【文字起こし】不本意フリーランスを増やす高年齢者雇用安定法改正を含む雇用保険法等改正が13日からの短期審議見込み 解説:伊藤圭一 荻上チキ・Session-22 2020年3月10日放送

※1 以下の文字起こしは、下記の番組のうち、雇用保険法等改正案に関する伊藤圭一さんの発言部分(29分過ぎ~44分40秒頃)です。
【音声配信】「新型コロナウイルス対策の陰に隠れた重要法案とは?」竹田昌弘×福井健策×伊藤圭一×上谷さくら×荻上チキ▼2020年3月10日(火)放送(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」22時~)
https://www.tbsradio.jp/463497

※2 高年齢者雇用安定法(高年法)改正の問題点について、日本労働弁護団は3月4日開催の院内集会の趣旨文にて次のように指摘しています。
http://roudou-bengodan.org/topics/9062/


高齢者の働き方「業務委託」でいいの?-高年法改正の問題点を斬る-

政府は、2020年2月4日、高年法の改正案を含む雇用保険法等の一部を改正する一括法案を閣議決定し、通常国会において審議されることが予定されています。この高年法改正案は、高齢者の就業機会の確保及び就業の促進のために、65歳以上70歳未満の定年の定めをしている事業者に対して、その雇用する労働者について、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置として、①当該定年の引き上げ、②65歳以上継続雇用制度、③当該定年の定めの廃止又は労使で同意した上での雇用以外の「創業支援等措置」として、④新たに事業を開始する高年齢者との間で労働契約ではない委託契約その他の契約の締結、⑤3つの種類の社会貢献事業について高年齢者との間で労働契約ではない委託契約その他の契約の締結のいずれかの措置を講ずることを努力義務としています。使用者はいずれの措置を選択してもよく、④の制度は高年齢者が65歳以後に自ら新たな事業を開始することを前提とするものであり、⑤の制度は高年齢者が65歳以後に労働契約によらずに社会貢献活動に従事できるとするものですが、その契約形式はいずれも「雇用によらない」ものです。
このような「雇用によらない」働き方を進め、労働基準法や労働契約法、労働安全衛生法、最低賃金法などの労働関係法規の適用が否定される働き方を認めることは問題です。

※3 伊藤圭一さんによる高年齢者雇用安定法改正についての詳しい解説はこちら
労働法の適用外しで待遇低下は必至? 「高齢者雇用安定法」への懸念 ( imidas 2020年 3月6日)https://imidas.jp/jijikaitai/c-40-139-20-03-g767

※4 雇用保険法等の一部を改正する法律案要綱
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000073981_00004.html

――――以下、番組の該当部分の文字起こし―――
(語尾などは一部、簡略化しています)

●荻上チキ 明日(11日)、審議入りということで、雇用保険法等の一部を改正する法律案、これ、中身はどういったものなのでしょうか。

●伊藤圭一 まずこれ、(審議開始は)13日にずれこんで、明日(11日)は労働基準法の方に変わったんですけれど、雇用保険法等の一部を改正する法律案の中身をお話ししたいんですが、まずこれ、「等」とついていることがポイントで、雇用保険法は当然入ってますけれど、他に、高年齢者雇用安定法、労災補償保険法、労働保険料徴収法、労働施策総合推進法など、細かい法律も含めると20本ぐらいを束ねている一括法案です。論点は多岐にわたると。

●荻上チキ 改正法案って、あの法とあの法とあの法のここを変えますよ、「えいや!」っていうこと、ままありますけれど、それにしても多いですね。

●伊藤圭一 多いです。働き方改革一括法案も荻上さん、たいぶ、扱っていただきましたけれど、あれと匹敵するぐらいの、いろんなものが入っています。

●荻上チキ 具体的にはどこに注目されていますか。

●伊藤圭一 悪いものといいものがあるんですが、悪いものの筆頭からいくと、高齢者雇用安定法です。
 今、60代前半までは事業主に雇用する義務がかかっています。これは年金支給開始年齢が65歳へと繰り上げつつあって、まだ途中なんですけれど、その対応措置で、やはり年金と雇用をつなげるということで、60代前半は雇用で義務だということですね。
今回、65歳から70歳まで働き続ける条件をつくるために、事業主にある措置を取ることが新設されるんですけれど、それがですね、雇用でもいいけれど、委託契約や有償ボランティアでもいいという仕組みなんですね。

●荻上チキ ほう?

●伊藤圭一 これは、すごいんですよ。労働法の中に、労働契約から委託契約などに切り替えられる仕組みを入れてしまうというのは、これはもう、かつてないものですよね。

●荻上チキ それは要は、フリーランスかボランティアに変わるってことですか?

●伊藤圭一 そうです。まさに。

●荻上チキ えええ?

●伊藤圭一 すごいじゃないですよ、労働法ですよ、それが。

●荻上チキ 労働、じゃないじゃないですか。委託。

●伊藤圭一 そうなんです。なので、「雇用もしくは就業」っていうんです。「就業確保措置」のなかにそれが入っているんです。
 手続きは事業主が委託契約としてやる業務を決めて、過半数労働組合か、あるいは従業員の過半数代表と合意して、「こういうものです」と示せばよい、と。それは労使でやれますよ、ということです。
 で、退職をはさんだら(労働契約から)委託にできちゃうというんですけれど、これ、従来、(その職場で)働いていた労働者に、同じような業務をさせて指揮命令したら、普通はそれは偽装した契約だということで問題になるんですけれど、こんな手続きが労働法の中に入ってしまうと、仮に、「これ、私は本当は、労働法の適用を受けるべき人なのに、そうじゃないじゃないか」と訴えをしても、「いや、法の手続きはこうあって、ちゃんと合意しているから、そうは言えない」と。「あなたは委託契約です」というふうに、従来の、まあ、今でもなかなか、労働者性の判断の裁判は、勝つのが難しいんですが、そこがもっとひどくなっちゃうだろうという恐れがあります。
 だいたい使用者は、労働法の規制が邪魔だという人が、残念ながら多いですから、委託契約にして、最低賃金も労働時間規制も無視していいと。で、社会保険料の負担もいらないというんですよね。

●荻上チキ えええ?

●伊藤圭一 これは、かなり広がっちゃうんじゃないかと思うんです。
 フリーランスで働く方というのはやはり、それなりの交渉力があったり、能力が高く売れるという方々が独立して頑張る――これは今もあることですけれど、65歳以上の方々にこれからフリーランスというのを入れてしまうというのは、まず高齢者は労災の発生率が男性で若い時より2倍、女性で4.9倍高くなるんですね。労災発生率が高いのに労災保険法の適用もないんですよ。

●荻上チキ はい・・・。

●伊藤圭一 これは、おかしいでしょ、ということが、一番の問題になっています。
 今、コロナ関係の休業補償でも、フリーランスの方が救われないという問題が注目されていますけれど、まさにそういう人を増やそうという・・・。
 で、「高齢者に(そういうことが)できるんだったら、若い人でもできるでしょ」っていうふうに、どんどん、私は(委託契約への移行が)広がるんじゃないかなという恐れを持っているんです。
 「65歳だからいいでしょ」って言ってやっちゃって・・・。

●荻上チキ ということは、「就業確保」という名前のもとに、事実上は「偽装フリーランス」に労働者を置きやることによって、会社の責務を狭めることが可能になる法律になるということですね。

●伊藤圭一 まさに、おっしゃる通りです。

●荻上チキ そうなると、関連して、例えば、パワハラとか、ハラスメントの問題がありますが、ハラスメントの多くは、企業内で問題があったときに様々に対応する責務が企業に発生するわけですが、今の問題として一つは、フリータンスに対する対応義務がないというのが今、議論されているんですが、例えば今回、「就業確保」というかっこうでフリーランスというかっこうに移行されてしまったら、そうした救済すら対象外になってしまうという・・・。

●伊藤圭一 そうです。6月から施行されるハラスメント・・・(パワハラ防止法で)、パワハラについても法的には、はっきりしたんですが、フリーランスについて、使用主が責任を果たすというのは、外されてしまいましたよね。なので、まさにそうなると思います。

●荻上チキ えー・・・。いやあ、それは、一見すると就業確保で、70歳まで企業が対象とするって見ることができるので、「なるほど、いいものなのかな」って思いきや・・・。

●伊藤圭一 そうです。法案の趣旨には当然、働きたい方が今、高齢者でも増えていると。で、そういうニーズに応えるって書いてあるんです。
 ところが、多様な働き方にこんなフリーランスが入っていて、それが選択性で、雇用とフリーランスと、両方やって「どちらがいい?」と聞くんじゃなくて、フリーランス1本にしちゃってもいいですよ。「うちは(就業確保措置としては)フリーランスしかやりませんよ」ってやってもよくて。
 しかも、年金は、今回はセットじゃないですけれど、ご承知の通り、(給付の)水準はどんどん下げる方向を示していますし、支給開始年齢(の後ろ倒し)も65歳で止まらないという見方があり得ますよね。70(歳)までいっちゃうという話もある中で、もう、これは、働かざるを得ないところに追い込まれながら、「いや、あなた、フリーランスじゃないと(働く機会は)ないよ」と迫られてしまうという恐れがあると思います。

●荻上チキ 今ですら、新型コロナウイルスの対策でフリーランスで困っている方、多いと思うんですが、「その方々に、お金、ちゃんと払いましょうよ、政府は」っていう論調を、例えば僕が言うとですね、「いや、フリーランスは自己責任でしょ」と反射的に言う人がいるんです。
 「いや、今回は政府の対応だから、フリーランスの人、一人ひとりの結果責任じゃないよね」っていうことで、一個一個、反論というか、応答していくんですけれど、でも、今回、法律によって、むしろフリーランスが人為的に増やされるかっこうになりつつある。

●伊藤圭一 あると思います。

●荻上チキ で、政府責任を切り離したうえで、「はい、自己責任でよろしく」っていうことを、より強力にやっていくことになるわけですね。

●伊藤圭一 そうですね。不本意フリーランスが増えると思います。実際いま、そういう事件も増えていて、労働契約を委託契約に切り替えられて、「コストゼロ社員」なんて感じで、要は、車で営業する人たちなんかは、車のお金もガソリン代もすべて営業費を全部、自分が持つんですよね。で、売り上げだけを会社に収めて、取り分を取るみたいな形で、「マイナス給料」があるという、とんでもない世界、これがみんなに広がる可能性があると思っています。

●荻上チキ ある意味いま、社会問題になりつつある「ギグ・エコノミー」の高齢者版、拡大を、公式に企業が行うことになる・・・。

●伊藤圭一 そうですね。一見、労働法で、まあ、高齢者だから、なんとなく65歳ぐらいだったらいいじゃないのというみたいな、あるいはみんなが注目しないですよね、今回も。
これだけの(たくさんの)一括法案の中に、ぽこっと入ってるんですよ、小さく。で、いっぺん通ってしまったら、危ないと思います。

●荻上チキ うーん。問題点がいろいろあるという話でしたけれど、他にはどんな点ですか。

●伊藤圭一 今、60代前半の方も60代を超えて退職・再雇用するときに賃金がどーんと落ちるので、高齢者雇用継続給付金というのをもらっているんです、たいてい、これを活用しているんですが、そこをもう、いらないということで削減する案が入っていたり・・・。

●荻上チキ 「いらないということで」ということですけれど・・・?

●伊藤圭一 要はですね、制度も定着してきているので、そろそろここは離脱をして、これからは、2030年には男女ともに(年金は)65歳支給開始年齢ですから、賃金体系全体をきれいにして、できれば定年延長で(対処する形に変えて)、再雇用の人を救う給付なんていらないでしょという、こういう言い分ですね。
 実際は、もっと早くから賃金を下げて、若いころの賃金原資を上のほうにもってきて、全体の賃金水準を下げる方向が強いので、やっぱり給付金は必要だという声は多いんですよ。そこは無視して、突破しちゃうという、そういうところがあります。

●荻上チキ 国庫負担分が減らされるという・・・?

●伊藤圭一 国庫負担分の話は、そこもあるんですけれど、もっと大きいのは、雇用保険本体のところですね。
もともとこれ、法案が作られた頃は、コロナウイルスのことなんて何にも考えなくて、雇用情勢がすごく良好、天下泰平みたいな、そういう見通しで作っているので、雇用保険会計をすごく甘く見ているんですよ。
本来、失業給付に入れる国庫負担っていうのは、今のベースで言うと、2500億円ぐらい入れておかないといけないのを、10分の1に減らしていいよとしているんですね。

●荻上チキ ほう・・・?

●伊藤圭一 で、これ、本当に変えないといけないじゃないですか。法律事項なので。

●荻上チキ 今のこの緊急事態だと。経済的な。

●伊藤圭一 そうです。それで、4月から雇用、かなり、残念ながら失業が増えるかもしれません。そうすると、やっぱり雇用保険の体制も、備えをしておかないといけないのに、雇用保険法を(国会に)出して審議するのに、この法案修正もしないで、きわめて短期間に通しちゃうと考えているんですね。
 それから、また、変えるところで言うと、給付日額、今、雇調金(雇用調整助成金)だとか、臨時休校のときの給付金が、8330円で低すぎるという話が出てますよね。
あれ、実は雇用保険の給付日額をどんどん下げて、これ、45歳から59歳の(失業給付の)最高額が8330円なんですね。かつては1万円を超えていたのが、ここまで下げてきているというところも、本当は変えないと、やはり十分な失業時の生活保障に足りないという。
また、給付の日数もちゃんと、柔軟に対応しておかないといけないとか、とにかくここの3月、予算関連だということで、雇用保険法(改正)については、もう、今の雇用情勢は、法案ができたときと違うよ、と。国会で審議していろいろ必要な手立てをしないといけないっていう議論をしなきゃいけないのに、そんなつもりはもう、さらさらなく、本当に短時間で通すつもりでいるみたいなんです。入ってくる情報によると。

●荻上チキ でも今回、例えば8000円(8330円)と聞いて、しかもそれがごく一部の人だっていうことで、「少なっ!」って思った人、多いと思うんですけれど、それが最高額の失業手当の状況の人たちがたくさんいるんですよというふうに伝えると、「あれっ!? それ、●●(聞き取り不能)」ということで、議論しなおさなきゃってなってもおかしくないですよね。

●伊藤圭一 やっぱり制度全体を見通さないと、「こんなんじゃ生活できないから、どんな仕事でも早く、失業を離脱して就職しないと生きていけない」っていうふうに追い込むための低い水準に(失業給付の額を)落としたということがあります。人が動けば動くほど、転職ビジネスだとかも儲かりますし、そういった配慮もありますね。
 雇用調整助成金じたいも、今、クローズアップされていますけれど、ずっと財源は減らされて、労働移動支援助成金という、要するにリストラしたらお金がつくっていうふうに助成金の性格が切り替えられてきたんですよ。
 今はさすがに、リストラ推進のほうに使うなんて話にはなっていなんですけれど、そもそも雇用保険制度じたい、この間、考えていた基本と、もう状況ががらっと変わって、今、守るべきところに来ているので、そこをきちんと、本当は議論して欲しいというところですね。

●荻上チキ ほかに注目点、例えば良い点とかはありますか。

●伊藤圭一 例えば、狙いは私はちょっと反対なんですが、副業・兼業がしやすくなるようにしてあげようというのがあるんです。
 副業・兼業の促進に向けて、雇用保険と労災保険、これ、今、一つの事業所で働くことしか想定していないんですが、例えば、本業で働いたあと、アルバイト先で副業をやっていて、そこで労災に遭ってしまうと。で、労災で体を壊したら、本業でも働けなくなっちゃいますよね。だけど、今の労災保険制度だと、副業先でケガをしたら、そこの賃金だけをもとに(労災給付の)金額の算定をするんですね。それじゃ生活できない、ということで、今回、本業も(含めて)、複数の、各事業所の賃金を通算して、それをもとに給付金の日額を計算するというふうに変えるんです。これは、いいことではあるんです。
 雇用保険の方も、ダブルワークで、例えば10時間のバイト、10時間のバイト、ということでやったら、合算すると週に20時間になったと。20時間を超えれば(正しくは20時間以上であれば)、雇用保険の適用に入るので、そういう人は雇用保険に入れてあげようという仕組みを考えて、これ、システム上、いろいろやらないといけないことがあるので、まずは65歳以上からやってみますということで、これも65歳が登場するんですけれど、まあ、高齢者から、ダブルワーク、トリプルワークの人について、雇用保険を適用してあげるような仕組みにしようということを入れたりとか。
 あと育児休業について、今、失業給付と合算してやってしまっているのを、徴収の段階と、あと会計も分けて、ちゃんと整備しよう、と。これ、悪くはないんですけれどね。
 育児休業を取る人は、金額ベースで、毎年10%くらい増えているという、これはいい傾向があって、片方で、この間、雇用情勢がよかったので失業給付の方は減っているというので、今回、1000分の6という徴収率のうち、1000分の4を育児休業にあてて、失業者の方は1000分の2にしちゃえという、これはこれですごく乱暴な法律になっているんですよ。で、私はその、1000分の2の失業(給付分)っていうのは、いかがなものかと思っているんですが、今の情勢からみて。
 このように、いいところもありながらも、反面の、失業対策の弱さあたりなどは、ちゃんと今は、考えなきゃいけないなというところだと思います。

●荻上チキ なるほど。これが今週金曜日(3月13日)からの審議スタートになったという。

●伊藤圭一 そうです。13日と18日(の審議だけ)で、もう、(衆議院厚生労働委員会で採決して本会議に)あげちゃうなんて話も出ています。

●荻上チキ 早っ。でも、それだけ短期で通ると、実はここで通ったものが、今後、年齢を拡大していったり、対象を拡大していったりということになりうるわけですよね。

●伊藤圭一 さっきの高齢者雇用安定法、もう、安定法じゃないですよね、高齢者不安定化、フリーランス化計画みたいな法案がさっと通ったら、これ、参考人(意見陳述)もつけないで、(委員会採決をして本会議に)上げるつもりらしいんです、情報では。まあ、まだ決まってませんけれど。
 たくさんの論点がある、他にもいっぱいあるんですけれど、(そういう法案が)その中に埋もれて、さっと通って、でもそのあと、恐ろしい効果を発揮するということがあると思います。

●荻上チキ これは、ちょっとまた改めて、スタジオに来てください、伊藤さん。

●伊藤圭一 はい。ぜひこれは、やらせてください。