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TomoPoetry、かれかけた紫陽花に雨が降る

生まれて
最初の傷が額にある
一歳半
歩きはじめ
触れる世界はわたしのもののように
地球の
体温やよろこび
かなしみも感じた時

となりの邦のパッションフルーツを食べた
おじさんは
わたしを見ているようで
わたしの奥 あるいは
わたしの向こう側を見る目

わたしの秘密のノートに一行追加された

その時
パッションフルーツの枝が
額につくった傷
歳とるごとに
大きくなる

今は
わたしの額から足首まで
ふたつに分かれてある
赤と青

わたしは素人である
この星にはじめて生まれた
人として
男として
生きるものとして
父として

わたしの息子や娘たちは
わたしの息子や娘である印をもっている
額から足首まで

わたしには印が見えない
ある時印は消える それとも
わたしが消える
と父は告げた
膵臓に
雲の隙間から青空がのぞいているような
癌の写真を見ながら
父の空は
消えた

次は
血と青空がほそくながれる
わたしの傷
あるいは 血と青空を抱きしめたままの
わたしそのもの

その時が
今朝なのか
はるか未来なのかわからない

桃の缶詰をあける時に指を切った
枯葉剤で
かなしむこどもが生まれる
原子力で
表に出てこない崩壊がおこる
わたしたちの魂に
永遠に残る傷は
ついているだろうか

レモンシャーベット
サトウキビのダークラム
触れ合う腰
そして人生はすぎていく
魂が
ドーム球場から飛び出ていくまで
ひとつの傷をもって

きみは言う
しばらく傷を忘れてはどう

わたしたちは
その結果を知るのだろう
死を越える時

江戸川に花火がうつる
消える
わたしたちが渡る河には
灰と記憶と
かなしみの色素が積もっている

きみを抱く
地球を抱く
宇宙を抱く
手を伸ばしてとどかない
死の向こうの邦のあなたを抱くとき
わたしは知る

だれもがもつ額の傷
血のながれと
見えない青空
乾いていく星

ときに
傷を冷やしてくれる雨
びっしょり濡れた
枯れかけた紫陽花が
雨にぬれて
傷が
削られる川底のように
ひりひりと痛む

ハンカチで拭く
大丈夫
あかく滲んでいるわけではない

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