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TomoPoetry、わたしの影

朝陽にはるかまでひっぱってのばされ
手が天竺にとどくところで
影は生きることをやめる
裂けた電信柱や
頭の欠けた塔や
腐敗した組織
そして自分の影を見ることがない
金属の枠でできた誇り

どのような思想であろうとも
影を忘れていては
死にゆく肉体にかけることばを持たない
自分が死にゆく時の姿勢を想像できない

一日を始める
のびた影はゴミを集め
あいさつを数回するが身体は曲がらない
数十年の悪夢
毎夜の快楽の想像
そして 刻まれる形
キャベツの芯といっしょにゴミ袋に投げいれる

昼になると
すべての影は小さくなるが
わたしの影は長いままとまどっている
ひとびとに踏まれ
みんながそれぞれのポケットに握っている時間
わたしの影は薄い生地のピッザのように
のばされる
生きつずける無数の脚によって あるいは
生きつずけようとする無数の
忘却によって

中華食堂の厨房までのび
餃子のたれの靴跡の模様がつく
仕事場では入り口からトイレまでのびるので
ハイヒールで穴があき
台車のあとが線路のように残る
ゴム長の跡の影
金属で切断された影
骨といっしょに炎に入った影
赤いヒールで穴あいた影
ワインに染まった影
産衣に包まれた影

夜がくると
わたしはわたしの影を見失っている
影のないわたしは
ベッドに横たわっても落ち着かない
シーツにもトイレの壁にもわたしの影がない

間延びしたわたしの影は
都市よりおおきくなり
あちこちのアパートの廊下や
恋人たちがころがるベッドまで入り込んでいる
すべてのビルの屋上から地下室までおおう
地球は夜になり朝がこなくなる

まっくらな一日の始まり
わたしの影がささやく
もう誰にも影はない
誰にも陽射しがないように
わたしはかれの影を踏み
かれはきみの影を踏むが
同じひとつの影になっているので区別がつかない

ときどき影の無い鳥が
輝く眼をまっすぐにわたしたちの影を
破って飛んでいく

風が破れた影をゆらゆらさせている
心地よさを予告するように
わたしの大地にひろがった影が揺れる
その隙間から見えるもの
わたしたちの影でないもの

それは決してこの地上にはおりてこない
影ではないし
影をもたないから しかし
わたしたちは待つ
その影にひざまずくときの
安堵と
擦りむいた膝の痛さを

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