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アルベルト・バルドナードへ捧ぐK愛文書

〜出会い〜


 2023年の2月
大学受験のまっ最中、ニュースでは侍ジャパンの情報が日を重ねるごとに増え、WBC開幕への機運が高まっているのを感じていた頃。
私自身も来たる国際大会へ心を馳せる中、心の中で浮かばれぬ気持ちが少々ではあるが存在しました。
これは受験勉強のストレス?合否への不安?
否、この心にポッカリと空いた穴はそんな物ではありません。

チアゴ・ビエイラ
私の初恋の人。
2020年に地球の裏側からやってきた彼は当初、所詮どこにでもいるノーコン豪速球助っ人外国人投手のメガネという印象に過ぎませんでした。
しかし夏の暑さが過ぎ、すっかり垢抜けてメガネを外した彼は、私にとってドタイプの男になって…。
そこからの彼はそれはそれはもう凄かった。
平均157km/hの豪速球と落差の大きいスライダーで空振りを量産。外国人投手の連続試合無失点記録の更新やNPB歴代最速の166km/hを記録し、一時は栄光ある読売巨人軍の守護神の座を担う事も
当時のバカな私は、いつまでもこんな日々が続くんだと考えていました…。

2022年、オープン戦から不調が続き、マクブルームに頭部死球をぶつけ退場となって以降は転落。空いた守護神の座にルーキーの大勢が定着した事もあり、彼の居場所はいつしか無くなっていき…。そして8月、二軍での試合中に左足を骨折、この一報を見た時、私はこれまでにない絶望と喪失を味わい、別れを確信しました。
神様は親切だ。私達を出会わせてくれた。
でも神様は意地悪だ。私達を別れさせた。

「今、彼は元気にやっているのだろうか?」
怪我以降、私の心にはビエイラの退団という深く大きな穴が空いてしまいました。しかしチャンスはまだある
それは10月に開催されるWBC予選、そこでブラジルが勝利し、ビエイラが本大会の大舞台で守護神として躍動する姿を見る事。これによって彼の現在を確認する事さえできれば、この穴も少しは埋まる気がしました…。
しかしこの夢はある国によって夢のまま終わってしまいます。そのある国とはパナマでした。

勝てば本戦進出が決まる決勝ラウンド。ここでブラジルは無念の敗戦を喫し、結局私の夢は実現する事なく終わってしまいます。
そのパナマの守護神としてブラジルの前に立ちはだかり、最後は歓喜の輪の中心にいた背と顔の大きな男、アルベルト・バルドナード…。

これが私と彼のファーストコンタクトでもあり、ワーストコンタクトでもありました。

〜来日〜

 その年の巨人の中継ぎはそれは何とまぁ目も当てられぬ惨状だったのは記憶に新しいかと。
勝ちパターンで田中豊や鍵谷が146キロの直球を投げ打たれ、頼みの大勢も夏頃に故障離脱。中川の復帰でなんとかプロ野球チームとしての形を保っていた状態。
そんな過酷な日常がだらっと続いていたある日の朝、報知のツイートにとある情報が書かれていました。

何という神の気まぐれか。かつて私と彼の再会を引き裂いた男が、途中補強の選手として私の贔屓にやってくるとは夢にも思うまい。

様々な情報や映像を見た私の印象は、バルドナードの球速は150キロ前後を出し、そこにスライダーとチェンジアップを投げ込むパワーレフティといった感じ。コマンド能力は低いものの、四球自体はマイナー&ウィンターリーグ全体を通しても破綻しているレベルではなく、何よりも常に投球回<三振数を記録する高い奪三振能力は私にとって非常に魅力的でした。

〜来たる2023年夏〜

 そして私の期待は見事に的中。
来日初登板となった神宮でのヤクルト戦ではオスナにいきなり被弾し、虚カス内で懐疑的な声が上がるものの以降無失点投球を継続。
常時150キロ前後の直球と落差が大きく左右どちらにでも使えるスライダー、投球割合こそ低いもの対右打者の決め球に困った際、非常に効果的になるチェンジアップ。これらを駆使し、2023年は21試合に登板し、21 1/3IP, 1.69ERA, 21K, 10BBの好成績を残しました。バルドナードは常に炎上状態だった巨人のリリーフ陣を支える神助っ人となったのです。

そして彼が投げる度にこう思うのです。「あれ、似ていないか?」と。そう、昔別れた元カレに。
豪速球を連発し決め球はスライダー、ピンチの時には必ず現れ抑えた時には吠える。そして試合が終わり、練習やベンチで見せる少しあどけない笑顔…。
バルドナードの全ての仕草一つ一つがビエイラを思い出せて仕方が無いのです。

(走ってるバルドナードかわいいね)

そうしている内にいつしか私の心の中に一つの感情が芽生えたのです。「」です。

愛しのバルドナード

 迎えた2024年、バルドナードの活躍は止まる事を知らず。西舘・大勢らと共に巨人の勝利の方程式を担い、4月26日現在まで11試合連続無失点を記録。奪三振率・whipはそれぞれ12.66&0.56と脅威の数値を記録し、名実共にNPBリリーフ最強格の称号を手にしています。

そうして無双する彼の姿を見ていると、私の頭の中に一つの悩みの種が芽を出すのです。
「彼もまたMLBの地へ行ってしまうのではないか」

ビエイラは巨人退団後にブリュワーズと契約。今もなお現在の豪速球とスライダーで大リーグの名だたる打者相手に腕を振り続けています。
今のバルドナードはNPBトップクラスの実力を持つ左腕。このまま無双を続ければビエイラと同じように、いつかアメリカからお声がかかる可能性が。

勿論、彼の事を第一に考えればそれが一番良い事でしょう。ただし私にとっては別、彼との関係をまだ終わらせたくなんかない。
だからといって今から失点して、海外球団からの評価を下げてほしくなんかもない。
ずっとこのまま無双し続けて巨人に勝利をもたらしてほしい。
でもそうしたら別れの可能性が高まってしまう。
そんなどうしようもない無限ループが頭の中をグルグルと駆け巡るのです。

もう私は前と同じ別れを繰り返したくない。
あなたといるこの日々を忘れたくない。あなたの投球をもっと堪能したい。一球一球を網膜に焼き付け絶対に忘れない。巨人を優勝へと導いてほしい。

もうどこにも行かないでおくれ、愛しのパナマ人、アルベルト・バルドナード。


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