眠りつづける
電車はどこにむかうのか
河をわたり地下をはしり
眠りの下をくぐっていく
太陽系の寝息
溶岩の波音
氷河のように割れるガラス窓
眠りつづける
金を生む鶏
核実験にゆれるスカート
ひたすら眠ってきた
ウィンクするように わたしたちの片方の目
アフリカからの奴隷船
大西洋に投げこまれる肉体
肋骨に金具を入れるイギリスの紳士
殺されるひとびと
埋められたひとびと
波音を聞きながら
肉を刻む俎板の音を聞きながら
わたしたちは眠る
わたしたちの空に死のにおいはない
わたしたちの道に鳥は落ちない
わたしたちの耳に叫びは聞こえない
フランスの服
シャキシャキしたシリアル
ロボットと寝る快楽
まだ眠るだろう
起こされるまで
わたしたちの視線には棘がある
わたしたちのキスはにがい
抱き合う時哀しみがすきまに入り込んでくる
氷河期が終わり
地表が崩壊してガラスの粉になる
人類のかなしみの香り
空が砕けて降る時
寝室の扉をしたから血が流れてくる時
シーツが死をつつむ時
わたしたちは気づくだろう
眠り過ぎたことを
寝室はいつものように
ものがなしい
心と記憶を枕に残して
朝が始まる
枕のしたには時間の河が流れ
わたしたちの罪と
かれらの夢が語られないまま
波音をたてている
愛するきみはまだ眠っている
きみの眠りも
波音をたてている
膝までびっしょり
濡れながら
水のなかを地下鉄の駅へ向かう
お茶の水で
水の上をわたる
まもなく靴が乾く
きみも目覚めるころだ
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