度から始める姿勢を崩していません。
 そこで今夜は、そもそもなぜ、大学入学共通テストが新しく始まるのか、そして、英語の民間検定試験をめぐって、なぜ混乱が続いているのか。その問題点を、専門家の方と考えます。
 では、ゲストをご紹介します。東京大学大学院教育学研究科教授の中村高康さんです。

【荻上チキ】 そもそも今回の入試改革というのは、いったいどういったものなんでしょうか。

【中村高康】 そもそもの入試改革の動機なんですが、社会的に閉塞感が広がっている状況の中で、変化の読めない時代でも通用するような新しい教育をしていこうと、そういうことを動機として行われている改革だと思います。
 ただ、それは入試改革だけではなくて、教育改革全体の中で、それが1つのピースとして位置付いていまして、政府の方でも高大接続改革などと言ってますけれど、これは高校・大学の教育を通して、全体的に改革していこうという、そういう方向性になっています。
 ですのでこれは、入試だけでなく、学習指導要領ですとか、教育の内容等にもかかわっての改革の一環というものです。

【荻上チキ】 いろいろな改革が行われようとしている中で、特に学力の三要素を重視しているのが特徴だということですが、改革の中身の特徴はいかがですか。

【中村高康】 学習指導要領から一貫して通じている要素なんですが、学力の三要素とは、1つは「知識・技能」ですね。2つ目が、「思考力・判断力・表現力」。3つ目が「学びに向かう力、人間性」と(※1)。
そういうのが、よく挙げられているんですけれど、この3つをバランスよく育てていこうという方向性が謳われています。

(※1)文部科学省HP「新しい学習指導要領等が目指す姿」
http://www.hosei.ac.jp/index.html

【荻上チキ】 そうした方向性は、これからも基本的には継続されるわけですか。

【中村高康】 一応、そういう方向で教育改革が行われています。ですので、継続する方向で、すべての部分で、高校教育、大学入試、それから大学教育も含めて、そちらの方向に持っていこうという、そういう改革なんだと思います。

【荻上チキ】 その改革の中で、共通テストの中身も変えられようとしているということになるわけですか。

【中村高康】 そういうことですね。

【荻上チキ】 ちなみに共通テストとはどういったものなのか、ということも教えていただけますか。

【中村高康】 共通テストは文部科学省で2021年1月に1回目のテストを行うことが正式に決定しています。従来の大学入試センター試験と大きく異なっている要素が2つあります。
 1つは国語と数学に、マークシートだけでなく、記述式の問題を入れていくこと。大きな目玉になっています。国語と数学で、それぞれ三題ずつ入れると言われています。
 また、英語の方で、今、大変話題になっている「読む・聞く・話す・書く」の四技能を評価するというのがスローガンになっていまして、そのうち特に「話す」の部分が、マークシートではなかなか測りにくいということで、民間試験を導入するという話になっていて、それが大きな目玉のもう一つになっています。
 
【荻上チキ】 この共通テスト、どういう中身になっているのか、また後ほど詳しく伺いますが、このテスト以外に具体的に変えられようとしているものには、どんなものがありますか。

【中村高康】 先ほどの学力の三要素。その中に、主体的な学びの態度といいますか、「学びに向かう力」という表現がありましたが、こういったものをもっと積極的に評価していかなければいけないという方向があります。
 それはたとえ、記述式を入れようとも、スピーキングを入れようとも、測りきれないんじゃないかということで、調査書をですね、まあ、内申書とよく言いますけれども、そういうものも評価にどんどん入れて行こうじゃないかと。で、場合によってはそれを電子化して、「e-ポートフォリオ」も活用していこうじゃないかという動きが出てきています。

【荻上チキ】 それはいわゆる内申書、これまでは受験の際とかに使われたりするので、だから生徒会長に立候補してポイントをあげようとか、いろいろな生徒たちの動機付けを変えていたものが存在していたわけですけれど、その内申書をなくすのではなくて、強力にするというイメージですか?

【中村高康】 そうですね。ですので、私もその点、懸念している点があるのですけれど、従来は高校入試で、荻上さんに言っていただいたように、内申書を使った選抜を行っていて、その問題はもう、50年ぐらい前から指摘され続けています。気づいている人は言っている、そういう問題。
 それを大学入試の段階で入れていくということのリスクがちゃんと吟味されて、そういう案が出てきているのかというと、どうも、議論を見ていると、そういう感じがしません。
 ほとんど、高校入試でどういう問題があったかという話なしに、主体的な・・・生徒たちが部活であったり、いろいろな活動をしているのを評価するのはいいじゃないかと、そんな雰囲気で、どんどん話が前に進んでいて、なおかつ、電子化したら簡単になっていいじゃないか、と。その点は懸念するところです。

【荻上チキ】 そうすると、いわゆる「学校的に求められる人材像」みたいなものに、より合わせていくような恰好で、高校生活を送らなくてはいけないというような意識を子どもたちにもし与える効果があるならば、主体的かどうかを評価するはずのものだったのが、ものすごく受動的というか、ある形式にあてはまろうという方向に主体的になってしまうという・・・

【中村高康】 まったくおっしゃる通りですね。ですので、「主体的を演じる没個性的な主体」と言いますか、そういう形になっていく可能性があるので、これは使い方を間違えると、本当に危ないものになってしまうんじゃないかなと思っています。

【荻上チキ】 またそれを、デジタル活用もするということなんですか?

【中村高康】 今、それがどんどん、計画が進んでいると思います。

【荻上チキ】 とすると、セキュリティの問題でそれがもし流出したならば・・・

【中村高康】 そういうリスクもありますね。個人情報の問題もありますので。ただ、今、ポートフォリオというのが学校現場でよくやられてますけれど、それが電子化されただけだったらまだしもなんですけれど、それを選抜の方に使うとなると、先ほどおっしゃたように、高校生、受験生の皆さんは、やっぱり「受かりたい」と思えば、受かりそうな主体性なり態度なりを演じていくというスタイルになりかねないというのは、実際に起こってくることです。

【荻上チキ】 なるほど。また実際、データが存在するということが分かれば、目的外使用をしたいと、後ほど声をあげる人もいるのではないかと僕は気になるんですけれど。
 というのは、学力学習状況調査というのは既にあって、いわゆる「学力テスト」と呼ばれるもの、僕はこの省略方法は嫌いなんですけれど、それを例えば、各学校の評価に使おうと言っていた知事さんとか政治家の方が、一時期、いらっしゃいましたね。
 同じように、せっかく生徒たちの学習態度とか生活態度を普段から見ているデータがあるのであれば、それを例えば信頼評価であるとか、学校評価などに使おうじゃないか、みたいな形になってしまうと、これはやはり、もともと想定していた利用法から、どんどんはずれていってしまうが、しかしそれでいいのだろうか、という論調に、使われてしまうと、ちょっと怖いですね。

【中村高康】 そうですね。私もそれは、懸念するところです。やはり入試だけに使う、入試に使うのも問題なんですけれど、入試以外のところにまで波及してしまうというリスクも当然、あるわけでして、そのあたりをちゃんと制度設計していただかないうちに、見切り発車で行ってしまうと、非常に怖いものになってしまうんじゃないかと心配しています。

【荻上チキ】 そして、テストの中身なんですけれど・・・(以下、続く)(後ほど、書き起こし予定)