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バナナケチャップはどこで買えるのか?



私は東京で英語関係の仕事をしている。
今の仕事を始めてしばらく経つが、以前はフィリピンに関わる仕事をしていたし、大学時代はフィリピンについて専攻し、長期の休みにはマニラを何度も訪れた。

ここのところ、フィリピンには縁のない日々を過ごしていたが、ふとある「買いたいもの」が頭から離れなくなった。

それは、トマトケチャップならぬ「バナナケチャップ」。
輸入食品店ならどこにでも売ってそうなのに、それがなかなかお目にかかれない。
新宿、新大久保、池袋、吉祥寺の街のエスニック食品店をのぞいても、どこも扱っていないのだ。

マニラ生まれの同僚曰く「オムレツにはバナナケチャップ」。その味を知る人にはトマトケチャップでは満足できない「何か」がバナナケチャップにはある。そして私も何故だかその味を欲していた。

バナナケチャップはフィリピンの食生活には欠かせない。どこの家庭でも、実はトマトケチャップよりも常備されている。第二次大戦中にトマトが不足し、代用品として作られたのが起源らしく、洋食の浸透するフィリピンの食文化にその存在をどっしりと誇示する大衆調味料だ。

ところが、バナナケチャップといってもバナナ味ではない。
トマトケチャップに比べて酸味よりも甘みが断然強く、しかも使い方はトマトケチャップと同じ。その上、ケチャップと言いつつ原料にトマトは使われていない。「わざわざ赤色をつけてトマトケチャップに見た目を近づけたのでは?」との疑念は拭えないが、卵料理、フライドポテトやチキンをはじめ、何にでもかける。本来の料理の味が分からなくなるまで、ふんだんにあしらうのがフィリピン流だ。

正直に言うと、滞在当時はバナナケチャップをそれほど美味しいと思ったことはなかった。なのにこのところ、バナナケチャップまみれのオムレツをほおばりたい思いに苛まれるようにさえなっていた。

ネットで調べてみると、赤羽にサリサリストアがある。同じエリアにフィリピンレストランもあるらしく、ランチの後にサリサリストアで買い物のルートプランが頭の中で出来上がった。

ところが、だ。
数日休店の知らせがSNSに掲載されている。
フーム。恐らく赤羽の物産店は上野で予定されているイベント「フィリピンエキスポ」に出店するのではなかろうか。都心の輸入食料品店では入手できず、この日に赤羽の物産展が閉店となると、狙うは上野のエキスポ一択しかない。

ためらわず週末の予定をバナナケチャップに捧げることにした。

まずは上野駅から少し歩いたフィリピンレストランで腹ごしらえをし、イベント会場でバゴーン(発酵させたエビのペースト)をかけたグリーンマンゴーと、バルート(孵化前の鶏卵を加熱したもの)をサンミゲールビールで流し込む。一気にエンジンがかかり、他の料理もトライしようとするも、どこも屋台は長蛇の列。いや、列ではない大混雑の人だかり。念願のハロハロかき氷にも到底たどり着けず、断念してしまった。

さて、目的を逸しては本末転倒。
食料品ブースへ、バナナケチャップを探しに。

一軒目、二軒目、三軒目。

どこにも見当たらない。

最後の列の小さなブースで望みをかけて聞いてみる。

「バナナケチャップはありますか?」
「あら、さっきまであったけど売り切れたよ」

思い描いたプランが成就せず残念この上なかったが、この日の購入は諦めて帰途に着いた。

しかし、こうなったら見つかるまで探すのだ。

ネットでググっていると、西武池袋線の清瀬にサリサリストアがあることが判明。サリサリとはタガログ語で「いろいろな」という意味だ。
翌日仕事を早々に切り上げ、清瀬駅で下車、ふれあいどーり商店街を歩くこと数分。

そこには決して広くはない店構えでも、中々充実した文字通りの「サリサリストア」があった。送金サービスもやっているらしい。日用品や冷蔵、冷凍、インスタント食品、飲料、スパイスが所狭しと並んでいる。

あった!ありました!!

スタンダードなメーカーUFC。
同じくメジャーなPAPAという商品も、欠品だったが取り扱いはあるようだ。

朝食はオムレツに、バナナケチャップをなみなみと。

蒸し暑いマニラの空気と、途中だった歯の治療を同時に思い起こす、昔ながらの甘い甘〜いバナナケチャップだった。




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